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あれからも当たり障りの無い会話のまま、ギルド長達は帰っていった。
十分時間がたってからエリンを起こすと、恐縮されたから気にしなくていいと伝え、ギルドまで送っていった。
家にまで行くのは憚れるからな。
次の日親父に報告に行ったら、鼻で笑われた。
「なんか、もっと凄い秘密とか探ってこいよ」
一般人に何を期待しているんだか。
期待していた通りの情報じゃなかったからか、タダで食べれるのは3日に減らされた。
癒やしであるココが居ないから、ガッカリした。
眠い目を擦りながらも店番をする。
相変わらず冒険者達は品がない。
しかも店内を見回して、ギョッとされる。
何故だと疑問に思っていたら、町の人に「なんか魔物の襲撃でもあるのか?」と聞かれてしまった。
ああ、そういえば魔除けの札張りっぱなしだったな。
冒険者なんて魔みたいな物だから、いいか。
昨日は夜遅くまでシビルの店に居たから今日は早く寝ようと思ったら、ドアが静かに叩かれる。
ドアスコープから覗くと、キョロキョロと周りを見回し挙動不審なマックスが居た。
何故、ここに居る。
無視して寝ようと思ったが、聞こえないと判断されたのか、徐々にノックの音が大きくなっていく。
っていうか、せめて営業中に来いよ。
俺は苛立たしく思いながらもドアを開ける。
「何だよ」
「お、ナル。なんか久しぶりだな」
「あ、ああ。……お前は、なんかやつれたな」
笑顔なのに、心無しかげっそりしている。
「何か買いに来たのか?」
「いや、違う」
マックスはキョロキョロと辺りを見回して、挙動不審としか思えない。
そういえば。
「ロレッタ嬢はどうしたんだ?」
あからさまにマックスの目が泳ぐ。
「……まいてきた」
「は?」
まいてきたって、ロレッタ嬢は俺の店の場所知ってんじゃんか。
また襲撃されるんじゃないか?
俺も、つい外を見まわしてしまう。
「何でうちに来るんだよ」
「俺だってたまには一人になりたいんだよ。毎日毎日連れ回されて、寮の部屋にも入ってきて、勝手に入り浸るんだ」
ああ、確か彼女は騎士団に入っているんだっけ。
もし歯向かったとしても、ヒョロい初心者冒険者など一捻りだろう。
「酒も飲みに行きたいのに、そこもロレッタの手が回ってるし」
そういえば、シビルの店の女の子達を全員味方にしたって、イーサンが言っていたな。
「俺は、一体どうすればいいんだよ」
素直に結婚すればいいんだよ。と言いたかったが、、大げさに嘆くマックスを、以前売ってしまった事もあって、俺は強く突き放す事が出来なかった。
「分かった、分かった」
俺は一回部屋に戻ってかばんをとってから、秘密の場所へと連れていく事にした。
♢
町に酒を出すのはシビルの店しかないが、例外がある。
それは本当に町の人しか知らないような喫茶店だ。
夜に限られた人にのみ、酒をこっそりと提供しているのだ。
大通りに面していない、民家のような場所で冒険者は絶対に知らない。
俺は一回、薬を格安で融通してやったから、知っているが、本当は秘密にしている。しかし、マックスムがあまりにも萎れているのも面倒なので、連れてきた。
「へー、こんな場所があるんだな。何で教えてくれなかったんだ?」
うるさいからに決まってるだろう。
ここはマスターが一人で経営している隠れ家的なカフェだ。
マックスは騒がしいから連れてきたくなかったが、家に居てロレッタ嬢に襲撃されても困る。
ここだったら町の人しか知らないから、これないだろう。
カウンターにつき酒を頼むと、既に心得ているマスターが用意してくれる。
「でさ、本当に辛いんだよ」
「結婚しちゃえばいいだろ。そんなにお前の事を好いてるんだから」
「あんな凶暴な女は無理だ。それに、俺は跡を継ぐとか無理だ。勉強してない」
学園時代のマックスの成績は酷かったもんな。
ロレッタ嬢の下には10離れた弟が居るらしいが、まだどちらが跡を継ぐかは決まっていないという。
「結婚は貴族の義務だろ。平民な俺には分からないけど」
「長男が結婚したら俺は平民に落ちる。それまで逃げ切る」
何て男らしくない決意なんだ。
あのロレッタ嬢から逃げられるかは疑問だが。
「長男はいつ結婚するんだ?」
確かマックスの長男は28歳になるはず。
この年まで独身の貴族なんて逆に珍しい。
「さあ。ジジイが引退して、親父が騎士団長を辞めたらじゃないのか?婚約者もあまり結婚には興味がないタイプらしいからな」
話でしか聞いた事はないが、マックスの祖父も騎士団長をしていたらしい。
今は領の兵を鍛えるのに夢中で引退する気はないという。
前が退かないと次も退けない。
貴族社会も大変だよな。
「マックスは、貴族じゃなくなってもいいのか?」
「元々俺は三男だから覚悟してたしな。それに、ここ何ヶ月か冒険者として活動してみたが、結構楽しい。必要だったら騎士団に戻ればいいだけだしな」
いや、お前クビになってるから戻れないだろう。
まあ父親がマックスに甘いらしいし、どうにかするのだろう。
マックスと話していると、騒がしいカップルが入ってきた。
「こんな所しかないのかよ」
「仕方ないじゃない。他に今働いてる所意外にお酒が飲める店って定食屋みたいな所しかないのよ。バレたらマズイんでしょ?」
「まあ確かに。本当にしけた町だ」
聞き覚えのある声に、こっそりと振り返ると思った通りにガイラー男爵とボニーと呼ばれた女だった。