表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/91

12

「何を揉めているんだい?」


 凛と通るような声に、面倒事が更にやってきたと憂鬱になってしまう。 


「クリスさん!」


 後ろに三人の男女を従えるように入ってきた金髪の冒険者に、中に居た冒険者の一人が声を上げる。


「大丈夫かい、錯乱してギルドの医務室に運ばれたと聞いて見に来たんだ」

「そんな、俺なんかの為に」


 さっきまで胃洗浄をやっていた男の涙目なんて見たくない。

 ミラは尊敬するような、目をしている。

 現金な奴め。

 冒険者に似つかわしくない、キラキラな笑顔を振りまくクリスは、金の翼のリーダーをやっている。

 そして、金の翼はダックウィードに常駐しているAランク冒険者チームだ。

 困った依頼があると率先して受けるからか、町の人達には非常に好意的に見られている。

 更にAランクという成功者であり、面倒見も良いので、駆け出し冒険者達にとっては、憧れの存在でもある。

 決して俺と正反対だから、嫉妬している訳ではない。


「わざわざ見に来たいだなんて、本当にクリスは面倒見がいいよね」

「この町の人は、みんな家族みたいなものだからね。心配になって見に来るのは当然だよ」


 後ろに居た女が呆れたようにため息をついているが、満更でもなさそうなのがウザい。

 茶番だったら他の場所でやってくれ。


「で、具合はどうなんだい?」

「医者の手当のおかげで良くなりました。もう大丈夫です」


 身を起こそうとする男を、クリスは手をかざすだけで止める。


「いきなり錯乱したんだ。今日はゆっくりしているといい。治療費は僕の方で払っておく」

「……クリスさん」


 よし、たっぷりと請求してやろう。

 こっちは昼も食べずに呼ばれたんだからな。


「で、原因はなんだったんだい?君たちは今日は下層階には降りてないだろう?上層階に錯乱をかけてくるような魔物が居るとは思えない」

「もし居るんだったら、危険だから討伐しないといけないわね」

「それが」


 さっきまで吠えていた男が、当然のように俺を指す。


「こいつのポーションを飲んでから、皆おかしくなったんだ!」


 面倒な事言うなよ。


「言いがかりだ」

「嘘をつくな、ポーションを飲んでから、オレ達は調子がオカシクなったんだ!」

 

 誰が助けてやったと思ってるんだよ。

 自分で毒を盛って自分で治すだなんて、面倒な事する訳ないだろう。


「また君かい?」


 片眉を上げて、不審そうにクリスが言ってくる。


「まだこの町に居たんだね」

「おかげさまで」

「全く、君がセオドアさんの後継者だなんて。人の良いあの人を、何て言って騙したんだい?」


 何を言ってもこいつらは俺を悪者にしようとするだろう。

 だから面倒なんだ。

 しかもセオドアさんを持ち出すとか、本当に最低な奴だな。

 ここでキレたら思うツボだ。


「セオドアさんの事は、関係ないだろ」

「同じことだ。彼の大切にしていた店で、まさか毒を盛るだなんて」

「だから、違うと言ってるだろ」

「しかし、証人が居るんだ」

「ちょっと待てよ。ナルが毒を盛るだなんて、する訳ないだろう?」


 マックスが俺とクリスを遮るように、話に入ってくる。

 あまりにも空気で存在すら忘れてた。

 ややこしくなるから入ってくるなよ。


「君は?」

「マックス。Eランク冒険者で、ナルの学生時代の友人だ」

「学生って言うと、君も王都の国立学園を卒業したのかい?」

「ああ。もしかしてあんたもか?」

「そうだよ。学園を卒業して冒険者になるだなんて変わり者、僕以外にも居たんだな。僕はクリス。Aランク冒険者をやっているよ。君はEランクって事は、まだ冒険者登録したばかりだろう?分からない事があれば何でも聞いてくれ」

「おう」


 二人は何故か意気投合して、ガッチリと握手まで交わしている。

 脳筋同士通じ合うものでもあったのだろうか?

 もう帰ってもいいだろうか。

 後は二人でやってくれ。


「ドク、病人も居なくなった事だし、俺はもう帰るな」

「悪かったな、ナル。後で礼はする」

「おい、卑怯者!逃げるのかよ」


 こっそりと帰ろうとするのを、目ざとく見つけた冒険者が騒ぎ始めたせいで、思わず舌打ちが出てしまう。


「用はもう済んだからな」

「まだポーションのせいで問題が起きたっていうのは、解決していないぞ」

「どう責任とるつもりなんだよ」


 責任も何も、何もしていないのに、とる訳ないだろう。


「ナル。君がいくら冒険者が嫌いだからと言って、ポーションに毒を盛るのは間違っている。君は、人を一人殺す所だったんだぞ」 


 うるさい、俺だってこんな町も冒険者も嫌いだ。

 だからと言って毒なんて盛る訳ないだろう。


「クリス、ナルはそんな事しないぞ」


 マックスが庇ってくれる。


「確かにナルは性格悪いし冷たいし、とっつきにくい奴かもしれないが、人を害する奴ではない。俺が保証するよ」


 マックスの保証が一体何になるっていうんだよ。


「マックス、君が友達を信頼したい気持ちも分かる。君がこの町に来たのはいつだ?」

「ちょうど2ヶ月前ぐらいだな」

「じゃあ、ナルがその間に何をしていたか知っているか?」

「は?」

「君が知っているナルは変わってしまったんだよ。今は冒険者に恨みを持つ、異常人物なんだ」


 そこまで言うか?

 一体お前が俺の何を知っているとでも言うんだ。


「ナル、まさか本当に」

「違うって言ってるだろ」

「ナルさんはそんな事しません!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ