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16

 夢を。

 夢を見ていた。

 昔の夢だ。

 学園の卒業を前に、俺は困っていた。

 就職する場所が見つからないのだ。

 準備をしていなかった訳ではない。

 むしろ、想定外の事が起きてしまったのだ。

 俺は給料が安定している上に生活保障もしっかりとしている、城付きの薬師の試験を受けた。

 幸いにも、スキルのおかげで成績は良かったので推薦がとれたのだ。

 そして、ペーパーテスト中にもスキルを使い、あっさりと難関だとされていた一次試験を通った。

 そこで第一の誤算が起きた。

 本来一次試験に通ったらすぐに二次試験があるのだが、その年は4年に一度の同盟国が集まった会議のある年で、二次試験の開催が遅くなった。

 通常だったら多数の求人が出てくる秋になる前に、城の採用試験は終わるのだが、予定が大幅にずれこんでしまった。

 通る自信があった訳ではないが、楽観視はしていた。

 一次試験で大多数が落とされ、その後の試験はあっさりと通る事が多いと聞いていたからだ。

 そしてギリギリの面接を何とか乗り越え、採用通知が届いた。

 しかし、その一ヶ月後に城に呼び出された。

 聞かされた話は、俺の採用を見送るという話しだった。

 どうも補欠候補のようなギリギリの合格だったらしい。

 そこに貴族の子息が問題を起こし、決まっていた部署ではなく何故か薬師として配属される事になり、規定の人数に達してしまったからだと説明をされた。

 当然納得がいかない。

 もし君が納得いかず城での勤務を希望するのなら、その問題のあった子息の行く筈だった場所に配属は出来ると言われたが、その部署には貴族しかおらず、平民である俺は肩身の狭い思いをするだろうと忠告をされてしまった。

 平民である俺には、何も言える事はない。

 その後焦って就職活動に走ったが、その間にほとんどの求人がとられてしまっていた。 

 本当は王都にある薬屋のどこかに就職したかったが、あっさりと全敗した。

 どこも俺が平民だと分かると採用する事はなかった。

 学園を卒業したら安泰だと思っていた俺は、大いに焦った。

 成績だって悪かった訳でもないし、きちんと教授からも推薦だって貰っているが、王都のほとんどの店では、平民だというだけで弾かれてしまった。

 平民を積極的に取り入れようとしているのは城だけで、結局王都の店ではコネが何よりも物を言うのだと思い知った。

 それでも働かなければ生きていけない。

 地元に戻るのは論外だ。

 俺は王都での就職を諦めて、いつまでも残っていたダックウィードの町の求人に申し込んだら、すぐにでも来て欲しいと言われた。

 卒業後に採用通知を持って薬屋に向かうと、待っていたのは温和そうな爺と、俺を睨みつけているまだ小さかったメリッサだった。


「こちらが薬屋のパランですか?」

「そうじゃが、冒険者だとしたら、先に防具屋に行った方がいいと思うが」


 全身を眺めたあとに不思議そうな顔をされる。


「違います。採用通知が来ましたので伺いました。ナルといいます」

「勘違いして申し訳ない。この町に来る若い人は、冒険者を目指している者が多いからな」


 大丈夫かよこの爺。

 町も寂れてるし。


「見て分かる通り、ワシも年でな。冷やかしかと思ったが、募集はかけるもんじゃな。若い人が来てくれてとても嬉しい」


 お世辞でも喜ばれてほっとした。


「ワシはセオドア。こっちはワシの孫娘でな。ほれ、挨拶しな」

「メリッサです」


 小さい声で名前を言うと、メリッサはセオドアさんの後ろに隠れた。

  

「少し人見知りしておってな、気にしないで欲しい。それじゃあ色々教えるからな。住み込みと聞いていたが大丈夫か?」

「はい」


 小さな子供が居るとは予想外だったが、別に実家にも同じような子供が居たから慣れてる。


「じゃあ部屋を案内する」


 よし、ある程度経験を積んだらまた職を探そう。

 新卒ではなく経験者を募集している所もあるだろう。

 話を聞くと、メリッサの親はメリッサが生まれてすぐに離婚をしたらしい。親権をもぎとったメリッサの母はこの町に戻ってきたが、長年の苦労がたたったのか昨年亡くなってしまい、今は二人で暮らしているという。

 少し頑固な所はあるがいい子だから構ってやってほしいと言われれる。

 面倒くさいが、それぐらいは慣れているから良いと答えておいた。


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