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17

 次の日、ガイラー男爵を王都まで移送する為に、ロレッタ嬢は王都へと帰るというので、マックスと見送りに行った。

 マックスはロレッタ嬢と婚約をする事が無くなったからか、元気いっぱいだ。

 ロレッタ嬢の指示で拘束されたガイラー男爵が馬車に乗せられる。

 ガイラー男爵は最後まで暴れていたが、拘束されてるんじゃ無駄なあがきという所だ。ロレッタ嬢の部下だという騎士達三人に、あっさりと馬車に乗せられていた。

 実はロレッタ嬢は一人で来た訳ではなく、小隊を隣の町に待機させていたらしい。

 副隊長が一人で捜査をしている訳がなかった。

 本当は全員をこの町に連れてこようとしたが、すぐにこの町は閉鎖的で大勢の騎士なんて連れてきたら目立ってしょうがないと思って、待機させていたらしい。

 まずはロレッタ嬢一人でガイラー男爵を探って、応援が必要だったら呼ぶ手筈になっていたという。

 さすが女性初の副隊長だけあって、有能すぎる。

 男を見る目が無い以外は、完璧だ。

 きっと昨日は裏取りや、王都とのやり取りの為に寝てないだろうに、騎士服にもくたびれた所はなく爽やかな笑顔だった。新しい婚約者候補が出てきたのだ。張り切るのもわかる。 

 その後に騎士に連れられ、拘束されたボニーが出てきた。

 俺と目が合って、小さく会釈をされる。

 その顔は晴れやかだったが、俺の心は複雑だった。

 ガイラー男爵に命令されて指示に従っていたとは言うが、妹は大丈夫なのだろうか。


「彼女の妹はこちらで保護する事になった。話しを聞く限り彼女も被害者の一人だし、事情も聞かないといけないからな。治療が必要だったら適切に処置をするつもりだ。治療費は彼女の奉仕代から返して貰うことになっている」


 俺の心を見抜いたかのように、ロレッタ嬢が言う。

 その言葉に少し安心した。

 肝心のクリスが居なかった所を見ると、逃げ切ったのか言いくるめたのか分からないが、解放されたらしい。

 面倒だから、さっさと結婚して冒険者を引退してくれていると良いのだが。


「元気のいい罪人でしたね」


 相変わらず何を考えているのか分からない笑顔でギルド長が出てくる。


「ええ、ギルド長が快く拘留先を手配してもらえたので、スムーズに事が運びました。感謝いたします」

「いえいえ。王城の騎士に貢献するのは、ギルドの務めですから」

 罪人の拘束にダックウィードの冒険者が貢献した事や、拘留先の配などもしたのはギルド長だった。

 王都のギルドにもギルド長の功績は良く伝えておくとロレッタ嬢が言うと、ギルド長は大きく微笑んだ。

 ギルド長もクリスの犠牲一つで、また株があがったと思えば上機嫌になるのも当然か。


 こうして、騒がしい一団は王都へと向かっていった。

 当然の事だが、イーサンにはボニーが旅立つ事は言っていない。

 むしろ振られたショックで部屋に引きこもっているらしい。

 結婚する前で良かったじゃないかと俺なんかは思ったが、浮かれ切っていた姿を思い出すと少し哀れにもなる。

 マックスは自由になった事で生き生きと朝食を食べに来て、いつものように今日は何の依頼をするとか、聞いてもいないのに喋っていく。

 ミラとは仲直りをしたらしい。

 あいつらは本当に脳みそが一緒なんだな。

 



 そして何事もなく一週間が過ぎて、ストロム祭りが始まった。

 部屋に閉じこもって仕事に出てこないイーサンに、いよいよシビルの我慢も限界になった。

 いつものように黒服を従え、不貞腐れたイーサンを置いて行った。

 文句を言ったが、保護者だったらどうにかしろって言い捨てていったが、俺は決してイーサンの保護者ではない。

 ちょうどマックスが祭りに行こうと言ったので連れていく事にした。

 人が大勢居る方が気が紛れるだろう。

 ストロム祭りの日はどこもかしこも賑やかで、この町にしては珍しく冒険者でない人たちも大勢居た。

 珍しい屋台も数多く出され、マックスが抱えきれないぐらい屋台飯を買った。


「本当はここでボニーにプロポーズを……」


 傷を抉っていたらしい。

 俺は、いつまでもブツブツとうるさいイーサンの口の中に、食べ物を突っ込んでいく。

 途中でトビーがココと一緒に、エパルという果物にあめをかけたものを食べているのを見かけた。

 この日は子供でも夜遅くまで出歩いてもいい日だからな。

 二人は俺に気が付かないまま、別の屋台を見つけてはしゃいでいる。

 仲直りはしたようだ。

 俺のアドバイスを聞いたのか、ココの髪にはトビーが贈ったであろうピンク色の花が飾られている。

 ふん、まだココを任せるには頼りないが、今のところ預けておいてやろう。

 ダンジョンの周りは綺麗にライトアップされていた。

 それだけなのに、見慣れたダンジョンが、幻想的なものに思えてくるから不思議なものだ。

 パン屋の親父は余程張り切ったのだろう。


「すげーな」


 思わずと言ったようにマックスが声を漏らす。


「確かに」


 初めて見た二人は、ダンジョンの幻想的な様子に感動している。

 俺は、まあ三回目となれば慣れている。

 綺麗だとは思うが、それだけだ。

 町の人や外部の人も静かに堪能していたが、ダンジョンの近くに居る人たちがざわつき始めた。

 皆一様に一つのところを指さしている。

 指を指す方向を見ると、ダンジョンの木に小さい白い花が咲き始めるのが見えた。


「なんだ、あれ?花か?」

「花だと!?ダンジョンに花が咲くなど聞いた事などない。ナル、祭りの時はいつもなるのか?」


 イーサンもマックスも驚きの声を上げているが、俺も同じ気持ちだ。

 今まで祭りは何度もやってきていたが、花が咲くだなんて変化はなかった。

 そもそも祭りに反応したのか、タイミングが良かったのかも分からない。

 白い花は月の光とライトを浴びて、ほんのりと青白く発光している。

 そもそもダンジョンの木はそれ自体が高魔力で出来ていて、普通の植物とは違いオブジェクトという扱いだった。

 つまり、傷つける事も出来ない建物に近いものじゃないかというのが通説だった筈だ。

 花が咲いたという事は、ダンジョンは生物であり、成長をする可能性もあると言う事だ。

 しかも今日はこの町の人たちだけでなく、外部からも沢山の人間が来ていて目撃者も多く、隠すことも不可能だ。

 当然大騒ぎになった。

 お読みくださり、ありがとうございます。

 明日から最後の章に入ります。少し憂鬱な展開が続きますが、よろしくお願いします。

 続きが気になりましたら、☆やブックマークなどお願いします。

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