13
メリッサにもダンジョンに行くと伝えたかったが、帰ってこなかった。
一応置き手紙もしたし、大丈夫だろう。
イーサンだって初めての探索で、泊まる事なんて想定していないだろう。
してないよな。急に不安になってきたぞ。
俺はダンジョンに潜る際にしか使わない軽い革の鎧と、バッグの中身を点検していると、マックスとイーサンがやってきた。
いつもよりも随分と早かった。
簡単な朝食をとってから、早速ダンジョンへと向かう。
朝も早いというのに、ダンジョンには沢山の人が集まっている。
その中に、城の魔術師のローブを来た奴らが混ざっているのを発見してしまった。
「よう、イーサンも潜るのか?」
彼らは俺とイーサンを見て、鼻で笑った。
「護衛はそれだけで十分なのか?見た所一人は戦闘職だが、もう一人は違うだろう?」
まあそうだが。
「ふん、私が居れば他に何人居ようと関係ないからな」
「わざわざ心配してやたのに、何だよ、その言い方」
「私の心配よりも、さっさと解明したらどうだ?もう何日も潜っているのに、何の成果も上げていないんだろう?」
「うるさい、行くぞ」
なんで入る前から挑発しあってるんだよ。
順番を待ってから入る。
ダンジョンの中には転移陣が設置されている。
これはギルドが城に許可をとって設置するもので、ダンジョンでしか使えない。
初めに攻略をした人が階層の事を伝えると、ギルドが確認に行く。そして問題がなければ設置をする。
大体五階層ごとに設置されていて、ギルドカードをかざす事で起動する。
一度行って登録すると使えるのだ。
一番進んでいるマックスがかざす。
行くのは28階層だ。
ダンジョン初心者であるイーサンを、いきなり未知の階層に連れていくのは無理があるからだ。2層手前から慣らして降りていき、行ける所まで行くというのが今日の流れだ。
珍しくイーサンも納得している。
28階層は草原の層だ。
あれだけ人が居たはずなのに、誰も居ない所を見ると、みんなさっさと下へと行ったみたいだ。
早速出てきた魔物を、マックスが斬り伏せる。
特に金になりそうな魔物ではなかったから、魔石だけとって放置する。
ダンジョンに発生した魔物の死体は、しばらく放置しているとダンジョンに吸収される。
処理の手間がかからないから楽だ。
イーサンは興味深そうにキョロキョロと見ている。
「木の中とは思えない程頑強だな」
「ダンジョンは木ではないだろ?」
マックスとイーサン、どちらの意見も正しいと言えば正しい。ダンジョンの物質が何なのかがわからないからだ。
「この階層は最短距離でいいよな?」
「ああ」
地図を見ながら進んでいくと、すぐに魔物に遭遇する。
「次は私が」
イーサンが呪文を唱えると、すぐに魔法が発動して大量の火の玉が魔物を焼き尽くしていく。
「ふん、こんなものか」
「こんなものかじゃねえよ。魔石が取りづらいから丸焦げは止めろ」
魔物は動かないがプスプスと音を立てていてすぐに触れそうにない。
俺はゲッコの皮で出来た手袋を嵌めながら、魔石をとるためにナイフを突き立てる。
「うるさい男だな。魔石なんて些細なものどうでもいいだろ」
いや、結構いい金で取引されるんだぞ。
俺は無視して魔石をほじくり出して袋に入れる。
最後に分配しようと決めているのだ。
その後も最短距離を順調に進んでいき、最下層と思われていた30階層の扉にたどり着く。
このダンジョンは最下層にハイオークが居る。
と言ってもÇランク冒険者が三人も居れば倒せるぐらいの強さで、売れるものは肉と体の一部で、精力剤の材料になる。
そう、その程度の強さのボスしかこのダンジョンには居ない。
他のダンジョンには普通にハイオークが階層にうろついている事もあるらしいが、あまり行った事がないから知らない。
そして、最下層の魔物は一度倒すと、一時間は出てこない。
俺は炎に当たらないように盾の後ろに隠れ、イーサンを守りながら援護として持ってきた薬をなげつける。
怯んだ隙にマックスが引き付け斬りかかり、イーサンがその間に呪文を唱え、あっさりと倒した。
腹も減ったから、ここで休憩をとる事にした。
準備しておいた弁当を渡すとマックスは早速食べ始めた。
俺は魔物の横で食べたくなかったから、解体してからにする。
高く売れる肉の部位と精力剤になる一部を切りとる。
そして魔石も。
イーサンは興味深いのか、ベタベタとダンジョンの壁を触っている。
解体が終わった所で、イーサンに水を出してもらって、手を洗ってから食事にする。
イーサンは何が気になるのか、ずっとボス部屋を確認している。
「下に降りないのか?」
「ああ。私はダンジョンの異変は新しく出来た階層ではなく、この階層に秘密があると思うのだ。今までここが最下層だったはずだろう?」
いや、絶対あいつらの事を意識してるだろう。
今から追いかけた所で、あいつらより先行する事は出来ないし。
まあそっちの方が俺にとっては安全だからいいが。
マックスはヒマだったのか筋トレを始めている。
俺は寝不足な事もあって、休憩しようと片付けてから壁に寄っかかったと思ったら、壁が消えた。
「うわっ」
「ナル」
縮地で距離を縮めたマックスが俺の腕を慌てて引き寄せる。
壁だと思っていた所にはぽっかりと穴があき、階段が続いていた。
「なんだ、これ?」
「見せてみろ」
ハイオークを倒した時に出現した階段と別の階段が出現している。
ただ、こちらは一人が通るのに精一杯だ。
「ふふふ、やっぱり私の仮説は間違ってなかった。こちらが正解のルートなのだろう」
「凄いな、大発見じゃないか。これはまだ誰も知らないぞ」
不安にしか感じられない。