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14

 階段を降りた先は、ギルドで聞いた情報とは違いジャングルではなく、穏やかな花畑だった。


「なんだ、俺は夢でも見ているのか?」


 マックスが不思議に思うほどの穏やかさだった。

 一面に色々な花が咲き乱れ、側には小川がサラサラと流れている。

 川の水は透き通っていて、魚が普通に泳いでいる。

 もちろん魔物ではなく、一般的な魚だ。

 そして、小高い丘に背の高い木が一本あった。

 木の中に木があると言うのも不思議な感じだったが、ダンジョンの事を深く考えても無駄だ。

 そういうものだと思うしか無い。

 しかし、何故魔物の姿が一匹も見当たらないんだ?

 まあ花とかに擬態してる可能性もなくもない。

 踏み入るのも躊躇う程の中を、目標も何も無いから木を目指して歩いていく。

 俺たち三人がダンジョンに足を踏み入れると、扉と階段は消えてなくなってしまった。帰る道はなくなってしまった。

 こんな現象も聞いた事もない。


「進むしか無いという事か」


 イーサンの声は俺の気持ちとは裏腹に弾んでいる。

 何が楽しいんだ?

 こんな得体の知らない場所に閉じ込められて。


「あの木に咲いてる花って、祭りの夜に咲いていた花と同じじゃないか?」


 随分距離があるのに良く見えるな。

 さすがマックス、野生に近い。

 とりあえず目指すものも無いから、巨大な木に向かって歩いていく。

 未知の場所に足を踏み入れるからか落ち着かない。

 今日中に帰れるのだろうか?


「もっと近くで観察してみないと分からないが、色は似ていると思う」


 危険なものが無いか軽く周囲を確認をしながら、マックスを先頭に進んでいく。

 ポーションを作るのに適している花を見つけ思わず立ち止まるが、二人は気にせずに先へと進んでいく。

 別に危険はなさそうだから先に行ってもいいが、一言ぐらいあってもいいだろう?


「本当にダンジョンの中なのか?今までと雰囲気が違いすぎる」

「王都近くにあるダンジョンは屋敷の形をしているのに、中に入ると砂漠が広がっていると聞いた事がある。それに比べれば、暑くもないしマシな方だろう」


 俺は一応手元に採取した花を鑑定する。

 すると「シュロキ草?」と表記される。

 もしかして別のものなのか?

 観察しても違いは見つけられない。

 後で確認するしかないかと袋に入れる。

 足を踏み出した所で、何かに服を引っ張られる。

 どこかに引っ掛けたか?と引っ張られた方向を見ると、小さな妖精が居た。

 妖精だよな?

 サイズは手の平に収まるぐらいで、女の子のような顔をしていて背中に二対の羽がついて浮いている。

 お伽噺でしか見たことのない存在に、魔物かもしれないと警戒を強めた所で話しかけられる。


「ねえ、何しに来たのー?」


 妙に間延びしたような声に、一気に気が緩むのがわかる。

 それよりも「しゃ、喋った!!」と驚きの方が先に来る。

 俺の声に戻ってきたイーサンが、その妖精もどきを片手でがっしりと握る。


「きゃー、離して!!」

「これはまさか、ピクシーか?」

「こらー、離せ!」

「野蛮な人間め!」

「何で人間がこんな所に居るんだ?」


 何か分からないがピクシーが叫ぶと、どこに隠れていたのかワラワラとやってきてまとわりついてくる。

 ピクシーなんて文献でしか読んだ事ないぞ。

 ダンジョンが発生する遥か昔に、存在していたという存在で、妖精の一種だが悪戯好きだというのは聞いた事がある。

 俺は慌ててライブラリーで、ピクシーについて検索する。

 やっぱり伝説の存在と化している。

 イーサンは大人しく離したがピクシー達は怒っている。


「謝れ、人間!」

「そうだ、やっつけちゃうぞ!」


 ピクシーが呪文を唱えると魔法陣が浮かぶ。

 嘘だろ、そのサイズで魔法を使うのかよ。

 大きさから大した威力ではないという事は分かるが、この数でくらうとマズイ。


「ちょっ、たんま!」

「イーサン謝れ!」

「何がだ?」


 くそっ。

 俺は収納袋の中で液体に浸した指を、一番近くで騒いでいたピクシーの口に突っ込んだ。


「モゴモゴモゴ」


 最初は戸惑っていたピクシーは、どんどんと笑顔になってペロペロと指を舐めた。

 異変を察した周りのピクシー達は、呪文を唱えるのを止めて俺をじっと見ている。

 指につけたものが無くなったからか、ピクシーが口を離すと満面の笑みで聞いてくる。


「ねえ、まだこれある?」

「ある。驚かせて悪かった。皆で食べるといい」


 俺は瓶を出して蓋を開けると、ピクシー達は我先にと瓶に群がった。


「助かった。さすがにこの数で魔法を撃たれたら、無傷で切り抜けるのは難しい」


 それは自分の事かピクシー達についてなのか判断が出来なかった。


「ナル、何したんだ?」

「ああ、トゥリパの蜜だよ。文献に載ってたんだ。ピクシーは花の蜜とか甘いものが好きだって」


 探索中に手軽に甘いものも採れるし、薬にもなるから少量は毎回準備している。

 俺たちにとっては少量だが、ピクシー達の大きさからしたら十分の量だろう。


「まだある?」

「ある。ここから出してくれれば、もっと出してやる」


 そう言うとピクシー達は集まって何やら相談し始める。


「どうする?」

「悪い人じゃなさそう」

「女王の所に連れて行く?」

「そうする?」


 女王ってもしかして、名前からしてピクシー達のリーダーだろうか?


「心優しき人間達よ。今から我らが女王の所にお連れしよう」


 さっきと言ってる事が真反対だがいいのだろうか?


「女王?」

「そう、僕たちを守ってくれてるんだよ」

「行こうよ!」


 どうせ行く場所もないから、ピクシー達に引かれるままついていく。

 その間に収納袋から、色々な蜜を出しておく事は忘れなかった。

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