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「一体何をしてるんだ!!」
オーガスタスの怒声なんて初めて聞いたな。
ルスットゥル商会の前へ行き交う人達も、あまりの大声に俺たちに注目する。
「これはこれはオーガスタス様。どうなされたんですか?」
奥でジュースを作っていた親父とマックスが、一緒に出てくる。
マックスの明らかに高位冒険者という佇まいに、オーガスタスが少しビビっているのが分かって、おかしくなる。
いい気味だ。
マックスにしっかりと武装させておいて良かった。
姿だけで威圧出来るだなんて、やっぱり筋肉つけようかな。
顔が割れているから、俺はこっそりと隠れながら伺う。
「一体これは何だと言ってるんだ?」
「なんだと言われましても、ギルドに依頼されて新しく商売を始めたまでです」
ルスットゥル商会の向かいのジュース店の隣には、昨日マックスと金の翼の手を借りて、一日がかりで建てたテントがある。
金の翼はギルドに何か出来る事が無いかと申し出た所だったから、関わらなければ労力としては問題ない。
テントの中はサウナになっている。
町でサウナは一般的ではないが、北の辺境ではメジャーなものでマックスが作り方を知っていたし、ライブラリーの中の「これさえ読めば野宿も快適」という本にも書いてあった。
ルスットゥル商会の売っているポーションに解毒薬が使えないとなると、体外から毒の成分を抜くには、汗をかくのが一番早い。
イーサンにマックスの実家の方へと転移して貰って、マックスが石を切り出して作ったのだ。
バカ力で高温に耐えられる石を切り出すのは、すぐに終わった。
その事には問題がない。
オーガスタスが怒っているのは、ギルドが貼った張り紙だろう。
「ルスットゥル商会にてポーションを買った冒険者は必ずサウナの利用をしてください」
という文面だろう。
同じ文面がギルドの受付にも張られている。
そして、この施設の利用料は(通常ギルドで販売しているポーション-ルスットゥル商会のポーション代)+手数料で5%の料金になっている。
つまりルスットゥル商会のポーションを買った者は、それ以上のお金を払ってこの施設を利用しなければ、依頼を受けさせない。
ギルドの受付嬢は依頼を受ける前に、冒険者がポーションの中毒に侵されていないか検査をする。
幻覚の薬物をとっていると反応する紙をギルドに配布している。
その紙に唾液を垂らして、色が反応した者は施設の利用を促す。
もし利用しないのであれば、依頼は受けさせないというように決まった。
ギルドだって混乱は望む所ではないのだ。
そして、全ての冒険者はこの店で買ったドリンクのパッケージを持っていき、検査に通れば依頼が受けられる。
渋る冒険者には、昏々と昨日の惨状を説明するだろう。
それでも無理に依頼を受けたら、その冒険者の自己責任という事でギルドでの治療を拒否するという。
さすが強気だな。
この商会がポーションを売る限り、この施設は営業され続ける。
その間俺の薬屋は閉店だ。
まあ、その分の拘束料金はギルドから出るし問題ない。
「私共はギルドにお願いされてこちらを建てております。文句がおありでしたら、ギルドへと」
親父が慇懃に言ってから、マックスが威嚇をするように剣を地面へと突き刺す。
歯を食いしばってからオーガスタスはギルドへと駆けていった。
しかし遅い。
昨日の騒ぎは全ての冒険者に広まっている。
いくらルスットゥル商会のポーションが安いといっても、それ以上の金を出して解毒をしないと依頼が受けられないとなれば、ルスットゥル商会のポーションを買う者は居なくなるだろう。
ルスットゥル商会での目玉は、ポーションしか無いから一気に寂れるだろう。
今更通常のポーションを同じ値段で売る事は出来ないだろうし。
領主に訴えでても無駄だろう。
今やこの町は、領主よりもギルドの方が力を持っているという事は誰でも知っている。
ギルド長も昨日根回ししていると言っていたしな。
「良かったのか?ウィンウィンの関係じゃなかったのか?」
親父に聞くと、親父はこの町の人らしい笑顔で言う。
「知らなかったのか、ナル?商売人は美味しい利益を出す方に常につくもんだ。このサウナで汗をかいた人たちは必ず俺の店でドリンクを買うだろう。それに手数料を貰ってるんだ。断る理由はないね。それに、新参者が大きい顔をしてムカついてたんだ」
やっぱりこの町はクソだな。
俺は受付に戻る事にした。