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 ロレッタ=ソーヤー子爵令嬢は、子供の頃から曲がった事が嫌いな少女だった。

 家の環境もあったのだろう。

 そもそも北の国境との境にあるフレッカー辺境伯は、先の戦争で敵国からの防衛を果たしたが、西のバルト辺境伯が防衛した上に、領地を広げた事に関して、並々ならぬ対抗心を燃やしていた。

 次に戦争があった時にはバルト辺境伯に対抗しようと、真面目に軍の整備などをしている。それは現在に至るまで続けられている。

 まあ、対抗する前にバルト辺境伯は領地経営の才能が無さすぎて、せっかく侯爵にまで上がったのにも関わらず、領地は削られ元の伯爵の地位に落ちて、辺境ですら無くなってしまったが。

 そんなフレッカー辺境伯の分家であるソーヤー子爵は、フレッカー辺境伯に傾倒している家の一つであった。

 そのような環境もあって、ロレッタ嬢は淑女教育よりも、剣を振るう事に熱心である少女であった。

 親も辺境を守るにはふさわしいと褒めるから、余計に彼女は熱心に行っていた。

 年齢と共に落ち着くだろうと両親も思ったし、逆に頼もしいと思い喜んで進めてすらいた。


 しかし彼女が6歳になっても変わらなかったことで、、いつまでも兵士に混じって剣を振るっているだけでなく、同年代の友達も作らなければならないと考えた両親により、王都の同年代の貴族が集まる茶会に連れられていった。

 いつもと違う着飾られ、動きにくいドレス姿に、多分彼女の機嫌はそんなに良くなかった。

 それでも同じような年齢、境遇の子供たちが集まれば自然に仲良くなる。

 だけど、同年代の女の子達の話題は勉強の進み具合や、新しいドレスやぬいぐるみの話ばかりで、ロレッタ嬢の好きな剣の話をする女の子など、一人も居なかった。

 元来じっと座っているのが苦手なロレッタ嬢は、退屈で早く領地に帰りたいと思っていた。

 そんな中で事件が起こった。

 一人の男の子が女の子に意地悪をしたのだ。

 それは、気になったからちょっかいをかけた程度の軽いものだっただろう。

 子供の中では良くある事だ。

 だけど、元からストレスが溜まっていたロレッタ嬢の怒りは爆発した。

 女の子をからかった男の子を、拳骨で殴り飛ばした。

 殴られた男の子は、何が起きたのか分からずビックリしていたが、その後に湧いたのは怒りだった。

 取り巻きの他の男の子達も入れての、乱闘騒ぎ。

 会場に用意されたテーブルはひっくり返り、綺麗に盛り付けられたお菓子は食べる前に床へと落ちてしまった。

 ああ、無惨。

 大人達が気がついた時には、女の子達に取り囲まれて誇らしげにしているロレッタ嬢と、叩きのめされた男の子達が泣いていたという。

 子供同士の喧嘩という事でロレッタ嬢の家にも、最初に手を出した男の子の家にも咎めは特になかった。

 しかし、ロレッタ嬢が男よりも強い暴力女だという噂が広まってしまった。


 貴族の子女は早い子だと、8歳になる頃には婚約を決めたりし始めるが、当然ロレッタ嬢には婚約の話しなど来なかった。

 貴族の子女は、大人しく家を守る従順な子を求められる事が多い。

 ロレッタ嬢は、まさに正反対だから当たり前だ。

 その事で両親はロレッタ嬢が悲しむかと思ったら「自分より強い男じゃないと結婚したくないから、丁度いい」と言われてしまった。

 両親は彼女の言動に頭を抱えたくなったが、まあ辺境にずっと住むのなら問題ないと考え直した。

 土地柄か、ソーヤー両親もあまり細かい事を気にする性分ではなかったのだ。

 本人は辺境の軍に入ると意気こんでいるから、そこで相手を見つければいいと悠長に考えている内に2年がたった。


 フリッカー伯爵の誕生日パーティに招待されたロレッタ嬢と両親は、フリッカー邸で挨拶をした。

 そして、そこにノコノコと息子として紹介されたの、がマックスだ。

 仲良く遊ぶように言われ遊んでいる内に、木登りをしようとマックスが言い始め、スルスルと一番上まで上り誇らしげにしてみせた。

 そして、ロレッタ嬢は女の子だから出来ないでしょ?

 と競争心の煽るような事を言ってしまった。

 重ねていうがマックスには他意はない。

 子供の戯言だ。

 競争心を煽られたロレッタ嬢はズンズンと木を登っていった。

 しかし、一応淑女であるロレッタ嬢は木に登るなんて初めての事で、苦戦していた。

 マックスもまさか登るとは思ってなかったので、早く降りて来いって言ったが、意地になったロレッタ嬢は降りてこなかった。

 そして、焦って足を踏み外して木の上から落ちてしまった。

 咄嗟にマックスが下敷きになった事でロレッタ嬢は無事だった。

 ロレッタ嬢の怪我は、落ちた時の枝に当たって少し擦り傷が出来た程度だった。

 むしろ潰されたマックスの方が、骨を折って重症だったという。

 しかし、最初に木に登ろうとロレッタ嬢を誘ったのはマックスだ。

 こっぴどく両親に叱られた。

 助けたのに叱られるなんて。と不満に思ったが、そもそも女の子を木登りに誘うのが悪いのだ。

 助けられたロレッタ嬢は、自分を助けてくれたマックスに恋をした。

 彼はまさに自分が求めていた、強い人じゃないかと。

 早速アタックを開始したが、マックスにはロレッタ嬢と遊んだ事で両親に叱られた記憶が強く残っていて、苦手意識をもっていた。

 なので、ロレッタ嬢の家から婚約の打診をしても、いつも逃げ回っていて、それが現在でも続いているらしい。



 マックスの話しを要約すると、そんな感じらしい。


「つまり傷物というのは」

「木から落ちた時に出来た擦り傷の事だな。俺が木登りに誘ったから、俺のせいといえば俺のせいだ。でもな、俺はあの女とだけは結婚したくないんだ」

「貴族の結婚は政略的なものもあるからな。諦めろ」


 同じ貴族であるイーサンの言葉に、マックスは立ち上がり堂々と宣言する。


「あと一年逃げ切ってやる。そうすればロレッタは25歳。さすがに逃げ回っている俺ではなく、誰かと結婚するだろう!それまで、何とか逃げる!!」


 全く男らしくない宣言に、つい冷めた目を向けてしまう。

 そもそも仕事もして自立している女性が、少し行き遅れたぐらいで、マックスの事を諦めるだろうか?

 甚だ疑問だ。

 平民にとっては行き遅れなど傷にもならないが、貴族にとっては違うんだろうな。

 俺には分からないが。

 その時、外からノックの音がした。

 出ると、さっきまで話題にしていたロレッタ嬢が、ドアの前に居た。


「やあ、ナル君。朝早くから申し訳ないね。ここにマックスは来ているかい?」


 俺が無言で頷くとロレッタ嬢は「入っても?」と聞いてくるので許可を出す。

 するとマックスの断末魔のような叫び声がした後に、マックスをひきずったロレッタ嬢が戻ってくる。


「邪魔したな」

「あ、はい」


 爽やかな笑顔で去っていくロレッタ嬢を俺は見送った。

 そんな調子で1年逃げ切れるのか?

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