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 ギルドまでの道のりで、イーサンは特に何も言わなかった。

 気を使ってくれている訳ではなく、元から二人で居てもそんなに会話がある訳でもないだけだが、今は喋りたくもないから有り難い。

 ギルドに昨夜作ったポーションを納品しに行くと、冒険者達は隅の方に固まって、カウンターの奥を睨んでいる。

 いつもだったら受付嬢を口説いている奴らもいるというのに、なんか嫌な空気だ。

 もしかして昨日の魔術師達とかち合ったんだとしたら、面倒だな。

 イーサンはギルドに来た事がなかったのか、珍しそうにフラフラと歩き回っている。

 貴族がわざわざ、ギルドに依頼に来る事もないだろうしな。

 カウンターに居たエリンに納品に行くと、驚かれてしまう。


「昨日依頼したばかりなのに、もうこんなに作ってくれたんですか?」

「ああ、早い方がいいだろう?ついでに他のポーションの在庫も知りたいから、教えて貰えると助かる」


 あればあるだけ買い取ると言ったのはそっちなのに、何でそんな困ったような顔をされなければならないんだ?


「こちらとしては、有り難いですけど」


 何か文句でもあるのか?

 それでも何か言いたい事を飲み込んで、義務的に手続きをしてくれる事が有り難い。


「少しお待ちください」

「ああ」


 待っているとギルド長と魔術師軍団と護衛達が出てくる。

 彼らが出てきた瞬間、冒険者たちの殺気が膨れ上がったのがわかる。

 昨日の一件が、すぐに広まったのだろう。そのような所だけ結束力が固いんだよな。

 しかし、冒険者たちはただ睨んでいるだけで、誰も何も言わない。

 普通の人間なら怯んだりするかもしれないが、貴族の生まれの奴らは生まれた時から注目されている事になれているから、無駄だろう。

 一番後ろから出てきたギルド長と目があってしまい、やばいと思ったが遅かった。

 ギルド長はニコリと笑ってから、魔術師達に話しだす。


「ちょうどポーションも届いたので、探索に支障はないかと」

「昨日要請してすぐに出来るだなんて、さすが今話題のギルドだな。余程いい薬屋を囲っていると思える」

「いえいえ、たまたま運が良かっただけですよ」


 いや、俺の方を見るな。

 隠れようと思っても、隠れる場所もない。

 早くエリンが戻ってくる事を祈るしかない。


「だが、冒険者の質は悪いようだ。昨日も明らかにランクの低い冒険者が絡んできて、邪魔をしようとしてきたし。全く、王命の事をどう思っているのやら」

「大変申し訳ありません。まだ私も赴任したばかりで冒険者達全員の把握が出来てませんでして。それに元々ここには、私の指導がなくてもしっかりした冒険者も多いので、任せてしまっているのです」

「金の翼か。あいつら調子乗ってるよな。まぐれで貴族との繋がりが出来たからってよ」


 護衛の一人が不快そうに眉をひそめる。

 その事にまた冒険者達の空気が悪くなる。

 アイツ等慕われてるからな。


「王都へ罪人の護送だったっけな?ギルドが依頼したのか?」

「はい。どうしても罪人の護送というものは大仰になります。しかも今回の罪人は平民ではなく貴族でしたで、相当恨みも買っている事でしょう。周辺の町も混乱が起こるでしょうから、彼らには混乱を鎮めてもらいに、先触れを出しに行ってもらいました」


 クリスはロレッタ嬢から逃げられた訳ではなく、むしろ積極的にギルド長から差し出されていたのか。

 まあ騎士団の護衛でないだけ、まだ配慮されているか。


「一時の貴族の繋がりなんて、君たちAランク冒険者には必要ないでしょう?君たちは城の重鎮達にも雇用されているのだから」

「まあな。ここで手柄を立てれば、伝説のSランクにも手が届くかもしれないしな」


 Sランクに到達した冒険者は、現在数える程しかいない。

 依頼以上に、何を果たしたのかが重要になってくるからだ。

 戦争もないというのに、そのような偉業を達成する人が居ないというのが事実だが。

 唯一俺でも知っている有名な高ランク冒険者は。確かこの国を救ったとされる王で、SSSランクに認定されているが、一体何をしたらそんなランクになるのか疑問でしかない。

 王についての話は嘘も多いしな。

 ギルド長は微笑むだけで何も言わなかった。

 どうでもいいんだろうな。


「長年の疑問であるダンジョンの謎の解明に協力出来たとなれば、昇格は間違いないだろう。ダックウィードのギルドには大いなる助力を期待している」


 おお、ごまをすっている。

 粗雑な冒険者がごまをすってると、気持ち悪いよな。

 自由はどうしたんだ。


「ええ、本部からも『暁』に出来る限り協力するように連絡はもらっています。ダンジョンの不思議が解明される事は、この国の悲願でもありますから。私も出来る限り応援させていただきます」


 成る程、本部から連絡などなかったら協力したくないと。

 出来る限りとか言って微妙に本音が透けてるあたり、迷惑なやつらなんだろうな。

 おっと、エリンが帰ってきた。


「お待たせしました、こちら今ある各ポーションの在庫表と、本日納品頂いた分の代金になります。ご覧の通り、麻痺毒を解除するポーションの在庫が特に減ってますね」

「特殊な魔物でも居るのか?」

「新階層に入って2つ程降りると巨大なジャングルにでるそうです。そこに麻痺毒を持つ魔物が攻撃をしてくると報告がありました」


 またマニアックだな。

 ジャングルとか視界も悪いし、毒を持った魔物も多そうだ。

 それだったら毒消しを中心にするか。 


「ナル、納品も終わったのか?ダンジョンの話だったら、私にも聞かせろ」


 そもそもイーサンはダンジョンの話を聞きに来たんだた。

 満足するまで見終わったのか、イーサンがカウンターにやってきた。


「こちらは?」


 見慣れない貴族にエリンが警戒している。ギルド長に貴族の相手は回せと言われているのだろう。

 俺がイーサンを紹介するよりも前に、素っ頓狂な声がかった。


「あれ、イーサンじゃん」

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