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 結局ルスットゥル商会という聞いた事のない商会から来たという男は、出て行ってから戻って来る事はなかった。

 しまった、警戒するのにどこに宿をとってるかぐらいは、聞けば良かった。

 あの調子では、一回断ったぐらいでは諦めないだろう。

 王都に手紙を出すか?

 いや、巻き込まない方がいいな。

 狭い町に居るんだ、聞けばどこに居るかぐらい、誰かが知っているだろう。

 気にはなったが、冒険者達の相手をしなくてはならない為、明日に持ちこす事にした。

 いつも通りに冒険者達の文句を聞き流し、会計をするという流れ作業をこなしている内に閉店時間になり、店を閉めた。

 そして売った分を補充していたら研究は出来なかった。

 まあ、明日続きをやればいいか。


 次の日、朝いつものようにマックスとイーサンがやってきた。

 マックスは変な顔をしているし、イーサンは深刻そうな顔をしている。

 とりあえず家に上げると素直に座ったから、用意していた朝食を出す。

 今日は好みの硬さに焼いた玉子と、サラダ、ハムのサンドイッチにスープだ。

 用意した朝食を食べながらも、視線はチラチラと何か言いたげに俺の方を見ている。

 うっとおしい。


「言いたい事があるなら言えよ」


 俺が言うと二人は顔を見合わせる。

 そのまま小突き合っているから無視して食べ進めていると、漸く決着がついたのか、マックスが口を開く。


「ナル、いくら金が欲しいからってな、ランクの低い冒険者を脅して薬草を採取させるのは、良くないと思うぞ」

「ぶっ」


 思わず食べていたパンを吹き出しそうになった。


「いきなり変なこと言うなよマックス」

「だって寮の冒険者たちが言ってたぞ。じゃないと、こんなに安くポーションが作れる訳ないって。ギルド内でも噂になってるぞ」

「す、するか、そんな事。そんな事したら一発で冒険者カード停止されるだろ。大体、依頼はギルドを通してしかしないし、採取の時は俺もついていってる」


 大体そんな殊勝な冒険者が多かったら、サンドバッグのように毎日文句を言われない。


「だから言っただろ。ナルは明らかにひ弱だから冒険者を脅すなんて出来る訳がないだろ」


 イーサンが優雅にハムを切りながら、呆れたように言う。


「そうだよな、悪かったな、ナル」 


 全く悪いと思っていないように、マックが言う。

 マックスと比べれば、どうせ俺はひ弱だよ。

 だけど一応ランクDだからな。

 ちょっとズルしてるけど。


「私は基本的には、ナルの事を信じている。だが、昨日来た何人かの客も同じ事を言っていたから半々に思っていた。無能そうな奴がキレると一番怖いって言うだろう?」


 うるさいな。


「大体だな。俺はこの町の冒険者のほとんどに嫌われている。嫌われているという事は逆に注目もされているという事だ。それなのに、冒険者を脅すなんて目立つような事をすると思うか?それに、俺が暴力なんて振るったら、嬉々として奴らはこの町から追い出しにかかると思わないのか?」


 自分で言っていて悲しくなるが事実は事実だ。

 もう受け入れているのだ。


「そうか、デマか。安心した」


 そうだよ。

 まさか、心配してくれたのか?


「さすがの私でも、知り合いを兵士に突き出すのは気がひけるからな」


 違った。

 自分の保身の為だった。


「大体その言っていた客は、この町の住人なのか?」

「知らん。冒険者なんて皆似たような格好をしているから基本的に区別はつかん」


 俺も屑な冒険者の顔なんて一々覚えてないが、輪をかけてイーサンは人の顔を覚えないから仕方ないか。

 シビルにでも聞けば分かるかな?


「そもそも、愚痴る前にギルドに通報すればいいだけの話だろ。ギルドに何も言わないって事は後ろめたい事があるからに決まってる」

「なんだ、すでに心当たりがあるのか?」


 ちょうどいいから聞いてみるか。


「ある。昨日ルスットゥル商会の奴が来てな、傘下に入れって言われて断ったんだ」

「断って正解だぜナル。ナルは王都に居なかったから知らないと思うけど、ルスットゥル商会はここ1,2年で大きくなった商会だ。小さな店をどんどん吸収合併していって、規模だけだったら、かなりデカイんじゃないか?」

「マックスが知ってるなら、相当デカいんだな」

「デカいのもあるが、品質が悪い事で有名なんだよ。剣なんて1、2回打ち合っただけで折れたって騎士団の先輩が言っていた。あそこでは武器を買うなって」


 やっぱり録でもない商会だったか。

 ふと疑問が起こる。


「なんでそんな粗悪品ばかり売っているのに、王都から追放されないんだ?」

「バックに貴族が居るという噂だ。どこの貴族かは分からないがな」


 成る程。

 だからアレほど強気に出てきたのか。 


「そういえばギルドの向かいに、お試しで店を出すと言っていて女共が騒いでいたな。珍しい装飾品や薬類を安価で売ると。アディラ嬢が珍しく引きつったような顔をしていた」


 それは、虫イヤリングを渡されたからだろう。

 それにしても、貴族に出てこられると面倒だな。


「で、イーサンは何を言おうとしたんだ?同じ件か?」

「下々の争いなど興味がある訳ないだろう。それより、店の前で何か育てようとしているのはいいが、さすがに見た目が悪いから止めた方がいいと思うぞ。せめて私が帰ったあとにやってくれないだろうか?不衛生な場所に出入りしていると思われたくない」


 は?

 俺は慌てて店の前に行く。

 そこには生ゴミが散乱していた。

 なんて古典的な嫌がらせだ。

 まだ早朝だから歩いてる人はあまり居ないが、ただでさえ悪い俺のイメージが悪くなるだろうが。

 俺は怒りながら箒とチリトリを持ってきて集める。


「ナルがやったんじゃなのか?」


 ひょっこりと出てきたマックスが手伝う。とチリトリを持ってくれる。


「どこをどう見たら俺がやった事になるんだよ」

「新しい肥料の研究かと思って」


 いや、だとしてもわざわざ店の前でやる訳ないだろう。

 こんな事が続くと思うとげんなりした。


 トラブルの予感です。

 いいねなど、ありがとうございます。

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