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 店は冒険者達が大勢居た。

 いや依頼はどうした?

 まだ昼間なのに、疑問しか浮かばない。

 アディラが小声でこっそりと教えてくれる。


「あまりにもポーションが人気で、昼にはなくなっちゃうのよ。だから、最近はこの商会に買いに来てから依頼に向かうっていうスタイルが出来てるわ」


 成る程。

 しかし、やはり保守的な町の人は全く居なかった。

 その事に胸を撫で下ろす。

 棚には色々な薬や装備品なども売っていたが、どれも町の店よりも値段は高めにつけられてる。

 王都で見かけたものに二割増しぐらい。

 輸送費もかかるだろうし、まあ妥当だろう。

 一つだけ空っぽの棚にはポーションが売っていたみたいだが、在庫はもう無いようだ。

 試しに買ってみようと思ったが、余程人気があるようだ。

 値札は確かに俺がつけているものよりも大分安い。

 これで採算とれているんだとしたら、本当に脅威だな。

 新しい配合でも見つけたのだろうか?


「これはこれはアディラ嬢。私の店にやってきてくれるだなんて光栄です」


 わざわざ出てきたのか、揉み手をしたオーガスタスが俺とアディラに声をかけてくる。

 相変わらず胡散臭い笑みを浮かべている。


「しかも、オルコット侯爵子息まで来てくれるだなんて」


 敵対している俺にまでにこやかに声を掛けるだなんて。

 ああ、俺は今イーサンの顔してたな。

 俺は真面目そうな顔を作り答えてやる。


「気安く声を掛けるな、愚民が」


 イーサンの真似をすると、アディラは吹き出しオーガスタスの顔が引きつったのが分かった。

 伊達に三年間替え玉をしていた訳ではない。

 イーサンの真似なら得意なのだ。


「そ、それは申し訳ございません。オススメの商品などを紹介させていただこうと思ったんですけど」


 逞しいな。

 俺だったら折れるのに。

 このガツガツさが商人には必要なんだろうか。


「ごめんね、今デート中だから」


 アディラがさりげなく胸を押し付けてくる。

 悪くない感触だが、やめてくれ。


「二人はそのような仲で?」


 否定しようとしたら、アディラに内ももをつねられる。

 思わず睨むが、全く聞いてない。


「そうですか……」


 弱みを見つけたかのようにオーガスタスが嫌らしく笑う。

 貴族が平民の愛人を囲うのなんて、よくある話だからな。

 しかし、今アディラと居るのはイーサンではなく俺だから、弱みにも何もならないだろう。

 だが、一応口止めするべきか。


「詮索は良くないと思うが」

「大変申し訳ございません。折角ですから、アディラ嬢に似合うアクセサリーでもお見せしましょうか?今王都でも人気があるんですよ」


 その言葉にアディラの顔が引きつる。

 虫の死骸をまた見せられると思ったのだろう。

 それにしても困ったな。

 さっさとどこかに行ってほしいのに、ずっと張り付かれていたんじゃボロが出てもおかしくない。

 どうやって離れようか考えていると、カウンターが騒がしくなった。

 

「頼む、ポーションを売ってくれ!」


 一人の冒険者が店員に食ってかかっている。


「本日はもう売り切れました」


 店員が機械的に答えるが、冒険者も引き下がらない。

 よく見ると装備も薄汚れているし、最後に風呂にいつ入ったのだろうかというぐらい、臭いも発している。

 そして、何故か小刻みに体全体が震えている。

 大きな怪我をしているようには見えない。

 それなのに、目はギロギロと光っている。


「駄目だ、あれがないともう」


 緊急性もないのに一体どういう事だ?

 冒険者が腰にある剣に手を掛けようとする。

 まさか店で剣を抜く訳ないよな?


「お客様、お話は奥のお部屋で伺います」


 オーガスタスが冒険者の手を抑えるように言うと、冒険者はすがるようにオーガスタスを見る。


「なんでもいい、早くポーションを売ってくれっ」

「ここでは他のお客様の迷惑になりますので、別のお部屋でお話は伺いましょう。オルコット子息様、アディラ嬢、私はここで失礼いたします」


 慇懃に礼をしてからオーガスタスは、まだ震えている冒険者と店の奥の部屋に行ってしまった。

 とりあえず目玉であるポーションも無いからこの店に居る必要もない。

 俺たちもすぐに外に出た。


「あ、ナルジュース買ってよ。歩き疲れた」


 付き合って貰ったから俺は断らなかった。

 商会の向かい側にあるジュース屋でジュースを買ってやった。


「アディラちゃんが昼間に歩いてるなんて珍しいな。まさかデートかい?」

「そう「違う」」


 気のいい親父が勘違いしているので、速攻で誤解を解いた。

 町民に無駄な娯楽を与える必要はないからな。

 親父は笑いながらジュースを二つ用意して俺とアディラに渡す。

 奢ってやったにも関わらず、機嫌悪そうにしているアディラに少しムカついた。


「やけに機嫌がいいな」


 俺は甘ったるいジュースに口をつけながら、ニヤケている親父に言う。

 この土地では昔から作られている、紅茶やお茶にコレでもかというぐらいに砂糖とミルクをぶちこみ、モチモチとした小さな食べ物の入った甘い飲み物だ。

 一杯で腹が膨れる。


「ルスットゥル商会が出来てから、こっちにも客が流れてきて、久しぶりに儲かってるよ」


 親父は歯を見せながら笑った。

 向かいの店は、良く店舗が入れ替わる不幸の土地ともいわれている。

 立地的には悪くないから、ルスットゥル商会のように都会からやってきた商人などはすぐにこの場所に店を構える。

 地元の人は絶対に借りない土地だ。

 きっといつまで保つのか賭けでもしてるんだろうな。


「それは良かったな」

「でも最近はポーションを欲しがってか、ガラの悪い冒険者が来るからな。実の所は早く撤退してほしいよ」


 さっきの冒険者もやたらとポーションを欲しがってたし、そんなにポーションなんて欲しいものか?

 あんなもの使わないに越した事ないだろう。 

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