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元・騎士がやってきた1

毎日昼の12時の更新に変更します。

 いつもと変わらない朝に、起きて最初にする事は薬草の手入れだ。

 あまり広くはない薬屋の裏庭には、この町では手に入りづらい薬草が何本か植えてある。

 俺を雇った爺さんが植えていて、そのまま引き続き面倒を見ている薬草もあるが、育てようと挑戦している区画もある。

 少ししか使わないような貴重な薬草は買うと高いからな。

 枯れていないか、水の量を調整しながら確認をしてから、部屋へと戻り朝食にする。

 朝は大体片手でつまめる物で済ませる事が多い。

 今日はハーブを混ぜ込んだ自家製のソーセージをパンに挟んだものと昨日の残りのスープと薬草茶だ。

 それを片手で食べながら薬草の記録を書いていく。

 すぐに書かないと忘れてしまうからな。

 一人で経営している薬屋は意外とやる事が沢山あって暇はない。

 本に書けばそのままライブラリに収容されるから、引き継がなくていいという利点もある。

 その生活も一年続けば慣れたものになってしまったが。


 そして朝の9時になってから店を開ける。

 午前中は大体町の老人たちが客としてくる。

 ポーションなどではなく、昔からの常備薬を買っていく事が多い。

 ポーションはとにかく即効性を求めるものであり、使っている魔力や薬草の量も多いので、低ポーションでも常備薬の3倍の値段がする。

 急ぎで直す必要がない町の人たちはポーションなど買わない。

 それに、ポーションで回復するのは主に体力や傷であって、継続的に減る病気などには焼け石に水の状態だからな。

 基本的に冒険者以外はポーションなど必要としていないのだ。

 なので午前中は割と暇だ。

 それでも開けてない訳にも行かないので、店を開けてカウンターで出来る作業や、本を読んだりしている。

 今日は昨日読んでいた本の続きが気になるので、そのまま読み続ける。


 もうすぐ昼の鐘が鳴るという所で、珍しいお客さんが来た。

 昨日ギルドで見かけたエリンだ。

 ギルドの制服を着ているという事は仕事中なのだろう。

 初めて来たからか、興味深そうにキョロキョロと店内を見ている。

 入ってすぐの場所から、カウンターは見づらい設計になっている。

 薬を選んでいる姿を見られたくないというお客様も居るだろうと考えた爺さんが、設計したらしい。

 もちろんカウンターからは客が入ってきた事はばっちり見えているが。

 俺は読んでいた本を閉じてから声をかけた。


「いらっしゃい」


 エリンは驚いたように慌てながら、俺を見てペコリと頭を下げた。


「こ、こんにちわ」

「何か欲しいものでもあったか?選ぶのが大変だったらアドバイスぐらいはするぞ。欲しいものがなければ作れるものなら作るし」

「ありがとうございます」

 

 それで会話が終わってしまった。

 エラとは反対に無口なんだろうか?

 その割にはチラチラと何か言いたげにカウンターを見てくる。

 仕方なく当たり障りのない事を話しかける事にした。


「確かギルドって配属される前って王都で研修するんだよな?王都と比べて品揃えとかどうだ?」

「素晴らしいです。ここに並べられている薬は、王都にあるものと遜色がないぐらいの効能があると思います。それなのに、こんな低価格で。王都で買ったら1,5倍くらいしますよ」


 俺がこの町に引きこもっている間に、王都ではポーションの価格が変わったらしい。

 薬といっても、なま物だから時価によってすぐに値段は変動する。

 薬師協会の集まりも最近はサボってでていなかったか情報に疎くなっていた。失敗失敗。

 っていうか、3日前にギルドにポーションを納品した時、ギルド長何も言ってなかったぞ。

 損をすると思って黙っていやがったな、あの狸親父。


「それにこの棚にある常備薬」

「あ、ああ」

「種類もそうですが効果によって細かく種類が別れています。しかも物によってはポーションより効果の高いものも入っているものもあります。それなのにポーションより安いってどういう事ですか?」


 なんだ、最初はモジモジしていたのに、いきなり詰め寄ってきやがって。

 それよりも中級以上の鑑定スキル持っている事に驚いた。

 初級ではこのポーションの名前と効果の量ぐらいしか見えない筈なのに使った薬草の名前まで見えているという事は、確実に中級以上。

 下手したら上級鑑定持ってるな。

 ギルドに入るのに鑑定持ちは多いけど、大体この町に来るのは、初級の鑑定ぐらいしか持っていない職員が多いのに。

 上級持ちなら王都にそのまま配属になってもオカシクないのに、何でこんな町に居るんだ?って詮索は良くないな。

 誰にだって事情はある。


「ご、ごめんなさい。いきなり喋りすぎました」


 俺が警戒したのを喋りすぎたからと思ったのか、エリンが頭を下げる。

 こんな内気なのに荒くれものの冒険者の相手なんて務まるのか?

 もっといい仕事があるだろう。


「別にいい。王都に行く機会は少ないから参考になる」

「ありがとうございます」

「それより、薬を選ぶなら手伝うぞ。ギルドの休憩時間は短いだろう?」

「あ、忘れてました。ナルさんにギルドに来てほしいんです」


 なんだ、ポーションだったら三日前に納品したばかりだから在庫はまだあるだろう?

 それとも不備でもあったか?

 やっぱ同じ効能だからって安い別の草でも使ったのがバレたか?

 でも品質が同じだったら構わない筈なのにな。

 不満そうな顔をしていたからか、エリンが泣きそうな顔をする。


「駄目ですか?」

「いいけど、何でだ」


 場合によっては別のポーションを用意する必要も出てくる。


「ナルさんにお客さんが来ているんです」

「客?」


 全く心当たりがなかった。

 

 

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