表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/91

9

 ニヤニヤと笑いながら、一人の魔術師がズカズカと俺たちの前へとやってきた。

 イーサンは嫌な顔をしている。

 そういえば、城の魔術師といえば、イーサンの前の職場の同僚だ。

 だとしたら、この態度の悪い奴も顔見知りの可能性がある。

 イーサンの顔を見る限り、仲が良かったとは思えない関係だな。


「何だよイーサン、いきなり居なくなったと思ったら、こんな所に居たのか?」

「どこに居ようと私の勝手だろう」

「何で城辞めたんだよ」

「辞めたんではない、私は組織に属すべきではないと気づき、見限ったのだ」


 言ってる事は間違っていない。

 むしろ、イーサンが居ない方が組織としては楽だろう。

 こいつ面倒くさいからな。


「なんだコーディ、知り合いか?」


 同じ様にローブを着た男が、二人やってくる。

 ゾロゾロと来るなよ、探索でもなんでも行ってくれ。


「イーサンですよ、イーサン」

「ああ、あの噂の」


 そう言って三人はゲラゲラと笑い始める。

 それは久しぶりに聞いた貴族特有の選民意識の混ざったあざ笑うもので、久しぶりに学園時代の事を思い出して嫌な気持ちになった。


「何がそんなに可笑しいんだ?」


 気になったのか、大口を叩いていた自称未来のSランク冒険者が口を挟んでくる。


「ナル、帰ろう」


 イーサンは無視を決め込んだようだ。

 同感だと思ったが、去る前に魔術師は口を開く。


「ああ、教えてやるよ。三ヶ月前リグーシカって魔物が大量発生して、手が足りないという事で俺たちまで討伐に借りだされたんだ」


 ああ、そういえばそんな時期だったな。

 冬が終わって春になる頃になると、冬眠から目覚めたリグーシカという緑色でヌメヌメとした緑色の魔物が大量に発生して、農作物を荒らす。主に沼地に居て、大して強くはないが、あまりにも数が多いと討伐の為に、国から騎士やいつも研究ばかりしている魔術師も派遣される。その中にたまたまイーサンが居たのだろう。とにかく人数が必要になるからだ。

 

「そんでこいつが来たんだけどさ、たまたま出てきたリグーシカを見た途端、真っ青になって気絶しやがってよ」

「マジで使えなかったよな。こちらは助っ人として行ってるのに、一匹も倒す前に気絶されるだなんて、お荷物以外の何者でもないよな」


 そういえばイーサンは爬虫類が苦手だったな。

 沼地への実習に行く時は、いつも俺に身代わりを頼んできていた。

 せっかく討伐の少ない研究室に配属になったのに、不幸な事だ。


「偉そうにしてるくせに、城中の笑いものだよな。あれから少しは克服したのかい?」


 可笑しそうに言ってくる魔術師に、庇う訳ではないが、不快な気持ちになる。

 誰にだって苦手なものの、1つや2つはあるだろう。

 だが、貴族は一つ弱点を見つけると親の仇かのように叩いてくる、変な生き物だ。

 プライドの高いイーサンには、耐えられない事だったのだろう。

 だから辞めたのか。

 ようやくイーサンが、城の魔術師なんていう恵まれた職場を何故辞めたのかが分かった。


「で、こんな町で何をしてるんだよ」

「まさかダンジョンの秘密を解明しようとでもしてるのか?」

「たまたまだろ?こんな腰抜けが、ダンジョンの探索なんて出来る訳ないだろう」


 その言葉に、イーサンが静かにキレたのがわかった。


「私は元々この地が重要な地になると、お前らが気づくよりも先に予知していたのだ」


 絶対に嘘だ。なのに、何故そんな自信満々に言えるのかが不思議だ。


「貴様らの貧弱な頭では、何日かかったところでダンジョンの秘密など解明する事など出来ないだろう」

「は?リグーシカを見てビビってる奴が、何を言ったって負け惜しみにしか聞こえねえよ」


 これじゃあシビルの店で働いてるなんて言ったら、余計にバカにされそうだな。


「お前はこのシミッタレた町で、俺たちの成果を眺めていればいいのさ」


 高らかに笑いながら魔術師達はギルドから出ていった。


「ナル」


 低い声でイーサンが呼びかける。

 次に言う言葉が予想出来た俺は、逃げたくなった。

 良くない、言うな。


「あいつらよりも早く、ダンジョンの秘密を解き明かすぞ」

「おう、頑張れ」

「お前も来い」

「いや、俺たち二人で何が出来るっていうんだよ」


 今何層まで攻略が進んでいるか分からないが、明らかに先行しているだろう。

 しかも向こうにはSランクになる予定の護衛の冒険者まで居る。

 今から追いつくなんて不可能に近い。


「マックスも誘う。あいつは連日ダンジョンに潜っていると言っていただろう?それに腐っても騎士団に入っていたんだ。ごろつきである冒険者を何人も雇うよりは、安全に素早く探索出来るだろう」


 確かに、力だけ見ればマックスは頼りになる。

 しかし、決定的に注意力が散漫で、力づくで攻略している事が想像出来る。


「そもそもイーサンはダンジョンに入った事あるのかよ?」

「ある訳ないに決まってるだろ」


 やっぱり。


「まあ、お前とマックスが居るなら大丈夫だろ」


 いや、無理だろう。

 何の根拠があって言ってるのかわからないが、未知の場所に行くなんて俺は嫌だ。


「今日と明日はお前にも準備があるだろうから、明後日いくぞ。休業日だろ?」


 なんで把握してんだよ。

 俺は休みの日は休みたいんだ。 


「だ、ダンジョンに入るには冒険者登録が必須ですよ」


 おそるおそるエリンが言う。普段だったら、受付嬢の鏡というべきだろうが、タイミングが悪すぎる。


「今すぐしろ、女」

「は、はい」


 言い出したら聞かないからな。

 ある程度進むまでイーサンに付き合うしかないだろう。

 あー、早くまとめて王都に帰ってくれないかな。

 

 

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ