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嫌な事はさっさと終わらせるに限る。
俺は外出中の札をドアノブに引っ掛けて、上着を羽織ってからエリンと一緒にギルドへと向かう事にする。
エリンは終始申し訳なさそうな顔をしているが、彼女が悪い訳ではない。
元から昼の鐘から三時間は外出している事が多い。
休憩をとるのは勿論、個人的な依頼の薬を届けに行ったり、足りない薬草を仕入れに行ったり、普通に買い物に行っている。
町の人たちもその事は知っている。
知らないで騒ぐのは冒険者ぐらいだ。
しかし、このような昼間に来る冒険者は冒険者のランクとしても、人間性としても屑なので放置しておいて問題がない。
常識のある冒険者が来るのは依頼が終わってからなので、夕方になる。
それまでの時間は暇なのだ。
ギルドに入ると、やっぱり冒険者は数える程しか居なく、閑散としている。
その中にカウンターに向かって受付嬢に熱心に話しかけている一人の冒険者らしき男が居る。
いや、冒険者というにはこざっぱりした格好の上に、武器などを持っている気配がない。
収納バッグの中に持っているとしても、冒険者という生き物は自分の力を誇示したい生き物なのに、出していないというのは変わっているとしか言いようがない。
どっちかというと依頼をする側の人間だ。
それにしても、あの黒い髪色は苦手だ。
北の辺境には移民の血が混ざっているので、黒い髪に体格のいい男が多いのは分かっているが、会いたくもない奴を思い出す。
まあ、そいつは俺と違って城の騎士団に配属されたはずで、こんな田舎に居る訳は無いと思うが。
それでも北から来た人が、こんな王都の西にある町には珍しい事だ。
エリンが盛り上がっている二人に躊躇いがちに声をかけた。
「マックスさん、ナルさん呼びに言ってきましたよ」
俺は聞き覚えのありすぎる名前に、そいつが振り向く前に、閉まったばかりのギルドの扉に手をかけ外に出ようとしたが、一歩遅かった。
「せっかく会えたっていうのに、どこ行くんだよナル」
肩に手を置かれてしまい、渋々振り返ると、二年前と全く変わらない爽やかな笑顔のマックスが居た。
「人違いだ」
「そんな訳ないだろう。会いたかったぜ、友よ」
そう言って嫌がる俺の抵抗を無視して、マックスが抱きついてくる。
筋肉達磨のマックスに抵抗するだけ、普通体型の俺には無駄だった。
「っていうか、何でマックスがここに居るんだ」
城の騎士に配属された新人は、3年は上司の言う事にも逆らえずしごかれると聞く。
強い魔物の出現や戦争も無い今、間違ってもこんな寂れた町に居る事なんてないはずなのに。
「ナルに会いたかったからだな」
意味不明だ。
そういう台詞は、好みの女に向かって言え。
「凄い、マックスさん。今のどうやったんですか?移動魔法?」
カウンターでさっきまでマックスと話していたであろうミラが、空気も読まず歓声を上げる。
その隙に、俺は腕の中から抜け出した。
また力が強くなったんじゃないだろうか?
全く成長のない俺は、八つ当たり気味に膝の裏を蹴るが、ガハハと笑うマックスには効いてる気配がない。
「凄いだろ。もっと褒めてくれていいんだぞ」
ガハハとマックスは笑いながら筋肉を見せつけるようなポーズをとる度に、ミラは歓声を上げている。
まさかマックスみたいな筋肉達磨が好みなのか?
趣味悪い。
それにミラは勘違いしている。
さっきマックスが使ったのは魔法ではない。
頭まで筋肉で出来ているマックスが魔法だなんて繊細なものが使える訳がない。
今のは学園に居る時でも、マックスが良く使っていた縮地だろう。
範囲は人によって違うが、距離を一気に縮める事が出来るスキルで、身体強化系のスキルを持つ奴が良く覚えているスキルだ。
それでも、5メートルもの距離を一瞬で縮める事の出来る奴は学園でも数える程しか居なかったが。
「ナルを呼んでくれてありがとうな」
マックスがエリンにお礼を言う。
エリンは小さな声で仕事なので。と言う。
余計な事しやがって。何て言ったら泣かれそうで心の中だけで止めておいた。
「何でマックスがギルドに居るんだ?一体俺に何の用だ?」
矢継ぎ早に質問をするが、マックスに全く気にした様子はない。
そういう所も昔から気に食わない。
「うーん。話すと長くなるからな。ギルドに行ったのは、人を探すには冒険者ギルドに行くのがいいと先輩に教わったからだ」
誰だ、迷惑な事を教えたのは。
確かに冒険者ギルドは町の情報に詳しい。
頼ったのは正解だが、見つかりたくない奴に余計な知識を与えた奴を半殺しにしたくなった。
と言ってもこいつの友達なんてきっと同じ筋肉達磨だろう。
半殺しは無理だ。
試作中の激マズイポーションの被検体ぐらいに抑えておこう。
何であんな苦味が出るんだろうな。
効果は抜群なのに。
「…ル、ナル聞いてるのか」
「ああ、聞いてなかった」
「またトリップしてたのかよ。ナルも変わらないな」
うるせえ、現実逃避だ。
お前と向き合うのが面倒だからだ。
「それよりも腹減ったんだが」
能天気な声に怒るのも馬鹿らしくなってくる。
いつもそうだ。
俺だって何も食ってないから腹が減ってるよ。
「来たばかりで旨い店とか分からないから、とりあえず連れていけよ。そこで俺がここに来た訳とか話すよ」
「分かった」
とりあえず話しを聞かないと対策が出来ない。
何か用があってこの町に来たんだとしても、穏便に出て行ってほしい。
マックスは愛想よくミラに手を振ると、俺と一緒にギルドから出た。