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依頼のあった薬草を見つけて、ギルドへと提出する。
危険な事は何一つなく、いつものように何事もなく終わった。
まだカウンターにエリンが居たから、手続きをしてもらう。
「はい、確認終わりました。お疲れ様です」
ただ、薬草の採取だけだとランクを上げるのには、微々たるものにしかならない。
冒険者のランクを上げるにはバランスが必要だ。
戦闘力、知力、そして人脈。
戦闘力も人脈もない俺は、薬草を一万本持ってきた所で、ランクをこれ以上あげるのは難しいだろう。
まあランクが上がっても特にやる事なんてないから、別にいいが。
魔術師の一団はまだ帰ってきていないようだったので、良かった。
ダンジョンの事は、またマックスにでも聞いてみよう。
薬屋に戻ると、メリッサが居た。
何事もなかったようだ。
冒険者の監視をしながら売れたものをメモして、在庫の確認をする。
やっぱり二人体制だと楽だな。
少し良いものを食わせてやるのに、時間をかけた料理が作れる。
何事もなく閉店してすぐに夕食にする。
メリッサは昼はまた定食屋に行ったようだ。もうすぐ子供が生まれると言っているので、迷惑をかけないように言ったら膨れられた。
そういう所は全く変わっていない。
後片付けをしていると、風呂から上がったメリッサが出てくる。
髪の毛が上手く乾いていないか、濡れている。
「もっと良く拭かないと風邪引くぞ」
「子供じゃないんだから、分かってるわよ」
「どうだか」
冬の寒い時期に、よく風邪を引いていただろう。
少しタオルを取り上げて、乱暴にふいてやる。
「ナルは、もう寝るの?」
「いや、ギルドからポーション作成の依頼を引き受けたから、少し片づけようと思う」
帰ったら確認してもらおうと思っていて、忘れていた。
契約書を見せると言うとびっくりしたような顔をされる。
「見せて」
納品数は50本。
期限は出来た順から納品してくれればいいと言っていた。
しばらくはギルドとの往復が続くかもしれないが、いい金にもなるし、暇だからな。
「ねえナル。これは月で契約しているのとは別よね?同じ本数求められてるわよ」
「そうだ。なんかダンジョンに来る人が増えて需要が増えているらしいんだ。出来た順での納品でイイって言ってるし、まあ一週間もあれば出来るだろう。それに急ぎだからと1.2倍の料金で買い取ってくれるってさ。太っ腹だよな」
薬草の採取依頼のついでに足りなさそうなものも採取してきたし、メリッサが店番をするなら問題ないだろう。
「もしかして、明日にでも王都に帰るつもりだったか?」
まあそれなら少し睡眠時間を削ればいいだけだし、どうにかなるだろう。
幸いにも3日後は休業日だ。
最悪ここでまとめて作ればいい。
「違うわ。町には期間ギリギリまで居るつもりだけど……」
「別に構わず戻ってもいいんだぞ。学生の間は友達と遊ぶのも重要だしな」
夏季休暇は2ヶ月はある。
その間こんな寂れた町よりも王都の方が栄えているし、娯楽も沢山あるだろう。
せっかくの休みなんだ、仕事をしてる必要もない。
寮にだったら同じ年の子で他にも残っている子も多いはずだ。
俺も居残り組だったしな。
「私は自分から帰ってきたのよ、それに戻らないって言ってるじゃない。今問題にしてるのは、何で私に相談もしないで勝手に仕事とってくるるのかって事よ」
ああ、責任者はメリッサなのに、相談をしなかった事を気にしてるのか。
別にこの事でメリッサに迷惑をかけるつもりもないし、気を使う必要なんて全く無いというのに、責任感が強い所ばかりセオドアさんに似てしまっている。
思わずため息がでてしまう。
「勝手にとってきた事は悪かったよ。だけど、暇だからってただ時間を潰しててもしょうがないだろ?金はあるだけ困らないだろうし」
王都は居るだけで金がかかる。
貯金と十分な仕送りはしているつもりだが、貴族の友人と付き合うにはかなりの金がかかるだろう。
金が無い事で、学園での生活で困った事にさせたくない。
ただでさえ平民の数が少ないというのに。
帰るまでに恥ずかしくないぐらい、もっと小遣いを持たせてやりたい。
「……なら私も手伝うわ」
時刻はもう9時を過ぎている。
明らかに働きすぎだ。
俺は首を振り断る。
「いやいいよ。子供は寝る時間だろ?今日は店番もほぼ一人でしてたし疲れてるだろうし」
半年前にもしていたから慣れてるかもしれないが、久しぶりの仕事だったんだ。自分の自覚の無い所で疲れているかもしれない。無理は禁物だ。
「分かった、もういい」
何でそんな不機嫌そうな顔をするんだ?
メリッサは何か言いたそうにしていたが、結局何も言わずに自分の部屋に帰ってしまった。
反抗期か?
学園でも居たな。
俺は自分の学園時代の事を思い出したが、良く分からなかった。
とりあえず色々な資格をとって、村に帰らない事ばかり考えてたし。
女と付き合った事もほとんどない。
俺は、やっぱり宿を探す事も視野に入れつつ、依頼されているポーションを作る事にした。