5
次の日、マックスとイーサンは普通に朝食を食べにきた。
まあメリッサが了承したのだから問題ないが、図々しいにも程がある。
メリッサは寮に居るみたいで楽しい。と喜んでいるからいいが。
そして、今日も三人で仲良く話をしている。
食べ終わって片付けをしていると、メリッサが薬屋は一人でも営業出来ると言って、たまには休んでいたほしいと俺は店自体から追い出されてしまった。
行く場所もない。
スカーフの売れ行きを聞きに洋服屋に行った。
順調に枚数は捌けている。
もっと増やしてもいいと言われた。
よしよし。
メリッサが休みの間は、納品する枚数も増やしてもいいかもしれない。
もしかしたら王都からダンジョンの見物に来る人も来て、売れ行きもあがるかもしれない。
あまりにも需要が増えるようだったら、特許をとって売るのもありだな。
話し終わって店から出ても、一時間も時間を潰せていなかった。
メリッサからは15時までは帰ってこなくていいと言われているから、時間があまり過ぎている。
俺って、こんなに時間を潰すの下手だったっけ?
午後からは冒険者たちが来るからもちろん戻るつもりだが、やることもないので冒険者ギルドに行く事にした。
簡単な依頼があったら、久しぶりに受けようと思ったのだ。
決して、マックスにあっさりランクを抜かされたのを、悔しく思っているからではない。
それに、ギルドへ行ったらダンジョンの下層階についての新しい情報が入っているかもしれない。
珍しい素材とかがあるのであれば、ヒマを見つけて潜りたいんだけどな。
護衛をマックスにでも頼んでみるか。
ギルドは珍しく混雑していた。
よく見ると冒険者とは明らかに違う服を着た人達も、うろついていたからだ。
この人達が王都から来た人なのだろうか?
まあ俺には関係ない。
貼ってある依頼書を見る。
あ、薬草の採取依頼があるな。
これなら森で採取出来るし、ついでに自分の分もとって補充しよう。
準備も必要ないし、時間を潰すにはちょうどいい。
カウンターに行くとエリンが居た。
心無しか疲れているようだ。
それもそうか。
ギルドは祭りの前から忙しそうにしていたし、そのままダンジョンでの騒ぎがあって、ずっと忙しいままなのだろう。
俺はエリンへ渡そうと甘いものを作っておいた事を思い出して、袋から出してこっそりと渡す。
「あとでミラと食べます」
「真面目に仕事をしない奴には、渡さなくていい」
「今忙しくてサボるヒマもないんですよ」
それもそうか。
「そうだ、ナルさん。お仕事は忙しいですか?」
「なんでだ?」
「実は、ギルドのポーションが少なくなりそうで。まだ納品日には遠いから追加で頼みたいとギルド長が言っていて、午後に薬屋の方に伺う予定だったんです」
よっしゃ。
やる事があれば、店に居てもメリッサも追い出さないだろう。
それに急ぎなのか、いつもの買い取り価格よりも上乗せされている。
俺は快く引き受けた。
「おい、何で横入りするんだよ」
別のカウンターで冒険者が声を荒げるが、横入りをしたであろうローブを着た男は何も言わない。
あのローブは城に所属している魔術師の着ているものだ。
そんな身分の高い人まで来ているのか。
無視された事に腹を立てたであろう冒険者が、魔術師の肩に手を触れようとした所を、すかさず見たことのない冒険者が前に出て、男の腕をひねり上げる。見るからに高ランクの冒険者だ。王都から雇ってきたのだろう。装備からしても金がかかっている事がよく分かる。
「いってぇ、離せよ」
「この者に危害を与える事は許さない」
脅すように言われるが冒険者の怒りは収まらず、無理に振りほどこうとしている。
しかし、明らかに体格の違う冒険者に、貧弱な初心者冒険者の抵抗など全く気にならないのだろう。軽く突き飛ばした。
カウンターの前に居るミラも困惑している。
注意をするべきなんだろうが、逡巡しているようだ。
「うるさい羽虫だな。こっちは王の命令によって動いているのだ。平民は喜んで譲るべきだと思わないか?」
「そうだ。ダンジョンの研究は国の発展に大きく作用する重大な研究なのだ。我々の邪魔をする事は許されない」
「お望みであれば、反逆罪として貴様らを捕らえてもいいのだぞ」
王都から来たであろう一団が口々に冒険者に文句を言う。
いつもは威勢よく吠えている冒険者達は、投獄という言葉を聞くと何も言えずに黙ってしまった。
ざまあみろ。
結局大きな権力の前では逆らえない奴らなんだな。
「大変お待たせしました。私が対応しましょう」
胡散臭い笑顔でギルド長がやってきた。
困っている様子に、エリンが呼んできたのだろう。
「おお、ギルド長殿。いくら辺鄙な場所だからと言っても、冒険者をもっと躾をした方がいいのではないか?貴方の名声の邪魔になりますよ」
「そうですね。考えておきましょう。それよりも、貴方達は使命があるのでしょう?今度からはこんな場所に並ばなくても用があるのならば、特別室で私が直接対応致しますので」
「話が分かるじゃないか」
そう言って勝ち誇った顔で、魔術師達はギルドの部屋へと向かっていった。
明らかな対応の差に冒険者達は憤っているが、仕方ない。
むしろ魔術師達が無茶をやらかす前に隔離する手腕は、流石ギルド長だとしか言いようがない。
「やっぱテホンだな」
「いえ、ソーロに似ていると思います」
確かに、体型的にソーロだな。
どちらにしろ、人を騙したり、馬鹿にしたりするという生き物には代わりはない。
二人して頷いた。