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「そういえば、ミラから聞いた新情報なんだけど、王都からダンジョン調査の為の人材が派遣されるらしいぞ」
げ、ただでさえ冒険者が増えて迷惑だと思っているのに、更に人が来るのか?
王都から調査に来るぐらいだから、結構な身分を持っている人も来るだろう。
バルト伯爵が対応……しないだろうな。
ギルド長が嬉々としてそうだ。
幸いにして商人たちは帰っていったから宿はあいているだろうが、知らない人が増えるとまたガイラー男爵みたいな、禄でもない奴が来るかもしれない。
やっと落ち着くと思ったのに、面倒だな。
「ふん、昨日今日この町に着いた奴らに、何が出来るんだか。私には分かっていた。この地はいずれ再び注目を浴びるであろう事を」
いや、偶然だろう。
そもそも初めから分かっていたら、もっと早く解明出来るだろう。
何故今なのか?
何故起きたのか?
分からないから、人が集まってくるというのに。
絶対に自分が解明してやると吠えるイーサンに、その自信はどこから来るのかだろうかと聞きたくなる。
ため息をつきながらも食べすすめていると、コンコンとドアがノックされた音が聞こえた。
最近はまだ営業時間外なのに、こうやって早くダンジョンへと行こうとする冒険者が訪れる事が多くなった。
前日に買っておけよ。と思うが、出来ていたらそもそも来ない。
あいつらはバカだからだ。
無視してもいいが、応答が無いとどっかの誰かのように扉に何をしでかすか分からないから、俺は仕方なく席を立つ。
俺は店もドアも愛しているのだ。
♢
ドアを開けた俺は、思考が止まった。
「久しぶりね、ナル。元気にしてた?」
そこには半年前と変わらず、いや少し大人っぽくなったか?栗色の髪が鎖骨の辺りまで伸びて2つにくくっているメリッサが居た。
久しぶりの再会だというのに、俺は言葉が出なかった。
そんな俺を不審に思ったのか、メリッサが不審そうな目で俺の顔を覗き込む。
「ナル?」
「あ、ああ。悪い。元気だった。メリッサこそどうしたんだ?学園は?」
「何言ってるのナル。学園は夏季休暇に決まってるじゃない。そんなのナルも通ってたんだから、良く知ってるでしょ?手紙にも帰るって書いておいたわよ?」
そうだ。
毎年夏には学園は長期の夏季休暇に入る。
ルスットゥル商会の件で確認の手紙を送って、その返信に書いてあったような気がするが、忙しく忘れていたな。
失敗した。
以前も同じ様に期日を忘れて納品に遅れそうになったというのに。
いい加減にカレンダーを買うべきか。
「本当はストロム祭りに間に合うように帰ってくる予定だったんだけど、なんか騎士団の人たちが犯罪人の護送?に道を塞いでて、予定よりも遅れちゃったんだよね。おかげでお土産いっぱい買っちゃった」
ああ、ロゼッタ嬢がガイラー男爵を移送するのに、ぶつかったのか。
騎士の通行を妨げる訳にも行かないから、運行予定がずれ込んだのだろう。
「それに馬車の予約を取るの大変だったのよね。ダックウィードの町に行く人が急に増えたとか言ってたけど。可笑しいわよね。何も無い町なのに」
キャラキャラとメリッサが笑う。
ダンジョンが成長した事が発覚したのはつい最近だ。
ここから王都までは3日以上かかる。
情報がすれ違ったとしてもおかしくない。
「おかげで朝一の馬車しか空いて無くて、ご飯食べそびれてお腹減っちゃった。何か食べるものある?」
「あ、ああ」
ちょうど朝ごはんを食べていた所だ。
ずっと一緒に住んでいたんだから、俺の予定なんて分かっているのだから、確認として聞いただけだろう。
「ほんと?ああ、良かった。もうお腹ペコペコなのよ」
大きなカバンを持とうとするから、慌てて止める。
「荷物は俺が持つよ。疲れてるんだろ?」
「ありがとう。久しぶりのナルのご飯ね」
メリッサは軽い足取りで、躊躇いもなく台所へと向かう。
半年前まで普通に暮らしていたんだから当たり前だ。
俺は懐かしく思いながらもメリッサが持ってきていた大きなカバンを持つ。
半年前の冬季休暇の際に帰ってきたはずなのに、懐かしく感じる。
いきなり大人っぽくなったせいか?
半年前に会った時には、まだ子供って感じだったのに。
おかげで調子が狂う。
今夜は贅沢に何か作るか?
いや、久しぶりに帰ってきたから、メリッサもココ達にでも会いに行くか?
予定をちゃんと聞いておこう。
台所へ向かって足を進めるとメリッサの叫び声がしてきた。
「キャアアア、あんた達誰よ!」
あ、マズイ。
二人が居るって言う事を完全に忘れてた。