恋って一体なんだ。1
ルスットゥル商会が居なくなって、俺は平穏な日々を取り戻した。
冒険者達は、何事もなかったかのように俺の店に来て、悪態をつきながらポーションなどを買っていく。
ルスットゥル商会の方が品揃えも質もいい。と言っていた事を忘れてしまったのだろうか?
これだから冒険者は嫌いだ。
しかし久しぶりの冒険者達とのやりとりに、怒りの堪え方を忘れていて、随分とストレスが溜まった。
だから楽をする為にココの居る定食屋に行った。
「「いらっしゃいませ」」
定食屋には、珍しく客は誰も居なかった。
最近行く度に受付嬢コンビが居たから、時間をズラして休憩時間ギリギリに行くようにしたのは、正解だったな。
適当な席に座ると、ココがチョコチョコと水を持ってくる姿に癒やされる。
「今日の日替りは、ミックスフライです」
「じゃあミックスフライで」
注文を言うと、ココは嬉しそうに親父に伝えにいった。
親父は相変わらず無愛想に料理を作り始めた。
そして何故かココがすぐに戻ってきた。
「お父さんが、ナルさんにって」
ココが持ってきたのは、王都で発行されている新聞だった。
訝しく思いながらも受け取ったら、一面がルスットゥル商会の不正。とデカデカと書かれている。
ルスットゥル商会の事は。町の住人全てが知る事になった。
そりゃあれだけ大騒ぎすれば、そうなるだろう。
俺が関わっていた事を知っていたから、渡してくれたのだろう。
どうせ事の顛末を聞いていないと悟られたのだろう。
その通り。
王都の事なんて、詳しく聞いたって関係ない。
俺は親父の好意に甘えて、料理が来るまでの間の暇つぶしに記事を読む事にした。
そこには、王都の一等地にあったルスットゥル商会が倒産した事について書いてあった。
中毒性のあるポーションを売りさばいていた悪質な商会は、すぐに査察が入ったらしい。
すぐに査察が入ったという噂は広まり、王都で活動出来なくなったルスットゥル商会は、結論的には店を畳んだという。
何故中毒性が隠せていたのかには、特許庁が絡んでいた。
特許庁がレシピに対して認可をすると、鑑定全てに影響が出る。
これもこの国だけの不思議だ。
この国を作ったという、転移してきた王が作ったシステムだ。
王は死後、神になったんじゃないかという疑惑がある。
つまり、他の国で鑑定すればもしかしたらポーションと最初から表記されなかったかもしれない。
特許を出した職員は金に困っていたらしく、禄に検査もせずにポーションだという許可を出してしまったらしい。
特許庁にも大規模な査察が入ったという。
役人は副作用の事は知らなかったらしい。
王都には激震が走ったが、ギルドの迅速の対応により混乱はすぐに治まったという。
あっという間の解体劇に、ダックウィードの町の商店まで気が回らなかったのだろう。
店は閉鎖されたまま放置されている。
ギルド預かりになっているが、どう後始末をつけるのだろうか?
俺は読み終わった新聞を畳む。
どっちにしろ関係ない事だ。
被害を被らなければ、王都で何があろうと関係ない。
「お待たせしました」
考え事をしている内にココが料理を持ってきてくれたから、広げていた新聞を丁寧に畳む。
「ありがとう。新聞も」
お礼を言うと。ココは嬉しそうに父親の元へと向かった。
その首には俺が渡したスカーフがつけられている。
色褪せなどは見られない。
よしよし。
相変わらず薬剤の研究は続けている。
スカーフの売上も悪くないみたいで、町を歩けば俺の染めたスカーフを持っている人に何回か遭遇もした。
その度に俯きたくなったのは、俺の器が小さいからだろうか。
定食を食べていると、ヒマだったからかココが俺の横に座る。
「そういえば、母親は順調なのか?」
「うん、元気だよ。もうすぐ生まれるって、産婆さんも言ってた」
「そうか」
「もうすぐストロム祭もあるから、無事に生まれるようにいっぱいお祈りするんだ」
「もうそんな時期か」
ストロム祭は、この町独自の祭りだ。
ストロムとは昔の言葉で木という。
名前の通り、ダンジョンが誕生した日を記念して行われる。
この町はダンジョンのおかげで栄えているから、その事に感謝を捧げるらしい。
特に何かいい事が起こる訳でもないし、祈りを捧げると言っても御利益的なものはない。
でも感謝をあらわすように、空へ紙で作ったランタンを飛ばす。
結構幻想的で綺麗なものだ。
そもそもダンジョン自体が何故発生したのか分からないのに、そのように祀ってどうするんだっていう話だ。
外から人を呼び寄せる為にしているパフォーマンスに近い。
ただ、やっぱり物好きは大勢居るようで外からも大量の人がやってきて、ダックウィードの町も少し騒がしくなる。
町の人は、かきいれ時だとはりきるみたいだが、しがない薬屋には関係のない事だ。
この寂れた定食屋にも人が大勢押しかけるのかと思うと、憂鬱になる。
しばらく来れないかもしれないと思うと、何の変哲もないただのソーセージも美味しく感じるものだ。
「変な人も来るかもしれないから、気をつけるんだぞ」
「ナルさん、お父さんみたいな事言ってる。あ、お客さん来たから」
コロコロとココは笑いながら、入ってきた客に対応する為に立ち上がった。
父親って。
俺はココの言葉に衝撃を受けながら、黙々と定食をたいらげる事に集中した。
ココの年齢変更しました。
14才→12才
新しいトラブルの始まりです。
いつもイイネなどありがとうございます。
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