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「帰ってきたばかりで疲れてるんだから、休んでていいんだぞ」

「逆にナルが休んでよ。いつもナルに任せてるんだから、私が帰ってきた時ぐらいは、ゆっくりしてよ」


 メリッサはせかせかと、商品の棚をチェックしはじめた。

 出ていった時から種類などは変わっていないはず。

 メリッサが懐かしそうに目を細めたのが分かって、気恥ずかしくなる。


「やっぱり王都の物より少し安いわね」

「売上はちゃんと出してる。セオドアさんのレシピ通りだ」


 最初から完成されていて、改良する所などほとんどない、完璧なものだ。

 俺が到達するには、道のりは長い。


「で、大量に貼ってあるこれらは?」


 壁に貼ったまましておいた魔物よけの札を、メリッサがツンツンとつつく。

 ああ、そういえば貼ってから剥がすの忘れてた。

 不吉な事が起きるんじゃないかと思って、そのままだった。


「何も、問題ない」


 説明するのが面倒で、俺が適当に答えるとため息をつかれる。

 やっぱり駄目か。


「気になるなら剥がす」

「そうしてくれると嬉しいわ。あまりにも過剰すぎるわよ」


 冒険者への威嚇にもなって良かったんだけどな。

 俺が壁に貼っていた札を剥がし始めると、ちょうど鐘の音が鳴ってメリッサが札をオープンに変える。

 すると、すぐにいつもの常連がやってきた。


「いらっしゃいませ」


 メリッサが笑顔で言うと、常連である老人は驚いたような顔になる。


「あら、メリッサちゃん帰ってきたの?」

「はい、休みなので」

「少し大人っぽくなったんじゃないの?子供の成長は早いわねー」

「モリさん、私半年前に帰ってきた時から、そんなに変わってないからね」

「そうだっけかな?こんな小さかった頃も知ってるから」


 そう言ってつまむような仕草を見せるが、生まれたての赤ん坊だってもっと大きいだろう。

 本当に、この町の老人どもは揃ってボケてるんじゃないかと思う。

 もしくは、目が悪いのか。

 メリッサも苦笑している。

 その後もやってきた常連たちは、カウンターに立っているメリッサにすぐ気が付き、俺には向けないような笑顔で話しかけている。

 メリッサも笑顔で話し相手になっている。

 俺は魔物避けの札を剥がしたあとは何もする事もなく、ボーッとカウンターに座っている置物と化している。

 十分に話して満足したのか、いつもと同じものを買って老人達は帰っていく。

 誰も居なくなって、時間があいて気まずい。

 いつも一人で居たから、誰かが居るというの慣れない。

 時間を持て余した俺は、メリッサに今までの売上の推移を見てもらう事にした。

 メリッサは見てすぐに顔を引きつらせる。


「何、この伯爵の依頼金って。凄い大量に入ってるんだけど」


 そういえばそんな事もあったな。

 もう遠い昔の話のようだ。


「そもそもバルト伯爵って、お抱えの医者くらい居るでしょ?何でわざわざここに頼んで来たの?」


 それはこの町の人たちが結託した陰謀だからなのだが、言う必要もない。


「ああ、何も問題なかった」

「そ、そう」


 俺が詳しく話さないと分かったメリッサは、別の項目に目を走らせる。

 真剣に見ている表情は、セオドアさんに薬の作成を学んでいる時と同じだった。

 そういえば、いつもこうやって二人で教わっていたな。


「この減っている所はルスットゥル商会が来た時の事ね。手紙で報告もあったし、ナルの事だから上手くやったんだろうけど、大丈夫だったの?学園で新聞は読んだんだけど」


 新聞には王都での被害しか書いてないし、手紙でも嫌がらせを受けているとは詳しく伝えなかった。

 ただ、もしかしたら学園に押しかけるかもしれないという注意喚起だったのだが、さすがに学園までは行かなかったようだ。

 詳しく言っても心配させるだけだし、もうあいつらは居ないからな。


「ああ、普通に追い返したから、問題はない」

「本当?王都でも大騒ぎだったんだから。嫌がらせとかされたんじゃないの?」

「大した事はなかった。それに、研究時間もとれたしちょうど良かった」


 最終的に損はあまりしなかったし、問題はなかった。


「ナル」

「なんだ?」


 メリッサが何かを躊躇ってから話し始めようとした所で、別の常連が入ってきてメリッサは対応に追われてしまった。

 俺はまたそれを眺めていた。

 昼はココにも会いたいだろうと思って定食屋に連れていった。

 案の定ココは喜んでいた。

 母にも合わせたいと引っ張っていってしまった。

 客が少ないし別にいいか。

 午後には依頼が終わった冒険者達がやってくる。

 俺相手と違って、値切ったりなんかしない。

 行儀よくしている奴らを見ると、余程俺がなめられてるのかと思ってしまう。

 どさくさに紛れてメリッサを口説こうとしている男は、もちろん排除だ。

 あいつらは女が居たら、まず口説くという習性でもあるのか。

 

 何事もなく一日が終わった。

 そしてメリッサは自分の部屋で寝るという。

 出ていかなくていいと言われて、仕方なく俺は使っている部屋でそのまま寝る事にした。

 今日は仕事のほとんどをメリッサがしてしまって、何もしてないような気がして眠れなかった。

 仕方ないから、まだ納品日まで期間はあるが、少し納品分を作っておくことにした。

 またメリッサが手伝うと言って疲れさせたら申し訳ないから、黙っておいた。

 つい夢中になり過ぎて寝るのが遅くなったのは仕方のない事だ。

 

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