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昼食を食い終わった俺は、何とかマックスをギルドに押し込み、平穏を手に入れた。
しかし、夕方の閉店前に何故か俺の店を見つけて、押しかけてきた。
何故だ?
ギルドに押し付け宿も決まったといのに、俺の所を訪ねる意味なんてないだろう。
買い出しに行きたいだと?
迷惑な事この上ない。
とりあえず、営業中だからと店内に置いておいた。
静かに待っていたが、居るだけで威圧感たっぷりの置物は、店に来た冒険者達を驚かせていた。
事ある事に値切ろうとするチンピラ冒険者達は、マックスが顔を向けるだけで、ビビってすぐに帰っていった。
うん、役に立つ事もあるんだな。
店を閉めてから商店街を案内してやる。
夕方だからか、美味そうな惣菜の匂いがプンプンしていた。
珍しいのかキョロキョロしていたマックスが、串焼き屋で立ち止まったまま動かなくなってしまい、店の迷惑になりそうだから再会記念という事で仕方なく奢ってやった。
それを何度か繰り返した後、ホクホクした顔でマックスはギルドの寮へと帰っていった。
無駄な出費だが、明日以降関わらなくて済むと考えれば安いもんだ。
宿も必要な物の売っている場所も教えた。
後は依頼をこなしていけば一人で生活出来るだろう。
曲がりなりにも騎士だったのだから、マックスは強い。
俺と違って一人でダンジョンの最下層までも行けるだろう。
思わぬ再開に調合する気も無くなった俺は、今日はそのまま寝た。
◇
次の日の朝、何故かマックスが薬屋の庭の前に立っていた。
「何で来るんだよ!」
薬草に水をやろうと出てきた所を遭遇……いや、あれは待ち伏せだ。いつから居たのか、爽やかな笑顔でマックスが立っていたのだ。
「ナル、朝から近所迷惑だろう」
違う、そんな常識的な返答が欲しい訳じゃない。
俺だって大声を出したくて出している訳ではない。
「とりあえず、ここで騒ぐのは迷惑だから中に入れろよ。ああ、俺朝食は半熟玉子つけてほしいな」
そのまま置いておく訳にも行かず、仕方なく招き入れるしかなかった。
サンドイッチにする筈だった具材はバラバラにサラダとウインナーにして皿に盛り付けなおす。
スープはストックしてあったものだ。
せめてもの抵抗で玉子は半熟ではなく、カチカチにしてやった。
店内を珍しそうに見ていたマックスに声をかけるとやってきて、当然のように向かいに腰かけた。
二人で手を合わせてから食べ始めると、またたく間に皿が空になっていって、あ然としてしまう。
「よ、よく食うな」
思わず遠回しに迷惑だと伝えるが、やはりマックスが汲み取る事はなかった。
「これぐらい普通だろ?ナルが食わなすぎなんだよ。それにしても、相変わらずナルは料理上手いな」
「どうも」
褒められても全く嬉しくない。
そりゃお前ら貴族に比べれば、平民は元から自分の事は自分でしなければならないため、ある程度料理が出来る。
元々兄妹の世話で料理を作っていたから慣れていたし、ライブラリーにレシピ本を入れているから、食べたい物があったら、その通りに作ればいいだけなのだから簡単だ。
料理は調合と同じで、レシピ通りに作れば大抵同じ味になる。
面白みはないが、元々食にこだわりがある方ではないから、たまにココの食堂に行くぐらいの贅沢で十分なのだ。
反対にマックスは貴族な事もあって、料理は提供されるものだと思っている。
学園の時の寮では決まった時間に出ていただろうし、就職してからも食堂で食べればいいだけだったので、今まで作る事もなかったのだろう。
貴族と平民の育ちの違いについて考えている間に、せっかくストックした食材がみるみるうちに減っていた。
ふざけるな。
そのハーブのウインナーは最近作ったもので一番ヒットしたものだ。
もっと味わって食え。
それにお前が3本目にとりかかっているパンは、俺が一日で食べる量で、一食で食べきる分ではない。
「あー、美味かった」
「明日から来るなよ」
「何でだ?」
「こっちが何でだって言いたいぐらいだ!」
俺は無惨にも無くなってしまった料理の乗っていた皿を片付ける。
いつの間にお代わりしたのか、スープすらもほぼ無い。
結構煮込んで、昼はこのスープを使ったパスタにしようと思っていたのに。
そして、当然のように片付ける気はないようだ。
わかっていたがムカつく。
「いやー、ギルドの寮の朝食って有料だったみたいでな。まだ金もそんなに入ってないのに、無駄金使えないだろ。金は計画的に使わなきゃいけないしな」
お前が言うな。
ギルドは登録してすぐはFランクで、依頼を10件こなせばEランクに上がれる。
Fランクとは、初心者という意味でもある。
10件の間に依頼を受ける流れなどを学べという事で、これをクリアしてEランクに上がらないとダンジョンには入れない。
俺も登録したから知っている。
ただ、俺は冒険を主にしている訳じゃないからランクはDのまま放置している。
ダンジョンに入るのに必要だったから取得しただけだからな。
「冒険者って言っても色々規則があって大変なんだな。もっと自由なんだって思ってたぜ」
「そりゃどこにだって規則はあるだろ。じゃないと馬鹿が何するか分からないからな」
冒険者カードは身分証明書にもなる。
だから、意外と規則違反には厳しかったりするのだ。
「んでさ、1件手伝ってほしい依頼があるんだ」
「断る」
「お願いだよ。10件中一件は薬草採取しなきゃいけないんだが、俺薬草の見分けとか下手なんだよ」
そうだ、学生の時から採取の授業そっちのけで討伐ばかりしていたからな。
10件の中で討伐、採取、町の手伝いの内全てをこなさなけばEに上がらない。
基本的な事をまず全てやれという事だ。
討伐や手伝いなどは問題ないだろう。
でもFの依頼は本当にお手伝い程度のもので報酬も高くない。
という事はその間、永遠とマックスは朝飯を集りにくるだろうか?
自分の想像に寒気がした。
それだったら早めにランクを上げて貰った方が、平穏を手に入れられるんじゃないだろうか?
「分かった、一回だけしか教えないからな。一回で覚えろ」
「大丈夫だ。採取依頼は一回しか受ける予定はない」
爽やかな笑顔で駄目な事を言っているから、ため息しか出てこなかった。