17②
長くなったので、分けてます。
「セオドアさーん、居ますかー?」
今日も三人組がやってきたので、俺は警戒心を上げる。
セオドアさんは体調が悪いのか寝込んでいる。元から年も年だし、体も強い方ではない。それに、メリッサが学園に行く事が出来てホッとした所も大きいのだろう。
メリッサは今の時間は教会で小さな子供を見ている時間で不在だ。
「セオドアさんは今寝込んでいていない。用があるなら俺が聞く」
「お前なんかに話す訳ないだろ。さっさと出せよ」
「そうだそうだ、お前なんかに話しても無駄だ」
怪しい。
またなんか高い薬でも用意しろとでも言ってくるのだろうか。本当にいい加減にしてほしい。
「お前ら、セオドアさんに頼み事をするんだったら、今までの分の金を払え」
「ぐっ」
「うるさい、セオドアさんが待ってくれるって言うんだからいいだろうが」
自分勝手すぎて呆れてしまう。
「どうしたんだね」
「「セオドアさん!!」」
ちっ、さっさと追い出せなかった。失敗だ。
「セオドアさん、寝てないと」
慌てて追い返そうとしたが遅かった。
「セオドアさん」
「俺たちには、セオドアさんしか頼れないんです」
「どうしたんじゃ?」
「実は今二つ向こうの街道に、サンダーチーグルが出ていて、その討伐に呼ばれたんだ」
サンダーチーグルはBランク相当の魔物で、定期的に王都が出している馬車道を邪魔してくるので、毎年のように討伐依頼が出る。この討伐依頼に選ばれる事自体が名誉のある事だ。
「今年は竜の炎が選ばれて、下っ端である俺達にも声がかかったんだ」
「で、この討伐で活躍出来れば、俺たちももっと上の立場になれるんだぜ」
「という訳で麻痺を防ぐ薬が欲しいんです。しかも一番高価の強い奴」
「一番効果の高いものというと、金貨20枚はするが、あるのかい?」
「それが……無いんです」
「本当に申し訳ないと思っているのですが、討伐後にお支払いをしようと」
「ごめんなさい、だけど俺たちは今回の討伐にかけてるんです!!セオドアさんなら分かってくれますよね?」
全く分からない。
そもそも一番効果の高い物は現物が置いていない上に、材料だってタダではない。間違ってもタダで渡していいものではない。
「はあ?ふざけんなよ」
「ナル、やめなさい」
「だって、無理っすよ。こんないつ返してくれるか分からないような奴等に、もう薬を渡す必要はない」
「ナル」
「分かった。これを最後にする。サンダーチーグルを討伐したら、すぐにお金を払ってもらうという事で、約束は守れるかい?」
「当たり前じゃないですか」
「俺たちがセオドアさんとの約束を破った事ありますか」
今まですぐに払うと言って払ってもらった事などないというのに、何を言っているのか。
結局引き受けてしまった。
しかし問題がある。
そもそも麻痺を防ぐ薬は珍しく、通常の薬屋には素材など置いていない。
「どうすればいいんだ?」
今の薬屋には、その素材を買いに行く為の金すらない。
かろうじてダンジョンに生えている場所はあるが、下層階の為護衛を雇う必要がある。しかし、そんな金などある訳がない。
「ワシにいい伝手がある。明日一日店番を任せてもいいか?」
「いや俺も行くよ。セオドアさんこそ体調が悪いんだから休んでないと」
一人よりも二人で行った方が安全だろ。
俺はその時勘違いしていた。
伝手があると言っていたから、隣町の薬屋にでも行くのかと。きちんと聞かなかった事を、今でも後悔する。
「いきなり店を閉めたら必要な者が困るだろう。ワシ一人で行くから店のことは任せたよ」
今まで一人で営業をした事はなかった。不審に思ったが、依頼を受けたのはセオドアさんだし、俺は任された事をやるしかない。
メリッサも不安そうにしていたが、言い出したら聞かないのは分かっているのだろう。納得はしていた。
言葉通りに、次の日セオドアさんは一人で出掛けていった。
そして、セオドアさんはその日帰ってこなかった。
おかしいと思ったら、次の日に病院に行ると連絡があった。
傷だらけでダンジョンの中で倒れていたらしい。
見つかった状況から、一人で薬に必要な素材を取りに下層階に行ったんだとわかった。偶然見つけた冒険者が居なければ、と思うとゾッとする。
意識は戻ったが、セオドアさんは重体だった。
「しくったわ……だが、素材は見つかった。早く彼らの為に薬を作ってくれ……」
「そんな事言ってる場合か、あんたが元気になって作ればいいだろ!」
「駄目だ。これはサンダーチーグルを倒すには必ず必要なのだ。儂が回復するまで、待っていられない。今すぐにでも、作らなければ、他の町にも被害が出てしまう。ナル、任せた」
そのように言われたら、作る以外の選択肢は無くなってしまう。
「メリッサ」
「おじいちゃん、ヤだよ」
「お前はワシの一番弟子じゃ、ワシが良くなるまで、ナルの言う事を良く聞くんじゃぞ」
そう言ってセオドアさんは、また意識をなくし、眠り込んでしまった。