12
朝起きたら頭が痛かった。
いつ寝たのかすらも、覚えてない。
アディラはまだソファーで寝たままだったから、毛布をかけておいた。
痛む頭を押さえながらも、毎日はやってくる。
畑に行って薬草の水やりをする。
少し手を抜いているが、毎日やっているのだから少しくらいは大丈夫だろう。
そして、お湯を沸かす。
その間に朝食の準備をする。
面倒だから簡単なものでいいか。
お湯が湧いたら、二日酔いに効きそうなハーブのお茶をいれる。
「おい、朝だぞ。起きろ」
「うーん……眠い」
「帰ってから寝ろ」
「えー、まだいいじゃん」
「朝飯はいるか?」
「……いる」
俺がアディラの分の皿とパンを用意していると、ノックの音がする。
出るとマックスとイーサンだった。
「なんでアディラちゃんがナルの所に居るんだ!?」
そりゃ驚くよな。
アディラはちゃっかり椅子に座って、お茶を飲んでいた。
気怠そうだが、さっきまでよだれを垂らしながら寝ていた姿ではない。
今更とりつくろったって、イーサンはボニーが居た時にだらけていた姿を見ていただろう。
「貴様、仕事をサボってこんな所に居たのか、おかげで昨日は大変だったんだぞ」
「ちゃんとシビルさんの許可はとってます。それに、貴方と違って私は借金なんて無いから、仕事しなくたって平気だもん」
イーサンが指を差すが、アディラはツンとしている。
仲悪いな。
うるさい三人を無視して朝ごはんの準備をする。
「メリッサちゃんはどうしたんだ?」
答えようと思ったが、それよりも先にアディラが口を開く。
「何よ、マックスは私じゃなくてメリッサちゃんが居た方がいいっていうの?」
「いや、美人ならどっちでも大歓迎」
「いやん、褒めてくれてありがとう。今度お店で指名してね」
「金が無いから、それは無理だな」
カラカラと笑うマックスは、自分がした質問をもう忘れているようだ。
並べ終わると、そのまま喋りながら食べ始める。
メリッサはちゃんと食べているだろうか?
居ないなら居ないで気になってしまう。
「マックス、明日は私もダンジョンに潜る。新しい階層はどんな感じだ?」
「うーん、俺もまだ新しい階層は10回層までしか降りてないけど、明らかに魔物のレベルは高い。だけど、まだ新種の魔物とかは居ないな」
10階層って、元々の3分の1以上行ってるじゃないか。
「それでもまだまだ底が見えないって、ヤバくないか?」
後で絶対エリンに話を聞こう。
もし足りなかったらギルド長に話を聞いてもいい。
「国内最大のダンジョンで分かっているのは250階層まであって、まだ攻略されていない」
「王都から来た調査団はもう15階層まで行ってるそうよ。毎日自慢しに来るもの」
「16階層だ。どんどん一階層の広さも広くなっている。早い攻略はそこで終わるだろうな」
もし30回層以上続くとしたら.成長率としては凄いとしか言いようがないだろう。
ぐだぐだ食べながらも明日に向けて解散した。
常連達はメリッサが居ない事に明らかに落胆していた。
ざまあみろ。
居る場所が分かっているだけで、昨日よりも気が楽だ。
ダンジョンの話をギルドで聞いたが、まだ不明な事の方が多い。
とりあえず五回層程はジャングル系の魔物が多く出るらしい。
これも今までのダンジョンとは違う。
ダックウィードのダンジョンが初心者向けとされる理由の一つに、一回層ごとに全く様相が変わる事があげられる。
それなのに5回層も続くとは。
もちろんそのようなダンジョンもあるが。
未開拓のダンジョンに行く危険性をイーサンは分かっていないだろうし。
前もイーサンが実験で使う鉱石が欲しいと、いきなり言い出した事があった。
あの時も確か同じ研究室の誰かにバカにされたからとか言っていたな。
そして学園が休暇の時に三人で取りに行ったのだが、散々だった。
そもそも二人は料理が出来ない。
かろうじてマックスは実家での騎士団の訓練際に野営の経験はあったようだが、獲った獲物は焼く事ぐらいしか出来なかった。
その他の食い物は現地調達と言わんばかりに、調味料や水ですら用意していなかった。
幸いにも鉱石のある場所自体は、町で許可をとれば誰でも行ける。
ただ、満月の夜に、火山近くから吹き上がる間欠泉の中に出来るものなので、満月の日には非常に混雑する。
にも関わらず、イーサンは宿の予約をしていなかった。
その上、屋台の料理で腹を壊したり、俺の気は全く休まらなかった。
少し離れた場所に採取に行くだけでも、これだけの労力が居るのだ。
未開拓のダンジョンなんて、比でない程のトラブルが起きるだろう。
考えるだけで、憂鬱になる。
明日のみ更新が17時になります。