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開いた扉は、また閉まる1

「全く、昨日も何度氷魔法を使ったと思っているのだ。確かに未だに氷を作る魔導具は高価だ。しかも魔力をバカ食いして金がかかる。だからと言って天才のこの私が機械の真似事をしなければならないなど、屈辱としか思えん」

「へえー、早く小型化したものが売られるといいな」


 呑気にマックスは言っているが、氷を作る魔導具は型落ちしているものでも平民が働くと三年分以上の金がかかる、とても高価なものだ。

 領主であるバルト伯爵ですら持っていないだろう。

 その魔導具を所持しているシビルの方が恐ろしいのだ。


「これだから脳筋は。魔導具に使う魔力の消費を一割抑えるのに、どれだけの労力がかかると思う?そんなものより氷魔法の使い手を雇った方が安いに決まっているだろう」

「だからお前が代わりをしているのか。依頼の後の冷えた酒は旨いからな。あ、ナルお代わり」

「私にも頼む。だからと言って高貴な私をこき使うだなんんて、間違っていると思わないか?これだから身分の低いものは嫌だ。高貴な私をこんな雑事に使うのだから」


 うるせえ、借金持ちは黙って食ってろ。

 俺は仕方なく二人のスープをよそってテーブルに置く。

 マックスは礼を言ったが、イーサンは礼も言わずに優雅に食べ続ける。

 その間もグチは止まらず、マックスは律儀に相槌を打っている。

 俺の平穏な朝は、短い間しかもたなかった。

 祭りの後から何事もなかったかのように、イーサンはまた俺の家に朝食を食べに来ている。

 もう少し大人しくさせてても良かったんじゃないかと後悔した。

 ストロム祭りの次の日から、イーサンは仕事に出るようになったらしい。

 ボニーとの事を吹っ切れたどうかは分からないが、また働いて金を作っては、女に癒やしてもらう為に金を払うという生活に戻ったようだ。

 そもそも誰かの下で働くのが嫌なら、女に貢がず借金を早く返し終えればいい。それなのに、話で聞く限りでは、借金が減っている様子はない。

 真人間になるために、ようやく一歩前進して、また戻ったような気さえする。

 いや、待てよ。

 もしや、俺はイーサンが借金を返し終わるまで、ずっと搾取され続けるという事か?

 嫌な想像をしてしまった。


「ダンジョンについて、新しい情報はあるか?」


 話を聞きながらどんどん肉を食べ尽くしていくマックスに、イーサンが言う。

 ああ、またソーセージがなくなる。


「おう、今日も潜ってくるぜ。ちょうどパットに誘われてるんだ」


 確かパットはバルト伯爵の家に行った時に、マックスが組んでいたパーティのリーダーだな。

 よっぽど馬が合ったのか、ダンジョンの攻略にマックスを誘ってくれたらしい。


「それにしても驚きだよな。ダンジョンが成長するだなんて。他の場所でもあるのか?」

「私が城に居た時にも聞いた事はない。まあ全てのダンジョンが攻略されている訳ではないから分からないが」


 ダンジョンの花は2時間程咲いてから枯れ、枯れた所に小さなふくらみが出来たという。

 それは果実じゃないかと思われている。

 そもそも常緑樹だと思われていたダンジョンの木に、果実がなるだなんて思いもしなかった。

 その上、ダンジョンの内部にも変化があった。

 今まで最下層だと思われていた場所に、新たに下に通じる階層が発見されたのだ。

 冒険者達はこぞってダンジョンに殺到した。

 そこには新しい魔物、新しい宝箱が当然のようにあったからだ。

 つまり、最下層だと思われていた場所は最下層ではなかった。

 発見されたのがストロム祭りの時だったのも、災いだった。

 祭りが終わったら、当然のように冒険者達は帰るかと思われていたのに、今回の騒動で滞在を伸ばす冒険者が大勢でた。

 商人たちは帰っていったが。

 ギルドでも騒ぎになって対応に追われている。

 ギルドの寮は、当分閉鎖出来なさそうだ。


「問題は、今の成長が一時的なものなのか、まだ途中なのかだ」

「どういう事だ?」

「今回咲かないと思っていた花が咲いたという事は、次に起こる事はなんだと思う?」

「さあ、なんだ?」


 脳筋はやっぱり物事を深く考えないらしい。

 ただ新しい階があるぜ、ヤッホーぐらいの気持ちなのだろう。


「マックスは少しは考えろ、ナルはどう思う?」


 呆れたようにイーサンが言ってから、ナイフで俺を指す。


「大体の植物は、花が咲いたあとに果実がなったり、種を残す。そして成長するという事は、枯れる可能性もある」

「その通りだ。一概に全てのダンジョンに当てはまるとは言えないが、この町のように植物の形態をとっているダンジョンも他にはある」


 洞窟が変化したものや、誰が作ったのか高くそびえる塔の形状のもの、屋敷の形のものなど色々ある。


「その全てのダンジョンが今回の事例のように成長するのか、もし果実がなり種がとれるとしたら、同じ様に植物の形をとっているダンジョンは増えていくものなのか。これはダンジョンの成り立ちにも関わってくる重大な研究になるだろう」


 そんな事よりも、俺の店も冒険者共が大勢やってきて、面倒な事の方が重大だ。

 しかも普段見かけない奴らまで居るから、ポーションやら異常回復薬やらをどんどん買っていく。

 まだ口コミでしかどんな魔物が出るとかが分かっていないから、売れる傾向が掴めていない。

 一応メモをとって売れやすいものは重点的に作っていこうと思っているが、追われているようで嫌な感じだ。

 一番早い冒険者のパーティでも、まだ最下層まで辿り着いていないようだから、この状態はまだまだ続くだろう。

 儲かるのはいいが、一人ではオーバーワークになる。

 何でもいいから、早く攻略しろ。


 

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