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17③

 意識を失ったセオドアさんが心配なのか、メリッサは片時も離れそうになかったから、俺は一人で薬屋に戻った。

 そして、セオドアさんの言った通りに、奴等に麻痺を防ぐ薬をを作った。

 素材さえあれば、ライブラリーで手順を確認しながら作っていけばいいだけなので、ミスはしない。

 油断すると怒りで手元が狂いそうになるから、途中何度も休憩を挟まなくてはならなかったが、一日で出来上がった。

 そこから何もかも忘れたいがために眠った。

 夕方病院に行くと、泣きつかれたのかメリッサはベッドに持たれて寝ていた。

 出て行こうとすると、セオドアさんを診てくれたドクに呼び止められる。


「お前さんには伝えておくが、セオドアさんの足の傷は深く、ゆっくりと歩く事は出来るかもしれないが、日常生活を送る事すらも困難になるだろう」

「……そうですか、本人には?」

「伝えてある」


 あんのクズ冒険者のせいで……そう思うとやりきれない気持ちと、もっとちゃんと止めなかった不概なさに襲われる。


「お前たち二人でセオドアさんの面倒も見るのも大変だろうから、勝手ながらセオドアさんの息子に連絡した。今大急ぎで向かっているとの事だ。一応覚えておいてくれ」

「……分かった」


 俺はこれからの事に不安を覚えながらも、冒険者達の居場所を聞くためにギルドへと行った。

 ギルドに聞くと、今日の依頼を終えシビルの店に居ると言われたから、行くと酔っ払ったまま大声で話していた。


「ほんとうに麻痺を防ぐ薬を持ってくるのかな?」

「持ってこなかったら、また泣き落としすればいいんだよ。ちょろいからな」

「ほんと、便利だよな。ちょっと泣いた真似すればタダで薬を作ってもらえるんだから」

「本当、本当」


 その言葉を聞いた俺は、シビルが止める前に走り、そのスピードのまま、一番近くに居た男の頬を思いっきり殴っていた。

 歯を二、三本飛ばしたから、マックスに及ばずともいいパンチではあった筈。

 そして、薬を叩きつけた。

 シンと静まり返った店の中で俺は叫んだ。


「この薬のせいでセオドアさんは歩けなくなった。その事を忘れんなよ!!」


 それだけ言ってから、三人組の反応も見ずに店から出た。

 そして、真っ直ぐに病院へと戻った。

 冒険者の一人を殴った時に、右手の骨が折れたからだ。

 今まで人を殴った事なんか無かったから、完全に力の入れ方が分からなかった。

 ドクには呆れられたが、それでもまだ足りないとは思っている。

 薬屋はその間閉める事になった。

 薬を作る俺の手が折れているから当たり前だった。

 メリッサはポーションなどは作れるが、販売する資格が無い。薬を店で販売するのには薬師教会に入らなくてはならず、その為には試験を受ける必要がある。

 その試験には年齢規定があり、16歳以上が対象になっているから、そもそもメリッサはまだ受けられなかったから仕方のない事だ。


 しばらく店と病院の往復を続けている間に、セオドアさんの息子がやってきた。家族のみの話し合いに俺は参加出来ないため、しばらく宿に泊っていた。

 セオドアさんは「年を考えろ!」とこっぴどく叱られたらしい。息子には逆らえないのか、シュンと小さくなっていたと、メリッサが小さく笑っていた。

 息子さんはこの町から馬車で一日離れた港町で別の商売をして、嫁も大きくなって仕事を既に手伝っている息子もいるらしい。ここ5年ほどは忙しくてダックウィードの町に来ていなかったらしいが、以前は来ていてメリッサとも顔見知りだった。

 3人での話し合いの結果、セオドアさんは息子さんの住んでいる町に移住する事になった。

 息子さんは今いる町から離れる事も出来ない。しかし一人で生活する事の出来ないセオドアさんをこの町に残す事も出来ない上に、メリッサも春から学園へと入学する。その間他人である俺に迷惑をかける訳にはいかないという話になったそうだ。

 その代わり、店は卒業したらメリッサが引き継ぐ事になり、その間俺が店長として切り盛りする事になった。

 これからどうなるのか不安だった俺には有り難い話だったから、特に何の文句もなかった。


「ナルには迷惑ばかりかけるな。こんな駄目な上司で悪かったのう」


 旅立つ日にセオドアさんに言われたが、俺は首を振って否定した。

 確かにセオドアさんには悪い所もあったが、それ以上に行く所が無かった俺に優しくしてくれたという感謝の思いが強かった。むしろ、悪い所も含めてセオドアさんという人だったのだと、宿にこもっている間に納得したのだ。


「この町にも頻繁に来れなくなるかもしれんが、薬屋とメリッサを頼んだぞ。このダンジョンのある町で薬屋はアキレス腱と同じじゃからな」

「分かってる。俺は俺のやり方でセオドアさんのやっていた薬屋とメリッサを守っていく」


 俺が言うと「相変わらずナルは真面目じゃな」と笑って馬車に乗って、この町から去っていった。




 その間に冒険者たちはサンダーチーグルの討伐を行っていた。せっかく麻痺の効かなくなる薬を使ったのにも関わらず、あの三人組の冒険者が足を引っ張り、サンダーチーグルを討伐する事は叶わず、予想以上の被害をだして逃げ出したという。

 そこで誤算が起こった。

 手負いのサンダーチーグルの討伐には、近隣の町全ての冒険者ギルドで募集がかかり、ダックウィードの町のギルドも例外ではなかった。

 その際に冒険者の安全のためにも、各町のギルドでポーションを格安で提供しようという話になったのだが、ダックウィードのギルドにポーションの在庫はほとんど無かった。

 普通のギルドでは、緊急時の為にギルドにもポーションや薬があるのだが、セオドアさんが欲しがる冒険者にタダ同然でポーションを売っていたから、わざわざギルドでポーションを買う冒険者は居ないという事で、ギルドは在庫をほとんど用意していなかったのだ。

 その事により、他の町のギルドが多くポーションを提供しなくてはならなくなった。そもそもサンダーチーグルを撮り逃がしたのもダックウィードの冒険者達で、なんでそのケツを吹かなければならないんだと、随分と白い眼で見られたという。

 当時のギルド長が薬屋に駆け込んだらしいが、俺は宿に泊っていて、セオドアさんもメリッサも病院に居たから、全くもってそんな事態を把握していなかった。

 まあ、そもそも聞いた所で骨が折れていたから無理だったと思うが。

 しかし、俺の不在を嫌がらせだと冒険者達が言い始めた。

 シビルの店で俺が怒鳴り散らしたあげくに、暴力を振るっていたのは大多数の者が見ていたしな。

 その怒りが解けず、俺は嫌がらせのためにポーションが作れるのに作らなかった嫌な奴だ。一部の冒険者の怒りを他の冒険者にポーションを作らないという形で仕返しするだなんて、卑怯な奴だ。という噂が広がってしまったのだ。

 なんとか大勢の冒険者たちの協力によりサンダーチーグルは討伐出来たが、噂は止まらなかった。

 挙げ句にセオドアさんが居なくなった事により、俺が追い出したと言われるようになった。

 だが、クズに何を言われようと関係などない。

 俺には他に守るモノがあるからだ。

 そして、もちろんポーションを常備していなかったとギルド長は、交代になった。



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