17①
俺はダックウィードの町で、ただ一つの薬屋パランで働くことになった。
セオドアさんは、寂れた町では勿体ないぐらいの知識と技術をもっていて、それを秘匿する事なくメリッサと共に俺に教えてくれた。
そのおかげで、すぐに俺とメリッサは打ち解けた。
メリッサは最初は警戒していたが、同じ教えを受けている連帯感ですぐに打ち解けた。
幼い内に両親を失くしたんだ。仕方ないといえば仕方ない。
たった一人の身内であるセオドアさんをとられまいと必死だったのであろう。
町の人は、外からやってきた俺に関して警戒心が強かったが、一年半経つ頃には打ち解け……られているような気はしない。
セオドアさんといる時には話しかけてくる事もあるが、一人で買い物に行った時には、話しかけてくれない人の方が大半だった。
それでも、よく行くパン屋や定食屋の店員とは雑談を話すようにはなった。
メリッサのおかげだけどな。小さな子供が少ないダックウィードの町で一番年上のメリッサは子供の面倒を見るのが得意だった。
店前に立つのも慣れてきていて順調だった毎日だが、俺にはセオドアさんに関して、一つ不満があった。
「セオドアさーん、お願いがあるんです」
また来た。
冒険者だ。
今日は三人組のヘラヘラとした、明らかに低ランクの冒険者が猫撫で声でセオドアさんに話しかける。
俺が対応しようとすると、セオドアさんに止められる。
「何だね?」
セオドアさんは頼られて嬉しいのか、面倒くさがる事もなく対応に出る。
「実は、この前討伐で失敗してギルドのリーダーに怒られちゃって、せめて損失を出したポーションを持ってくるまでは帰ってくるなって言われて。でも俺たち金もないし、戻る場所もないし」
「お願いします、後で絶対にお金は返すんで、譲ってください」
恥も外聞もなく冒険者達はセオドアさんに言う。
「そうかい、それは大変だったな。それでも君たちが生きて帰ってこれただけでも良かった。何本必要なんだい?」
「ありがとう」
「今度お金が入ったらすぐに返すから」
そう言って冒険者たちは、お金を一枚も払わずに帰っていった。
「あいつら本当に返してくれるのか?」
この前も金も払わず持っていった気がする。
あいつらは王都を本拠地にしている冒険者のグループに入っている。確か名前は「竜の炎」。
総勢50人以上を抱える大きな冒険者のグループで、トップにはAランク冒険者が何人か居るらしい。貴族からの依頼も多いという。
しかし、大きすぎて末端まで目が届いていない事が実情だ。
難しいものや花形の依頼はトップグループの何人かが動き、他の下位のものはノルマやギルドに収めた金額によって中の地位が変動するという、中々にシビアなグループなのだ。
冒険者が買うものの中で一番高価なものはポーションだ。
そこにかけるお金が減れば減る程、経費が少なくなり納める金額も多くなり、地位も上がっていく。
せこい考え方をしている三人組なのだ。
セオドアさんは完全にカモになっているとしか思えなかった。
「別にいいんだよ。生きて帰ってきてくれれば。ポーション一本作るのに大した労力もかかっていないし。それに、本当に立派になって帰ってきてくれる冒険者も、中には居るんだよ」
騙されてるんじゃないか?
と思ってメリッサにも説得を頼んだ事があったが、セオドアさんは頑なに考えを変えようとはしなかった。
この店の店主はセオドアさんで、セオドアさんがお金を要らないと言っているのだから、無理に取り立てる事も出来ない。
困っている人が居たら無償で助けてしまう。
それは美徳であり、おかげで町の人達にも信頼されているのはわかるが、もう少し自分の家族の事を考えてもいいんじゃないかと思う。
おかげで技術はあるのに、この薬屋は儲かっているとは言えなかった。
しかも俺に影響を受けたのか、メリッサはこの店を継ぐ前には経営も学びたいと、春から学園に通いたいと編入試験を受け、合格していた。
途中編入は難しいのに、しかも特待生として合格するだなんて、とても誇らしいが学園に通うのは学費以外にも生活するだけで、バカみたいに金がかかる。
貯蓄があまり無い中、王都までの旅費を出すのにすら苦労したが、自分の跡を継いでくれるとセオドアさんは嬉しそうにしていた。
まあ、給料が支払われているうちはいいか。と目を零していた俺は、後に大変後悔する事になる。
すみません、ミスにより次の話が半分消えていた為、更新時間が遅くなります。
申し訳ありません。