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 俺はとりあえず、同じような商品がないか商業ギルドに行った所、誰も登録していなかった。

 ラッキー。

 このまま登録するか、もう少し研究してからにするか考え所だ。

 商業ギルドで商品の登録をすると、鑑定結果に影響を与える事が出来る。理屈は分からないが「特許」というシステムで、これも王が作ったものだと言われている。

 登録された方が信頼度も上がるので、王都などで売るには登録するには必須である。

 とりあえず保留にし、ココにも用があるから定食屋に飯を食べに行く事にした。


「いらっしゃいませ」


 いつものようにココが明るい挨拶をする。

 店内を見回した所で会いたくない顔を見つけ、引き返すかどうか悩む。

 その内に見つかってしまった。


「あ、ナルさんもご飯なんですか?」


 気軽に声をかけてくる受付嬢のミラと困ったような顔をしているエリンの二人組だ。

 っていうか、前も会ったな。もしかしてギルドの休憩時間と被ってるのか?

 今度から少しずらそう。

 離れた場所に座ろうとすると「何でこっちに来ないの?」と空気も読めずに言ってくる。

 客の誰かが舌打ちした音がした。

 違う、俺とこいつらはただの顔見知り程度だ。

 ココも困ったような顔をしている。


「いや、俺は一人で食べるから。二人の邪魔をするのも悪いし」

「悪いなんて事ないわよ。食事は大勢で食べた方が美味しいわよね、エリン?」

「ミラ、図々しくしないの。ごめんなさい」

「いいじゃない。そんなケチだからエリンはモテないのよ」

「そ、そうだけど」


 これ以上問答していたら、余計にエリンが可哀想な目に合いそうで仕方なく隣のテーブルで食べる事にした。

 エリンが小さく頭を下げるから、気にしてないというように首を振っておいた。

 ココが水を持ってきたから、今日の日替りを頼んだ。

 

「エリンは気を使い過ぎなのよ。同じ町に住んでる同士なんだから、そんなに気を使わなくたっていいのよ」


 いや、気使えよ。


「そ、そうだけど一人で静かに食べたい時だってあるじゃない?」


 正しい。

 エリンはこの町には珍しい常識人だ。


「え?そんな事あるの?」


 馬鹿だ。

 本当にミラは大馬鹿だ。頭に行くべき栄養が胸にいってるんじゃないだろうか?

 俺が喋らなくても二人の会話はどんどん進んでいく。

 と言っても9割喋っているのはミラだが。

 もしかして、エリンはミラのお目付け役にされてるのだろうか。

 だとしたら、可哀想過ぎる。

 つい生ぬるい目で見てしまう。


「そういえば、ルスットゥル商会って行った?」

「まだ行けてないわ」

「凄いのよ、ポーションとか凄い安く売ってるし、王都で流行り始めたっていうイヤリングも買っちゃった。ちょっと高かったんだけどね。似合うでしょ?エリンもたまにはこういうオシャレした方がいいわよ」


 エラの耳には、アディラが投げ捨てたものと似た形だが、シンプルなデザインのイヤリングが嵌められていた。

 エラは虫とか気にならないタイプなのか。

 俺は妙な事に感心してしまった。


「わ、私は別にいいわよ。それに忙しいし」

「街の事を色々知るのも受付嬢にとって必要な事よ。私、あまりにもルスットゥル商会のポーションが安いから、ギルド長に報告したわ。今仕入れてる所から変えたら?って」


 ミラの言葉に水を飲んでいた手が思わず止まる。

 嘘だろ。

 月1のギルドの契約が切られたらさすがに不味い。

 冒険者が来なくてもやっていけるのはシビルの店とギルドとの契約があるからだ。

 もし無くなったら、非常に困る。


「ミラ、安いからってすぐに変えられるものじゃないわよ。いきなり打ち切られたら契約してる所だって困るでしょ?それにルスットゥル商会って新しい所だし、ギルド長は信用とかも考えていると思うけど」


 チラチラと俺を見ながら庇ってくれる辺り、エリンは俺がギルドに納品している事を知っているみたいだ。

 ギルド長がこの町の考えに染まっていて助かった。


「古い、古いよ、頭が。新しい良いものは取り入れていくべきよ!」


 はいはい、勝手に言ってろ。


「お待たせしました、今日の日替わりのハンバーグです」

「ありがとう」


 ちょうどよくココが日替わりを持ってきてくれたから、そっちにとりかかる。


「ココ、それが終わったら休憩に入れ」

「はーい、お父さん」


 あ、居なくなっちゃうならその前に。


「ココ、これやる」


 俺は収納袋から、試しに染めていたスカーフを一枚ココに渡す。


「わー、お花とかチョウチョが描いてある。綺麗」


 緑色に染めた布に赤い花と紫色の蝶を描いたものだ。

 図案はライブラリーにあった刺繍の本を参考にしたから悪くない筈だ。

 ミラも一緒になってはしゃいでいる。

 

「凄い、綺麗な色ね。ここまで鮮やかな色のものなんて、高いんじゃないの?」


 ヤバい、ロリコン疑惑再びか。


「原価はそれ程かかってない」

「原価?」

「俺が作った」

「嘘っ。色布にこんな鮮やかに色が乗ってるだなんて信じられないわ。しかも刺繍じゃないわよね?」

「ああ。色を乗せる新しい液の研究をしているんだ。ついでに新しい染料も。まだ試作品だから色がどれだけ持つか分からないから、色々使って試して欲しいんだ」

「いいなー、オシャレー」


 ココが嬉しそうに首に巻くと、端に丁度蝶が紫色にでた。

 はしゃぐココを大人二人は羨ましそうに見ている。

 ああ、サンプルは多い方がいいな。


「良かったらいるか?」


 エリンに渡す。

 黒い布に草のような模様をぐるりと一周させたシンプルなものだ。


「え、私に?」


 戸惑いながらもエリンは布を広げて息を飲む。

 もしかして気に入らなかったか?


「気に入らなかったら言ってくれ、他にも色々な柄もある。もうちょっと待ってくれれば、他の色も作れると思う」


 そうなるとやっぱ乾燥機欲しいよな。


「ううん、これでいいわ。嬉しい」


 良かった、迷惑じゃなかったようだ。


「ああ、使ってみてアドバイスがあったら教えてほしい」


 エリンは色々と知っているからな。

 もっといい案を教えてくれるかもしれない。


「私にも、私にも」


 エラが飛びついてくる。


「無い」


 薬屋に打撃を与えるような進言をしようとした奴に、やる訳ないだろう。


「エリンだけ狡いよ」


 エリンが困ったような顔をするから、俺はため息をついて仕方ないから一枚やった。

 貸しだからな。 


「ありがとうございます、ナルさん。早速お母さんに見せてくる」


 そういって、ココは嬉しそうに店の奥へと行ってしまった。


 

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