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15

 ドアの人権を無視するかのような強打で、ドアが叩かれる音で我に帰る。

 途端に俺は脳内のライブラリーから弾き出された。

 集中力が途切れた。

 今は辞典の半分くらいをピックアップ出来た。

 同じ姿勢で居たからか、体が固まっているのを無理やり動かす。

 ポーションの分離はほとんど終わったみたいで、2つのビーカーにはそれぞれの液体が入っている。緑色がシュロキ草で、紫色が判明していない2つの成分なのだろう。

 窓に目をやると大分暗くなっている事が分かった。

 現状を把握している間に、またドアが叩かれる。

 また中毒症状を起こした患者でも出たのか?

 ドアを開けると、きっちりとした騎士服を着たマックスが地面に這いつくばっていた。

 そして、一緒に何故かイーサンが居た。

 っていうか、マックス。それ、城で支給されてる服だろ。

 剣だけじゃなくて、服も返してなかったのかよ。


「なんだよ、マックスは知ってると思うけど、俺忙しいんだよ」

「いや、知ってるんだけどさ」

「っていうか、何で騎士服着てるんだよ?」

「ギルド長が領主に一緒に会いに行こうと連れてかれたんだけど、正装をこれしか持ってなかったんだ」


 ああ、ギルド長はマックスが貴族だと知ってたのか。

 ルスットゥル商会に圧力をかける為に、領主が後ろ盾になってるかの確認に行ったんだな。

 もしバルト伯爵がルスットゥル商会の後押しをしているとしても、マックスを連れてく事で、伯爵以上の貴族の同意もあるって暗に脅してるのか。

 一応マックスは辺境伯の息子だしな。

 祠に行った時に自己紹介をしていれば、マックスが辺境伯の息子である事を知っている兵士も居るかもしれない。

 やっぱり食えないギルド長だな。


「で、何の用だよ」


 いつまでも這いつくばっていると迷惑なんだが。


「あのさ」


 マックスが口をモゴモゴさせると、苛立ったかのように、イーサンが足でマックスの尻を軽く蹴る。


「すまん、少しでもお前の事を疑って。何か俺に手伝える事があったら手伝わせてくれ!」


 一気に言ってから、マックスは勢いよく頭を地面につけた。

 ああ、ギルドでクリスがあれこれ言った時か。

 別に気にしてない。

 まあ学園で三年も一緒に暮らしていたのに、クリスの言葉をあっさりと信じようとした事に、傷ついてないと言えば嘘になるが、仕方ないといえば仕方ない。

 事情を話してないのは俺も同じだ。

 そもそもクリスとマックスは同じ貴族だし、貴族には貴族にしか分からない繋がりか何かもあって、貴族の言う事をマックスが信じてもおかしくはない。

 それでもマックスは、あの冒険者達と違って謝りにきただけマシなのだろうか。

 ため息しか出てこないが。


「とりあえず外に居ても迷惑だから中入れよ」


 俺が言うとマックスは顔をあげる。


「ナル、こんな俺を許してくれるのか?さすが友よ」


 感激して抱きつこうとしてきたマックスを、イーサンがすかさず蹴る。


「入り口で詰まってないでさっさと入れ」


 その通りだ。

 中に入るといつもの定位置に二人が座る。

 俺は休憩がてら、ちょうど飲みたかったハーブティーをいれる。


「飯はどうした?規則正しいナルにしては珍しいな」

「そんなヒマない」

「じゃあ、俺が買ってくるよ!」


 まだ熱いであろうハーブティーを、一気に飲み干したマックスが元気に外に出ていった。

 くそ、もう少し落ち込ませておくべきだったか。

 だが、飯を買ってきてくれるのは有り難い。

 その分タイムロスが減るからな。


「っていうか、あの格好で買いに行って平気なのか?マックスは騎士団をクビになったんじゃなかったのか?」


 イーサンが当然の疑問を口にする。


「本人曰く、騎士団のような小さな場所に収まるような器ではないから、修行に出されたと言っていたけどな」

「それはクビと違うのか?」


 お前が言うなって感じだがな。


「で、イーサン。お前は何の用だよ」

「そうだ、ナル。お前に言いたい事があって来たんだ」

「なんだよ」

「ナル、お前はアディラと付き合っているのか?」


 飲もうとしていたハーブティーを、吹き出しそうになった。


「何でそんな話になるんだよ」

「今日ルスットゥル商会のオーガスタスって奴が、わざわざ私に会いに来てな。侯爵の子息が平民の娼婦と付き合っている事を王都中にバラされたくなかったら、うちの商会を助けろとか良く分からない事を言ってきたんだ。あまりにも意味不明だから雷魔法で追い払ってやったがな」


 そういえば、ルスットゥル商会に偵察に行った時にイーサンの格好だったな。


「で、どういう事だ?私と同じ顔の変身薬を持ってるのはナルだけだろう?」

「それには深い理由があってだな」


 単純に、俺もアディラと噂になるのは勘弁してほしいというのもあったし。

 アディラの事は嫌いではないが。


「ふん、まあいい。私が平民の娼婦に溺れてるだなんて虚言、口にした所で誰も信じる者も居ないだろうがな。むしろ、口にしたら潰す」


 ニヤリと口の端を上げていうイーサンに、ルスットゥル商会ご愁傷様と思った。

 いくら王都に店を持っていると言っても、侯爵に睨まれたら王都で店を持ち続ける事は出来ないだろう。

 

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