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「え、じゃあマックス様もイーサン様も私の先輩っていうことですか?」

「ああ、しかも俺は3年間ナルと同室だったんだぜ!」

「ナルが何か迷惑をかけてなかった?」

「むしろ俺が迷惑をかけてた方だな」


 ガハハとマックスが笑っているが、全く笑えない。


「イーサン様も同じ部屋だったんですか?女子は二人部屋しか無かったんですけど、男子は三人部屋だったんですか?」

「高貴な私がナルなんかと同室だった訳がないだろう。ナルは私の下僕だ」


 おい、違うからな。


「それと、わざわざ様付けはいらない」

「え、いいんですか?でも貴族の方に敬称をつけずに呼ぶのは、メリー先生に怒られます」

「メリー先生かー、あのババアうるさいよね。まだ働いてるの?」

「あと十年は働くそうです」

「あの夫人は元気だからな。学園では叱られるかもしれないが、ここは学園じゃないから許す。この狭い町で様付けなんてされると、目立ってしょうがないからな」

「俺も俺も」


 メリッサに二人の事を説明したら、あっさりと三人は和やかに話し始めてしまった。

 元からメリッサとマックスは社交的だから不思議ではないが、あのイーサンがあっさりと話しをしている事は、不思議に思う。

 三人が盛り上がっている間に、俺は余っていた朝食を温めてからメリッサにだした。

 そして、カウンターへ椅子を取りにいった。

 普段三人分の椅子しか使わないから、当然用意していなかったのだ。

 会ってすぐイーサンとマックスと一緒の部屋に居てもらうのは不安だったが、メリッサを床に座らせる訳にもいかない。

 さっさと取りに行って戻ってきた時には、三人は楽しそうに話していた。


「私も今、ガニンガム令嬢と同室なんですよ。私、貴族様ってバルト伯爵しか見た事なかったけど、全然違うんですよ」


 いや、どう考えてもバルト伯爵は例外だろう。他の貴族の大体はしっかりしている。


「ああ、カニンガム子爵は南の領地に住んでるからな。あっちの方はまた気候もあって穏やかな者が多い」

「そうなんですか?イーサンさんは物知りですね。私ももっと勉強しないと」

「学園は平民は特待生しか入れないから、平民なうえに編入で入ったメリッサ嬢は優秀なんだろ?」

「マックスさん、私は平民ですので呼び捨てで大丈夫です」

「そうか、ならメリッサちゃんって呼ぶな」

「はい、ありがとうございます。優秀と言っても、いつ退学になるか分からないので、精いっぱい学びたいです」

「勤勉なんだな。俺なんてテスト前に毎回ナルに見てもらって、やっと進級出来たっていうのに」


 なんか、俺必要なくない?

 

「なんかナルはいつもより無口ね」

「ナルはいつもこんなもんだ」

「うるさい」


 俺は机の下でマックスの足を蹴った。


「そういえば、メリッサはいつまでこの町に居るんだ?」

「何よ、ナルは早く帰ってほしいとでも言うの?」

「そんな事は言ってない」


 ただ、メリッサがここに居るんだったら、俺はどこか別の宿でもとった方がいいだろう。

 以前と今は違うんだから。


「うーん、ギリギリまで居ようと思ってるわよ。私が居ない間、ナルに店を任せる形になっちゃってるし。一応私の店だしね」


 そう、この薬屋は俺の店ではなく、メリッサの持ち物なのだ。

 俺はそこの雇われ店長みたいなもんである。

 ルスットゥル商会にこの店を移譲しろと言われても出来なかったのは、そもそもここは俺の持ち物ではないからだ。 


「え、ここってナルの店じゃないのか?」

「そんな訳ないだろう。私と同じ年で、地元でもないのに平民が店なんてもてる訳がないだろう?それでも君が店長だとは思わなかったが」

「店長って言っても、おじいちゃんが死んで受け継いだっていうだけです。実際の経営とかはナルに任せっぱなしになっちゃってるし。本当は学園に行かないで、そのまま働きたかったんだけど。お金もかかるし」

「セオドアさんはメリッサを学園に行かせたがっていたんだから行くべきだ。しかも既に編入試験も終わってた」

「でも、私は」

「それに金はある。足りないのなら何とかする」


 最近冒険者のおかげで潤ってるからな。

 新しい染料を売ってもいい。

 スカーフの売上も順調だ。

 そもそも仕送りの額も増やそうと思っていたから、ちょうどいい。


「あ、メリッサちゃんはどっかに宿をとるのか?」


 空気がきまずくなったからか、マックスが話題を変えた。


「俺が出ていく。ここはメリッサの家だからな」

「え、なんでわざわざ?」

「年頃の女性の家に、男が同居してるのは良くないだろ」

「別にナルは何もしないでしょ?」


 そういう問題ではない。

 どういう風に説得しようか考えている間に、全く無関係の男が声を上げてしまう。


「それは困る。俺は明日から朝食をどうすればいいんだ!」


 いい大人が本気で言っているのだから、意味が分からなかった。

 貴族の常識かと思ってイーサンを見たら、流石に呆れていた。

 良かった、貴族が全員マックスのような考え方じゃなくて。

 当のメリッサは肩を震わせて笑っていた。


「マックスさんって、本当に面白いのね。あー、おかしい」

「いや、それ程でも」


 マックスは照れているが、全く褒めてないからな。


「私は平民だし、この町の人たちはナルが私の家で一緒に暮らしてた事を、知ってる人しか居ないから大丈夫よ。それに、私達家族でしょ?」

「……ああ」


 家族なのか?

 反論しようと思ったが、微笑み返されると俺は短く返す事しか出来なかった。

 俺の雇い主はメリッサだ。

 俺は彼女の言葉に従うしかない。


「良かった、これで朝飯が無くなるという危機は去った」

「イーサンさんもどうぞ、今まで食べに来ていたのに私が来た事で邪魔するようになってしまって、ごめんなさい」

「いや、元はといえばナルがいいと言っても甘えていた私達が悪い。しかし、メリッサ嬢の言葉に甘えさせてもらおう」


 悪気がなく言っている事は分かっているが、図太すぎるマックスの事を本気で殴りたくなった。

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