18
夜遅くに、イーサンが仕掛けた罠に反応があった。
おいおいマジかよ。と思う俺とは裏腹に、イーサンは得意そうな顔で腹が立つ。
半信半疑のまま待機していたみんなで外に出ると、外は真冬の世界だった。
もうすぐ夏だというのに、床一面に氷が敷き詰められている。
そして、侵入者らしき黒いフードを被った者達は、一様に足を凍らされていて、引き抜こうとしている。
暴れて服が開けた際の下の装備を見る限り、明らかに冒険者だ。
俺たちが姿を表すと余計に冒険者達は暴れだす。
「お前ら、冒険者のくせに、こんな卑怯な真似をして、恥ずかしくないのか!」
マックスが怒りながら、両足を凍らされ慌てふためいている冒険者達を殴りに行っている。
いや、両足が使えないやつに殴りに行くマックスの方が、卑怯だろうが。
あ、ルスットゥル商会に偵察に行った際に騒いでいた、顔色の悪い冒険者も居る。
まさか中毒にさせた冒険者を良いように使っていたのか?
イーサンが最初に聞いた噂は事実だったのか。
……でも、頭いいな。
「ナル、何か変な事考えてないか?」
冒険者を殴っていた手を止め、マックスが不思議そうな顔をしてくる。
くっ、変な所目ざといな。
「何でもない」
まあ金で人の家に不法に侵入しようとする辺り、やっぱり冒険者っていう人種は信用ならないから手駒にしたくはないな。
「フフフ、見たかナル。この威力だったら店の防犯はばっちりだと思わないか?」
ばっちりどころじゃねぇよ。
薬の解析をしている間、暇だったら店の防犯に使えるものを考えてくれとは言った。
ルスットゥル商会もそうだが、他にも嫌がらせをしてくる奴が居るかもしれない。
そうなった時に無防備だとやはり困った事になる。
深夜のテンションのせいか、俺もノリノリで案を出した。
出したが、こんな寂れた町で明らかにやりすぎとしか思えない。
「お前たちの程度の力で、天才な私が作ったものから抜け出せるとでも思っているのか」
イーサンのバカみたいな高笑いが、夜中なのに響き渡っている。
ああ、あまりの冷たさに冒険者の一人が泣き出し始めてるじゃないか。
襲撃を受けているというのに同情したくなってくる。
「……俺規模の店には、過剰防衛過ぎないか?」
「そうでもないだろう?」
そうだ、忘れていた。
イーサンは貴族だ。
貴族の家では、きっと俺の店の非じゃないぐらい政敵とかから狙われたりもするだろうから、防犯に関して力を入れているのだろう。
この程度の防犯普通なのか?
一緒に外に出た、シビルの店から借りてきた黒服達も引いてる所を見ると、明らかに普通では無い気がする。
そう、ギルド長がサウナに襲撃があるだろうと、護衛に頼んだのは何故か冒険者ではなく、シビルの店だった。
まあ冒険者のほとんどが、ルスットゥル商会のポーションを買っていた以上、信用出来ないと言えばその通りだからな。
もがいている冒険者達を屈強な黒服達は、一人ずつ殴り飛ばし、気絶させてから縄で縛っていく。
頼りになるな。
「くそっ、なんでこんなチンケな町に強力な魔法使いが居るんだ」
悔し紛れに言ってきたのは、何とオーガスタスだった。
まさか商会の責任者自らが、襲撃に加わってくるだなんて。
余程腹が立ったんだろうな。
両足が使えない状態のまま粋がっても無様なだけで、思わず鼻で笑ってしまう。
「お前、まさかあの薬屋の。ギルドに助言をしたのもお前か!」
「ああ。毎日毎日嫌がらせをしてくれてありがとうな」
オーガスタスは歯を食いしばり、俺を睨んでいる。
ああ、何ていい気分なんだろうか。
黙って生ごみを毎日片づけていたかいがあった。
「いいか、クズな奴らはみんな考える事が一緒なんだよ。どうせ俺の店と同じように嫌がらせに来るだろうとは思っていたんだが、本人が来るだなんて余程焦ってたんだな」
捕らわれているオーガスタスが悔しそうな顔をしている。
そうだ、その顔が見たかった!
「すげ、ナルが悪い顔してる」
「ストレスが溜まってたんだろ。これだから根に持つ奴は怖い」
後ろでマックスとイーサンが色々言ってるが無視だ。
なぜなら、今は気分が最高に良いからな。
「お前らはこれから器物破損しようとしたとして、憲兵に連れて行かれる。これだけ証人が居るんだ、言い逃れが出来ると思うな」
ポーションの販売で捕まえる事は出来ない。
残念ながら鑑定ではあの商人の売っていたものは毒ではなく、ポーションであるのは事実だからだ。
どうせこの商人の事だ。
王都で認可も金を積んで取り付けたんだろう。
だから行動をするのを待っていた。
予定では、襲撃してきた者を捕まえて、依頼してきた者をひっとらえる。
証拠がないと商人は突っぱねるだろうが、そこは関係がない。
疑わしい奴と繋がっているという疑いがあるだけでも、店にとっては打撃だろう。
そして王都まで噂を広め撤退してもらおうと思っていたんだが、本人が来てくれたのであれば、もっと早く居なくなってくれるだろう。
全ての冒険者達を縄で縛り上げ、黒服達が無造作に台車に積んでいく。
周りには騒ぎに気が付いた町の人たちが家から出てきて、俺たちをジロジロと見ている。
ちょうどいいからオーガスタスだけは、気絶させずに憲兵に連れていく事にした。
プライドが高そうだから、大層屈辱を感じるだろう。
俺たちは大勢の視線を感じながらも冒険者達を憲兵所へと連れていった。