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 次の日、早速気になった俺が定食屋に行くと、見たくもない二人組と目が合ってしまった。

 会釈だけして離れた席に座ろうとしたら「何でそっちに座るのよ」とミラに言われてしまい、渋々隣のテーブルの椅子に座る。

 エリンが小さく謝ってくれたが、フォローするのはもっと前だろう。

 ココは忙しいのか今は居ない。

 俺の癒やしが。

 代りに、いつもは厨房に居る親父が注文を取りにきた。


「今日の日替りはメンチカツだ。水はカウンターにあるから、申し訳ないが自分でいれてくれ」

「わかった。日替わりで」


 メンチカツは昔の王が広めた食事の一種だ。魔物の肉をミンチにして衣をつけて揚げる、中々手間のかかるものだが、余っている肉をなんでも使えるので、俺も定期的に作る。

 一種類しか日替りがないのは、忙しいからだろう。

 仕方ないが、親父が作るものは全て旨いから問題ない。

 注文を聞くと、親父はすぐに厨房に戻った。

 俺はカウンターに水を取りに行ってからテーブルに戻る。

 二人はもうすぐ食べ終わりそうだ。

 失敗した。もうちょっと後に来れば良かった。


「何か久しぶりな気がするわね」


 俺が水を持って戻ってきた事に気がついたミラが、何故か俺を睨みながら話しかけてくる。


「この前納品に行ったばかりだろ」

「違うわ、ここで会うのよ」


 それは遭遇しない為に、行く時間を変えたからだ。

 言わないけど。


「ミラ、八つ当たりしないの。今日は外部からのお客さんが多くて忙しいから、私達は遅くなってしまったの」


 エリンがミラを諫めるように呼ぶと、丁寧に説明してくれる。

 ギルドも外部から人が来ると警戒したり、依頼が増えたりで忙しいのだろう。


「そんなに沢山来ているのか?」

「ギルド長は毎年これくらいだって言ってましたけど、私達には初めてなので」


 ああ、二人は今年から配属されたんだもんな。


「宿が三軒しかないのに予約も取らずにやってくる冒険者が多くて、ギルドの寮を有料で解放しているのよ。無駄な業務が増えてパンクしそうよ」


 この町には宿屋が三軒しかない。

 大体短期の冒険者しか滞在しないから、普段だったら十分間に合う数なんだろうが、祭りの時期になると商人やら貴族が宿屋を押さえてしまう。

 そして、そんな金を持っている人達はもれなく護衛に冒険者を雇ったりしてるんだろうが、大体行くまでの分の依頼しかない。

 その後滞在しようとすると、冒険者は自分で寝床を探さなければならないが、宿屋は押さえられていて入れない。

 そんな考えなしの冒険者はギルドで騒ぐ。

 ギルド長も頭が痛いだろうな。


「ほれ、出来たぞ」


 喋っている間に料理が出来たようで、親父が持ってくる。


「ココは?」

「ココはしばらく店を休ませている」


 親父がギリギリと歯ぎしりをしながら答える。


「どうして?」


 ミラは知らないのか、好奇心のままに聞いてしまう。


「ふざけた貴族がココに惚れたとか言って、毎日のように来てはココに話しかけるから、仕事にならないんだ。デートしようとか、町を案内してくれとか」


 うわ、思ったよりもストレスが溜まっているようだ。


「ココちゃん可愛いもんね」

「可愛いのは分かるが、まだ子供だ。そんな子供に付きまとうだなんて、録でもない奴に決まっている。営業の邪魔になるし叩き出したいが、貴族だからこっちは強く出られない。だからしばらくは店に出さない事にした」


 賢明だ。


「ココちゃんはどう思ってるの?」

「戸惑っているっていうのが、正直な所だな。でも好かれて悪い気分ではないようだ。あいつが花を持ってやってきたりするし、昨日は絵本に出てた王子様に似てるなんて言っていた」


 貴族は大体貴族同士で結婚をするから、顔が整っている事が多い。

 確かに、この町で女の子に花をプレゼントしようと考えるような男は居ないな。

 頑張れトビー。


「駄目よ、貴族なんて、録でもないわ」


 親父の言葉に同調する奴が居た。


「デートしようとか可愛いとか言ってたのに、実は婚約者が居たとか、本当に最低よ。親父さんがココちゃんを休ませたのは正解よ。今日も朝から魔物狩りデートに行くとか言って、二人で腕を組んでやってきて、見せつけてきたわ」


 腕を組んでいた?

 絶対引き摺られていたの間違いだろう。

 げっそりしているマックスの顔が、容易に浮かぶ。


「やっぱり結婚するなら、遊びで冒険者をやっている貴族よりも、上位冒険者の方がいいわ」


 Aランク以上の上位冒険者になると、平民でも貴族と同等の権利が与えられ、更に大きな功績をとると爵位が叙爵される事がある。

 と言っても、爵位を与えるぐらいの功績なんて、戦争が起こらない限り難しい。

 後は伝説であるドラゴンを倒すとかすればいいのだが、ドラゴンに挑むだなんて死ぬのと同義だ。

 存在すらも怪しいからな。


「ココはまだ誰にも嫁にやらん」

「ココちゃんの目を覚ましてあげないと」


 そもそもココは、まだ結婚も出来ない年だからな。

 っていうか、祭りが終わればその貴族だって帰るだろう。

 そうすれば平民のちょっと可愛い子の存在なんて、すぐに忘れるだろう。


「そういえばギルド長が、今日接待で貴族の案内をするって言ってたわ。接待といえばシビルさんの店に行くに決まってる。お酒を呑めば、貴族だって醜態を晒すでしょうし、ココちゃんだって幻滅するわ」

「いい考えだ、お嬢さん。頼まれてくれないか、ナル?」

「何で俺が」

「俺は、夜はかみさんの所に居てやらないと」


 親父の嫁は今臨月だ。

 確かに家から出れないだろう。


「それに見てきてくれれば、ここで一週間タダメシを食わせてやろう」


 ちょっと心が揺らぐ。


「だ、駄目ですよ。夜のお店ですよね、よ、良くないと思います」

「あら、心配なのエリン?」

「そんな事ないけど……」

「心配ならエリンも行けばいいじゃない」

「え?」

「そうよ、あの女よりも金を使って、目立ってくるのよ」


 それは無理だろう。

 何故か俺はエリンと一緒に、シビルの店に行く事が決定してしまった。

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