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眠い目を擦りながらも、畑の薬草に水をやる。
自営業に休日はない。
今日も薬草は暑さにも負けずに、生き生きとしている。
やっぱり肥料を変えたのが良かったのかもしれない。
毎日生ゴミを家の前に撒かれるのはやめてほしいが、これはラッキーだったかもしれない。
水やりが終われば、いつものように朝食の準備だ。
昨日の後始末があったからか、朝にイーサンは見かけずにマックスだけが来ていた。
大量のパンとスープがどんどんマックスの腹に治まっていくのを見ていると、欠伸が出てしまう。
「寝不足か?」
「ああ」
昨日帰ってきてからも、薬の補充をしてから寝たから眠い。
「不摂生は良くないぞ。この町はダンジョンがあるのに、薬屋がナルの店しかないんだから」
マックスに正論を言われると、何故かムカつく。
「そういえば、イーサンも居ないな」
「寝坊じゃないか?」
昨日あった事を説明するのが面倒だから、適当に答えておく。
それだけで納得したのか、マックスは深く突っ込んでこなかった。
今日も冒険者ギルドに行って依頼をこなす。と言ってマックスは、こちらが呆れるくらいの元気の良さで出掛けていった。
俺は研究する気も起きずに、店番をする。
午前中はいつも通りに常連の相手。
昼に何を食べようか考えていると、クローズを出したはずの扉をガンガンと叩かれる。
デジャブ。
扉が破壊される前にドアを開けると、マックスが居た。
「ナル、ギルドで急患が出て、医者がナルを呼んでるんだ!来てくれないか?」
「い、嫌だ」
咄嗟に口から出てしまっていた。
冒険者の面倒なんて見たくない。
金もきちんと払われるか分からないのに。
「いいから来いって、ミラちゃんも呼んでるんだ!」
抵抗も虚しく、俺をヒョイと担いで、マックスはそのままギルドへと向かっていく。
「デジャブ」
連れてこられたギルドのベッドには、何人もの拘束された冒険者。
診察用のベッドは満員で、縄でギチギチに縛られている。
「じいさん、ナル呼んできたぞ」
乱暴に床へと放られる。
もう少し丁寧に扱ってくれよ。
「ナル、来たな」
「あれは拉致っていうんだ」
「申し訳ないな、老体にはこの人数を診察するのは、骨が折れる」
冒険者の目を熱心に覗いていた、この街ただ一人の医者であるドクがため息をつく。
心無しか服がボロボロになっている所を見ると、大人しくさせるのが大変だったんだろう。
「マックスさんが近くに居て助かったわ。暴れている冒険者を拘束するのは大変だもの」
ミラが疲れたように言うと、マックスがいつでも頼れと胸を張る。
勝手にやってろ。
ギルド職員はある程度冒険者を大人しくさせるための力を持っているといっても、新人が拘束するのは大変だっただろう。
エリンも心無しか疲れたような顔をしている。
「で、一体何が起きたんだ?」
「いきなり一人の冒険者が、急患だって運びこまれてきたのよ。ポーションを売ったんですけど、外傷は無いみたいで、ずっと苦しんでいて。診察にドクさんを呼んだんですけど、暴れていて診察も出来ないし。最初は大人しかった連れてきた人達も、徐々に暴れ始めちゃって」
ミラの説明を聞きながら、俺も拘束された冒険者の瞼を持ち上げる。
昨日の奴と同じだ。
異様に充血した目に発汗。そして、細かく震える指先。
「ナル、どう見る?」
「何かしらの薬物による中毒だ」
「やはり同じ見解か」
「それにしても、同じ時期にこれだけの人数が同時期に中毒になるだなんておかしいな。やはり魔物の仕業だろうか?」
「分からない」
俺は比較的症状がマシだった奴に話を聞く為に、薬を強制的に抜く事にする。
俺が何をするのか気づいたドクも、手伝ってくれるようだ。有り難い。
こいつらがギルドに来てすぐに症状が出たのなら、まだ体内に何らかの毒物が残っているはず。それを吐き出せば、症状はマシになるだろう。
少し苦しいが、何度も呼ばれる方が面倒なので、耐えてほしい。
水をどんどん胃へと突っ込み、吐き出させる。という拷問のような作業を繰り返す。
その内に冒険者の濁ったような目がマシになっていくのがわかった。
「大丈夫か?」
「お、溺れるかと思った」
「それより、何をしたんだ?」
「分からない、いつも通りに魔物と戦っていて、傷がついたからポーションを煽ったら、いきなり心臓が燃えるように熱くなって」
「ポーション?」
「お、俺も見てた。ポーションをのんだと思ったら、いきなり暴れ出して」
邪魔にならないようにか、離れてみていた冒険者が肯定するように言い始める。
おいおい待てよ。
じゃあこれはポーション中毒の症状だというのか?
こんなに大人数がいきなり発症するだなんて、聞いた事ないぞ。
ギルド内に居た冒険者たちの目が、一斉に俺を向く。
ポーションを販売しているのは俺だからな。
思わずため息が出てしまう。
「俺が何か入れたと言いたいのか?」