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6

 ギルドへの納品日が過ぎると、次はシビルの店への納品だ。

 前回ギリギリだったから、今回は日付を確かめながら前から準備していたのだ。

 前回多めに薬草を採取しておいたから在庫はたんまりあったから、冒険者に依頼を出さずに済んだ。 

 良いことだ。

 昨日の夜から数えて綺麗に箱詰めしておいたのを、もう一度確認してから、いつものように薬草畑に水を手早くやる。

 少し雑になってしまったが、この前マックスに手入れをさせたから大丈夫だろう。

 この少しの惰性が大きくなると知っているが、仕方ない。

 人間はすぐには変われないのだ。

 朝食の準備をして二人を待っていたが、二人はやってこなかった。

 いや、来ないなら来ないで連絡ぐらいしろよ。

 俺は怒りを抑えながら、二人の為に用意した食事を保存箱に入れた。

 冷蔵の保存箱は高いので容量は少ないが便利なものだ。

 昼食にでもしよう。

 午前中はいつものように街の人達相手に薬を売る。

 話題は専らストロム祭りについてだ。

 やれ、隣町から何々が来たとか、王都で流行っている何々も出店するらしいとか、服屋が限定で新しい柄のスカーフを販売するだとか、外部からの観光客で宿屋がいっぱいになっているとか、出店依頼が多くてパン屋の親父が張り切りすぎて腰が痛いようだとか、色々だ。

 俺の店は商店街から外れた場所にあるから、祭りに向けて何かを出店する気も、協力する気もない。

 ちょっと前までサウナを出していたし。

 パン屋の親父が住民代表だから、とりまとめているのだろう。

 だから金だけは言われた通りに払っている。

 一人で経営している店だから仕方ないと分かってくれている。

 外部から人が入ってくる事に対して複雑に思っている声が多いが、年に一回だからか若い奴の楽しみを奪う訳にはいかないと老人はため息をついてから薬を買って出ていく。

 長話はするが、付き合った礼なのか必ず安くても何かを買っていく。

 時間に対して見合ってない気もするが。

 その後もパラパラとやってきた街の人相手に薬を売っていると、あっという間に昼の鐘が鳴った。

 俺は朝の残りを食べてから、早速箱詰めにして置いた薬を持ってシビルの店に行く。

 店に入ってカウンターに箱を置いて納品に来たと告げると黒服がシビルを呼んできて、確認をしてもらう。

 俺はあまり見ないようにしながらも、不自然に黒服がその空間を避けて掃除している場所について、いつ問いかけようかとタイミングを見計らっている。


「はい、確認終わったよ。来月もよろしくね」


 大量に金貨の詰まった袋を渡され、カバンに入れる。


「なあ、あれは何をやっているのか聞いてもいいのか?」


 不機嫌そうな顔をしたシビルに問いかけると、頭が痛いというように額を抑えた。 

 目線の先には接客用のソファー寝転がりながら、ダラダラとお菓子を食べているアディラの姿があった。

 寝転びながら食べているせいか、ポロポロと欠片が落ちていくのを黒服がサッと掃除をしている。

 そして、またその空間だけ避けて、別の場所の掃除をしている。


「アディラ、部屋でやれって言ってるだろ」

「ヤダー、部屋だと落ち込むもん。誰か居た所でだらける方がいい」


 黒服にとっては迷惑でしかないだろう。

 それにしても、俺に突っかかってくる気力もない程だらけてるなんて珍しいな。


「何かあったのか?」

「祭りで人が多くなるからさ、その間だけ働いてくれる子を王都で募集したのさ。その新人と反りが合わない上に、珍しさから指名する客も多くて、機嫌が悪いのさ」


 まあ女の子と酒を飲める店はこの一軒しかないだろうから、忙しくなるのは仕方ない。

 その間新しく人を雇うのも当たり前だ。

 不機嫌になる方が間違っている。


「アディラは来た時からうちのエースだったからね。脅威になるような相手が出てきて荒れてるのさ」

「なによ、みんな私が一番だって言ってたのに手の平返したように新人に夢中になって。あんたもよ」


 いきなり絡まれた黒服はまたかよ。みたいに呆れた顔をして無視している。

 きっと何度も繰り返されたのだろう。

 シビルもため息をついている。


「あれだけ長い時間の付き合いがあったっていうのに、新人の方に注目されるだなんて」


 ブツブツ言いながらも合間にお菓子を貪る。

 絡まれる前に逃げるのが一番だな。


「じ、事情は分かった。じゃあまた来月納品に来るから」

「ナル」


 ヤバい、気づかれた。

 いや元から気づいていたのか?

 分からんがさっさと逃げよう。

 扉から出る前に服の裾を掴まれる。


「は、離せ。用は終わった。帰るんだ」

「嫌ー、ナルまであの新人がイイって言うの?」


 良いも何もその新人の顔すら知らないっつーの。

 っていうか、服が伸びる。

 数が少ないんだから止めろ。


「やっぱり胸が無いから?ナルも胸が大きい方がイイって言うの?」

「だから、知らないって」


 いいから離せ。

 シビル止めろ。


「ナル、何やってるんだ?」

「イーサン」


 助けの声は、まさかのイーサンだった。

 そういえば、ここに一緒に住んでるんだったな。


「アディラ、私はナルに話がある」


 アディラは手を離したが、イーサンを睨みつけたままソファーに戻った。

 なんだ、仲が悪いのか?


「話ってなんだ?」

「ここじゃ落ち着かないだろう。私の部屋に来い」

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