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「何を揉めているんだい?」
凛と通るような声に、面倒事が更にやってきたと憂鬱になってしまう。
「クリスさん!」
後ろに三人の男女を従えるように入ってきた金髪の冒険者に、中に居た冒険者の一人が声を上げる。
「大丈夫かい、錯乱してギルドの医務室に運ばれたと聞いて見に来たんだ」
「そんな、俺なんかの為に」
さっきまで胃洗浄をやっていた男の涙目なんて見たくない。
ミラは尊敬するような、目をしている。
現金な奴め。
冒険者に似つかわしくない、キラキラな笑顔を振りまくクリスは、金の翼のリーダーをやっている。
そして、金の翼はダックウィードに常駐しているAランク冒険者チームだ。
困った依頼があると率先して受けるからか、町の人達には非常に好意的に見られている。
更にAランクという成功者であり、面倒見も良いので、駆け出し冒険者達にとっては、憧れの存在でもある。
決して俺と正反対だから、嫉妬している訳ではない。
「わざわざ見に来たいだなんて、本当にクリスは面倒見がいいよね」
「この町の人は、みんな家族みたいなものだからね。心配になって見に来るのは当然だよ」
後ろに居た女が呆れたようにため息をついているが、満更でもなさそうなのがウザい。
茶番だったら他の場所でやってくれ。
「で、具合はどうなんだい?」
「医者の手当のおかげで良くなりました。もう大丈夫です」
身を起こそうとする男を、クリスは手をかざすだけで止める。
「いきなり錯乱したんだ。今日はゆっくりしているといい。治療費は僕の方で払っておく」
「……クリスさん」
よし、たっぷりと請求してやろう。
こっちは昼も食べずに呼ばれたんだからな。
「で、原因はなんだったんだい?君たちは今日は下層階には降りてないだろう?上層階に錯乱をかけてくるような魔物が居るとは思えない」
「もし居るんだったら、危険だから討伐しないといけないわね」
「それが」
さっきまで吠えていた男が、当然のように俺を指す。
「こいつのポーションを飲んでから、皆おかしくなったんだ!」
面倒な事言うなよ。
「言いがかりだ」
「嘘をつくな、ポーションを飲んでから、オレ達は調子がオカシクなったんだ!」
誰が助けてやったと思ってるんだよ。
自分で毒を盛って自分で治すだなんて、面倒な事する訳ないだろう。
「また君かい?」
片眉を上げて、不審そうにクリスが言ってくる。
「まだこの町に居たんだね」
「おかげさまで」
「全く、君がセオドアさんの後継者だなんて。人の良いあの人を、何て言って騙したんだい?」
何を言ってもこいつらは俺を悪者にしようとするだろう。
だから面倒なんだ。
しかもセオドアさんを持ち出すとか、本当に最低な奴だな。
ここでキレたら思うツボだ。
「セオドアさんの事は、関係ないだろ」
「同じことだ。彼の大切にしていた店で、まさか毒を盛るだなんて」
「だから、違うと言ってるだろ」
「しかし、証人が居るんだ」
「ちょっと待てよ。ナルが毒を盛るだなんて、する訳ないだろう?」
マックスが俺とクリスを遮るように、話に入ってくる。
あまりにも空気で存在すら忘れてた。
ややこしくなるから入ってくるなよ。
「君は?」
「マックス。Eランク冒険者で、ナルの学生時代の友人だ」
「学生って言うと、君も王都の国立学園を卒業したのかい?」
「ああ。もしかしてあんたもか?」
「そうだよ。学園を卒業して冒険者になるだなんて変わり者、僕以外にも居たんだな。僕はクリス。Aランク冒険者をやっているよ。君はEランクって事は、まだ冒険者登録したばかりだろう?分からない事があれば何でも聞いてくれ」
「おう」
二人は何故か意気投合して、ガッチリと握手まで交わしている。
脳筋同士通じ合うものでもあったのだろうか?
もう帰ってもいいだろうか。
後は二人でやってくれ。
「ドク、病人も居なくなった事だし、俺はもう帰るな」
「悪かったな、ナル。後で礼はする」
「おい、卑怯者!逃げるのかよ」
こっそりと帰ろうとするのを、目ざとく見つけた冒険者が騒ぎ始めたせいで、思わず舌打ちが出てしまう。
「用はもう済んだからな」
「まだポーションのせいで問題が起きたっていうのは、解決していないぞ」
「どう責任とるつもりなんだよ」
責任も何も、何もしていないのに、とる訳ないだろう。
「ナル。君がいくら冒険者が嫌いだからと言って、ポーションに毒を盛るのは間違っている。君は、人を一人殺す所だったんだぞ」
うるさい、俺だってこんな町も冒険者も嫌いだ。
だからと言って毒なんて盛る訳ないだろう。
「クリス、ナルはそんな事しないぞ」
マックスが庇ってくれる。
「確かにナルは性格悪いし冷たいし、とっつきにくい奴かもしれないが、人を害する奴ではない。俺が保証するよ」
マックスの保証が一体何になるっていうんだよ。
「マックス、君が友達を信頼したい気持ちも分かる。君がこの町に来たのはいつだ?」
「ちょうど2ヶ月前ぐらいだな」
「じゃあ、ナルがその間に何をしていたか知っているか?」
「は?」
「君が知っているナルは変わってしまったんだよ。今は冒険者に恨みを持つ、異常人物なんだ」
そこまで言うか?
一体お前が俺の何を知っているとでも言うんだ。
「ナル、まさか本当に」
「違うって言ってるだろ」
「ナルさんはそんな事しません!!」