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朝家のドアを開けると、地面に這いつくばっているマックスと、そんなマックスなんて興味なさそうに眺めているイーサンが居た。
何かつい最近も、同じような光景を見た気がするが、きっと気の所為だろう。
「イーサン、おはよう」
「おはよう。今日の朝食はなんだ?」
「いつもと同じだ」
「つまらないな。人生には変化が必要だぞ」
そりゃ貴族の朝食は、毎日色々手の込んだものが出てくるかもしれないけど、平民は手をかける時間なんてないからな。
「嫌だったら来るな」
「……仕方ない、妥協してやる」
イーサンを家に招くと、俺はドアを閉めた。
「おい、待て、ナル。話しを聞け、俺もいれろ」
相変わらずドアの尊厳を破壊するように、マックスがドアを連打する。
直したばかりのドアがミシミシという嫌な音を立て始めた所で、俺はドアの隙間を細く開けた。
「一体何の用だ」
「ナル、お願いだ。話しを聞いてくれ!」
ここで閉めたらまたドアが犠牲になりそうだと判断した俺は、ため息をついてからドアを開けた。
「さすがナル。親友なだけある」
調子に乗ったマックスが肩に置いた手を叩き落とすと、しょんぼりとした顔をされたが、自業自得だ。
いつもの定位置に二人が座ってから用意しておいた朝食を出す。
今日はワンプレートに収めてみた。
じゃがいものガレットに自家製ウィンナー、それに卵を炒めたものにサラダを載せた。
「それじゃあ食べようか」
用意が出来て椅子に座り、俺とイーサンは朝食を食べ始めた。
「なんか俺の分少なくないか?」
「気の所為だ」
恐る恐る聞いてくるマックスに、あっさりと返す。
マックスの前に置かれた皿のガレットの大きさは、俺たちの四分の1程度の大きさにした。
もちろん卵はない。
お情けにベーコン一枚とサラダリーフ一枚置いてやっただけ感謝しろ。
「マックス、何かしたんだったら早く謝れ。ナルは意外と根にもつタイプだぞ」
根にもつって陰険みたいに言うなよ。
「だから何度も言ってるが、ロレッタと俺は婚約していない」
「嘘言うな、ロレッタ嬢は婚約者だと断言していたぞ」
まだ言い訳をするのか。
本当に見苦しい奴だな。
うるさいから家に入れてしまったが、今度から家に入れるのもやめるか。
「ロレッタ嬢が来てるのか?」
嫌そうな顔でイーサンが言う。
「知ってるのか、イーサン」
「ああ、有名人だ。と言っても俺たちが三年の時に卒業していったから、愚民であるナルは知らないか」
年上だったのか。
貴族女性の結婚年齢は18〜25歳くらいまでだ。
最近は年齢に関して緩くなっている傾向もあるらしいが、お硬い貴族の中では根強く残っている部分もある。
俺が21だからロレッタ嬢は今24歳。
結婚に対して焦り始める年齢でもある。
それなのに騎士団をクビになった男を追いかけて、こんな僻地まで様子を見に来てくれたあげくに、逃げようとするだなんて。
ますますマックスの事が嫌いになりそうだ。
「確かフレッカー辺境伯の分家だ。、夫人の妹の子供で爵位は子爵。マックスと同じように辺境伯を守っている親族だな。北の辺境伯と親族なだけあって、強い女性だ。学園初の女性の風紀委員長を務めていた」
風紀委員は学園の風紀を乱す者を、時には暴力を使いつつ制圧する。学園の番犬でもあった。
「女性が就任するだなんて、当時は騒ぎになった。卒業後は確か城の騎士団にスカウトされて、現在は三番隊の副隊長になったと、城中で話題になっていたな」
まさに女傑っていう感じだ。
「女子の人気者だったぞ。まさか婚約者が居て、それがマックスだとは思わなかったが。彼女は自分より強い男性とじゃないと結婚しないと公言していただろう?」
「そうだ。イーサンの説明であっている。だけど少し補足させてくれ。」
情けない顔をしながら、マックスは話し始めた。