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俺が住んでいるダックウィードの町は、ダンジョンによって栄えていた町だ。
昔と言っても300年以上も前、まだこの国が小国だった頃の事だ。
ダックウィードの町は影も形もなく、今は無いがバルテという隣国と接する一つの領地があったという。
ここを治めていたのはバルテという辺境伯で、大きな町と要塞があった。
しかし時代の流れにより誤算が2つ起きた。
一つは、勇者という異世界から来た者が召喚された事だ。
突然現れた勇者は圧倒的な力を持ち、この国では無かった考えでこの国の武力を変え、戦争に常勝していく事になった。
もちろんバルテ辺境伯も兵を率いて戦った。
そして、この国は力をつけて隣国に打ち勝ち、その時の戦いにより領地は巨大になり、バルテは辺境伯ではなくなってしまった。
当時のバルテ辺境伯は苦労して作った防衛の為の砦などを手放したくなかったのだろう。
今までの功績を元にバルテ辺境伯は辺境伯と同じ侯爵という地位を賜り、辺境伯という地位は隣の新しく出来た領地へと変更された。
それでも武力といえばバルテという程、危機にさらされた時には兵の援助などを行っていたという。
小さな小競り合いはあったが、特に問題なく国家は運営されていった。
勇者という圧倒的に強い力を持つ国に戦争を仕掛けようという国はなくなり、その後隣国とは同盟を結び争いはほぼ無くなり、武力しかなく町の発展が出来なかったバルテは徐々に力を落としていく事になった。
これが一つ目の転機だ。
もう一つの転機は戦争終結から60年後、現在から240年前、ダンジョンと呼ばれるものが発見された事だ。
何百年も昔、失われた文明時代の文献に辛うじてあった伝説が実在していた事に、当時のバルテ侯爵は大層驚いたそうだ。
その場所はバルテの砦があった場所からは離れた、元から魔物の多い未開拓の大きな木の一本であり、偶然通りかかった傭兵が大きな木の中にあった宝箱を持ち帰った事が始まりだと言われている。
不思議な事に、ダンジョンが出来た事により今まで森の周辺に居た魔物は出てこなくなったそうだ。
研究者の間では、ダンジョンに吸収されたのではという事になった。
そして、ダンジョンの宝箱から発見された武器は、失われた技術が使われていて、現在の技術では解析ができない程強力であった。
はたまた領地では取れる筈もない宝石などが入っている事もあった。
取りつくしたとしても宝箱はランダムで復活したり、魔物の生息地がはっきりする事で、素材の入手が容易になった。
隣国との戦争もなく、武力を溜め込むだけの地であったバルテはダンジョンの攻略に力を入れる事になる。
その話を聞き、王になっていた召喚された勇者、御年80歳は「異世界だから当たり前じゃん」とびっくりしなかったと歴史書には残っている。
そして、さっさとダンジョンに入る為にルールを定め、とりまとめるものが必要だと組織をあっという間に作った。
目をつけられたのは、戦争が無く暇になってしまった傭兵ギルドだ。
元から傭兵などやっている奴は根無し草で一攫千金を夢見る事が多く、まさにダンジョンに群がるような連中だった。
元からあった組織だったので、移行はスムーズに済み、名前も王の希望で冒険者ギルドと変えた。
やっている事はほとんど同じだが、未開の地を開拓する冒険者という方が戦争を家業にしているというイメージのある傭兵よりも良かったのだと記録には残っている。
この話を聞きつけた国の至る所に居た一攫千金を夢見るものどもが、冒険者ギルドに入り、こぞってバルテの一本の木に群がった。
探索をするには色々な物が必要になり、バルテ伯爵(その時点で、残念ながら侯爵から伯爵にまで降格されていた)は金になると踏み、新たに町を建造した。
それがダックウィードの町だ。
元々活気のなかったバルテの町の商人達は商機を見つけたとばかりに、次々にダンジョンの近くへと移住してしまった。
それは移転と言ってもおかしくないぐらいの大移動だったらしい。
本当にバルテ伯爵は商才が無かった。
誰も居なくなった町を放置していても仕方ないので、バルテ伯爵は未だに所持している兵達の訓練場に潰してしまった。
そして、バルテの首都は不思議な木のダンジョン、ダックウィードに代わってしまった。
いきなり出来たダンジョンに国中が夢中になった。
まさにバルテが最も繁栄した時代だろう。
しかし、この夢のような時間は三年で終わる事になる。
他の地でもダンジョンが発見されるようになったからだ。
誰もが行った事のない場所の方が良い物が発見出来るかもしれないと期待が高まった。
ぶっちゃけて言うと飽きたのだろう。
しかも新しいダンジョンの方が魔物は強いが宝が多いと噂になり、波が引くようにダックウィードからは人が去っていった。
それでも冒険者になりたいと強く夢を見る者ほど、ダックウィードにやってくる。
出てくる魔物も素材もマップになって売っているぐらいだから、初心者にはうってつけだ。
そして強くなった冒険者はさっさと去っていく。
なんせ目新しい事は何もなく、先人の手垢がつきまくってる所にいつまでも居られる奴が冒険者になろうだなんて思わないからだ。
そして、町の住人も慣れてしまったのか、そのような冒険者をカモと見なし絞りとる事に長けている。
変化も楽しみもないが、始まりというだけで重要視されている。
それが出涸らしの町、ダックウィード。
俺が住んでいる町だ。
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