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 ルスットゥル商会が来てから二週間。

 俺は帳簿をつけていて気がついた。


「やべえ、売上が下がってる」


 当たり前だ。

 今まで来ていた冒険者達がこぞって来なくなったのだ。

 俺にとっては快適で研究がはかどって良いことしかなかったが、店を維持する為には不快な事も耐え忍ばなければいけない。

 その事を忘れていた。

 別に全く冒険者達が来ない訳ではない。

 ただ、来たとしても一番の売上であったポーションではなく、他の薬を買っていくだけだ。

 領主の依頼を受けたおかげで赤字ではないが、明らかに収入が下がっているのが分かる。

 食べて行く分にはとりあえず大丈夫だが、貯蓄も必要だし、仕送りの額も増やしたいと思っていたのに、上手くいかないもんだ。

 っていうか、マックスとイーサンが飯を食いにこなければもっと節約出来るというのに。

 少し控えてくれ。と言っても二人は分かっているのか分かっていないのか、毎日のようにやってくる。

 怒りで力が籠りすぎたのか帳簿の文字が滲んでしまっている。

 冷静にならないとな。

 まあ、でも暇なおかげで他の色の染料も完成した。

 困難であった青や黄色なども作って色にバリエーションが出来た。

 定着液も改良して使いやすくなった。

 後はやっぱり金や銀だよな。

 こればっかりは鉱石からとるしかないから、気軽に試せない。

 試作品も沢山出来た。

 と言っても俺に絵心は無いからシンプルな図柄ばかりだ。

 バリエーションがもっと欲しい所だ。

 実験的に渡したココやミラの持っているスカーフの色は未だに褪せないという。

 しかも洗っても色が落ちないから感動しているという。

 どこで手に入れたのかという問い合わせも町の人から結構あって困っているという。

 嬉しい事だ。

 これは本格的に衣料品店に売るか。

 俺は休日の朝、一番豪華に仕上げたスカーフをシビルに貢いだ。


「これが今話題になってるスカーフかい。確かに珍しく鮮やかな色をしているね」

「話題になってるのか?」


 だとしたら交渉もしやすくなりそうだし有難い。


「王都から品が入ってくる事は少ないからね。みんな新しい物に飢えているんだ」


 確かに毎日代り映えしない町だからな。


「ルスットゥル商会は王都にも店を持ってるんだろう?」

「ぽっとでの商会なんか信用出来る訳ないだろう。まあ、女の子達の中では物珍しさゆえに通っている子もい居るには居るが、私から言わせると三流の商品を高く売りつけてるだけだね」


 説得力がありすぎる。

 シビルが昔貴族の愛人だったという噂は本当かもしれない。


「手厳しいな」

「当たり前じゃないか。で、あんたは何をしに来たんだ」

「アディラを一日借りたいんだ。このスカーフを衣料品店に売り込もうと思ってるんだ」


 シビルはふんっと鼻で返事してからアディラを呼んだ。

 眠そうなアディラに試作品の中でも一番良く出来たスカーフを渡すと、珍しく喜んでいた。


「これ、私に?」

「ああ」

「ほんと、嬉しい」

「アディラに身に着けて貰えば、簡単に契約がとれそうだからな」

「は?契約?」


 ポカンとしているアディラにシビルはクックッと笑っている。


「ああ。アディラには今日俺と一緒に衣料品店に行ってもらおうと思ってさ」

「はあ?」

「もちろんシビルには許可とってるからな」


 何が不満なのか、アディラの顔は不機嫌そうだ。

 その為に出来のいい奴をタダでやるっていうのに。


「ナルには遠回しに言ったって無駄だって、そろそろ学んだ方がいい」


 シビルの言い方では、まるで俺が鈍感みたいじゃないか。


「……用意してくるからちょっと待ってなさい。ナル、付き合う代わりに今日のご飯を奢るくらいしなさいよ」


 そう言って階段をドカドカと踏みしめながら、部屋に戻っていった。


「俺、何か変な事言ったか?」

「いんや。もうちょっとウチの店の女の子達に興味を持ってほしいとは思うけどね」

「やだね。酒は一人で飲む方が好きなんだ」


 俺が言うとシビルは呆れたようにキセルを吹かせた。

 


「ねえ、何かデートみたいじゃない?」

「違う、仕事だ」


 モデルが居た方がアピールしやすいからな。

 衣料品店でスカーフを置いて貰えるように交渉した。

 鼻の下を伸ばした店員は曖昧に返事をして、聞いてるのか聞いてないのか分からないがあっさりと月に20枚置かせて貰えるように契約がとれた。

 原価はそんなにかかってないからボロ儲け。

 売上の二割を渡したとしても結構な補填になる。


「ねえ、これってスカートとか大きなものに出来ない?」

「出来ると思う。刺繍よりも手間がかからないし、描くだけだから早く出来ると思う。ただ俺はセンスがないからな。本職に頼んだ方が上手くできると思う」


 言っていて思った。

 もし受け入れられたら技術も売って、染料だけの販売にしよう。

 特許もとっておいたし、ウハウハじゃね? 


「せっかく早く終わって暇だし、ルスットゥル商会に行ってみない?まだ行ってないんでしょ?」


 嫌がらせはまだ続いてるけどな。

 でも、俺の悪評は元からだから全くダメージを受けていないのが実情だ。


「せっかくの王都へのコネなんだから、仲良くすればいいのに」

「先に喧嘩を売ってきたのは向こうだ」


 だと言っても向こうは資本がある。

 ジリ貧なのはこっちだと分かっているが、店を潰す訳にもいかない。


「敵情視察って奴よ」


 アディラの言う事も一理ある。

 冒険者が夢中になるくらい安価だというポーションが気になるのも事実だ。

 同じ薬師として解析できたらしてみたいという気持ちもある。

 俺は変身薬を飲んでイーサンの顔になった。

 アディラの顔が微妙になったが、顔を知られてるんだから仕方ないだろ。


 

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