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 マックスとイーサンには、罠の後片付けをするように言っておいた。

 明日も営業するのに、氷まみれではさすがに困る。

 俺はジュース屋の親父と一緒に憲兵所に行き、冒険者とオーガスタスを引き渡す。

 黒服とはそこでサヨナラをした。

 全く、頼りになりすぎる。

 すでに領主から話しが通っていたのか、経緯を聞かれただけですんなりと解放された。

 全てが終わったら既に深夜になっていたのでそのまま解散。

 ギルド長への報告は明日でいいだろう。

 おやすみ。

 


 朝、ギルド長に報告をすると満足そうな顔で頷かれた。

 面倒な事は早めに片付けようと朝早くから行ったつもりだったが、ギルド長は既に来ていた。

 相変わらず隙のないビシッとした格好をしている。

 シビルから連絡でもあったのだろうか。


「これで憂いは晴れたという事だな。色々とありがとう」


 依頼は終了だ。

 俺は依頼料の入った袋を貰う。

 っていうか、多分ギルドはそんなに損をしていないのだろう。

 元からポーションは高く売られているし、マックスはアホだから無償で働いただろうし。

 黒服を借り受けたのが、一番お金がかかったんじゃないだろうか。

 きっとシビルとは癒着しているから、割引してもらってるんだろうな。


「で、君はこの後ルスットゥル商会はどうなると思う?」


 もう用はないはずなのに、何故か問いかけられる。


「さあ。代わりの人でも送ってくるんじゃないですか?」


 この後の事なんて、俺が考える事じゃない。

 ただ代わりの人物がオーガスタスよりは、話しの通じる理性的な人だと有り難いが。

 オーガスタスが捕まった所で、ルスットゥル商会の大本は王都にあると聞いている。

 最悪オーガスタスの保釈金を払ってすぐに商売に復帰する可能性はあるが、この町にやってくる事はないだろう。

 現在ある商会だって、今更この町で商売をするのは難しいだろうから、きっと後始末をして静かに去っていくに違いない。

 そして別の町で同じ事を繰り返すのだろう。

 胸糞悪いが、資本があるというのは、そういう事が出来るという事だ。

 ただ、俺には関係ない。


「実は君が解析した、ルスットゥル商会で売っていたポーションだが、本部に報告をしたんだ。ルスットゥル商会は王都でも経営しているから、同じように売っていたら警告しないといけないと思ってね」

「そうですか」

「そうしたら、王都でも謎に冒険者がいきなり暴れだす事案が発生していたらしく、原因を解明しようといた所だったようだ」


 まああれだけ安く売ってて儲けが出てたんだから、王都でも売るわな。


「私が警告を出したおかげで、原因が分かったと感謝されたよ。おまけにギルド本部に居る解析が得意なものにもポーションの解析をさせたらしいのだが、君が提出したものとぴったり同じ成分が使われていたらしい」


 さすがに一介の薬屋の証言だけでは、信頼は出来ないよな。

 俺としても他に上手い解毒方法があるのなら、教えてほしいぐらいだ。


「解析した結果、解毒する薬も開発出来たらしく、本部にはいたく褒められたよ」

「薬が出来たんですね」


 残念ながら未熟な俺の腕では見つからなかった。

 さすが王都は人材が豊富だ。

 じゃあサウナはもう要らないのか。

 準備大変だったんだけどな。


「ああ。しかし、ここまで薬を輸送するのにも薬を買うのも高価なので、同じ効果が出るのであれば、この町には必要ないと考えている。ああ、経営の方は低位冒険者に依頼をしようと考えているので、ナル君の手を煩わせる事は、もうないよ」


 ダックウィードの町には常に低ランクの冒険者が居る。

 ダンジョンに慣れていない者は町での依頼を受ける事もあり、サウナの経営もそこに入れたのだろう。

 何かあったとしてもムキムキな黒服に、冒険者如きが逆らえないだろうから、安心だろうし。

 それに、俺もいい加減きちんと薬屋としての本業をしなくては。


「王都ではギルドを通して、ルスットゥル商会のポーションを買わないように警告され始めている。ルスットゥル商会が王都で店を構えてられるのも時間の問題だな。なので、報復などは気にしなくていい」


 そこまで頭が回ってなかった。


「ありがとうございます」


「いいさ。ナル君のおかげで私のギルドでの評価もあがったしね。お礼に依頼料の上乗せでもしようか?」


 ヒャッホーと喜んでギルド長を見ると、相変わらずの胡散臭い笑顔に一気に冷静になった。


「必要ありません。ルスットゥル商会の件は俺も被害があったので。それに、既に納得して受けた料金なので」


 俺の答えに満足したのか、ギルド長は満足そうに頷いた。

 もしかして試されてたのか?

 危ねえ。


「なら、何かあったらいつでもギルドに相談に来るといい。いつでも便宜を計ってあげよう」

「ありがとうございます」


 何とか返事をして、俺は逃げるようにギルドを出た。

 やっぱりあのギルド長は苦手だ。

 寝てはいたが、この3日間はほとんど寝ていない。

 朝日が目に染みる。

 こんな日は、ココの定食屋で飯を食いたい。


「待ってくれないか」


 ギルドから出ようとすると、見たくもない金髪に呼び止められる。

 相変わらず後ろには取り巻きを連れている。

 っていうか、こいつらは一体何をしてたんだ?

 商会に抗議に行ったとはイーサンは言っていたが、その後の話は興味が無くて聞いてなかった。

 クリスは心無しか萎びているような気もするが、そんな殊勝な奴ではないだろう。


「何だ?」

「っ、君の事を疑って申し訳なく思う」


 一気に言って頭を下げる。

 周りがざわめいていて、俺の方が悪者のようだ。


「別に気にしてない」

「僕も反省したよ。物事を動かす時にはきちんと裏をとるべきだと」


 はいはい、反省会なら家でやってくれ。

 俺はとにかく定食屋に行きたいんだ。

 面倒だから適当に返す。


「そうか、勉強になったなら良かったな」

「だけど、君が一年前にした事をまだ許した訳ではない」


 顔を上げたクリスが睨むように言うと、仲間を引き連れてギルドから出ていった。

 それを言うためだけにギルドに居たのか。

 暇人だな。

 見解の相違だ。

 俺が悪いとは思わない。

 せっかくの晴れやかな気分が台無しになったが、予定通りに定食屋へと向かった。

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