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次の日も試行錯誤の連続だ。
だが、新しい商品の作成は楽しい。
マックスとイーサンに朝食を出し、食べ終わったらいつものように追い払う。そして、3日ぶりに店を開けて一番に駆け込んできたのは、珍しく冒険者達だ。
依頼を受けるよりも先に駆け込んでくるだなんて、閉めるって告知しておいただろう?
それでも予備として買わない辺り、冒険者達の無計画ぶりが良く分かる。
やってきた冒険者達はごっそりとポーションやら傷薬やらを持ってカウンターに並んだ。
俺は事務的に会計をする。
当然ながら休んでいた事に関して心配する声などない。
何も言わずに出ていくのはいい方で、大半は「お前が店を開けていなかったせいで17階がクリア出来なかった」とか「客に不便をかけさせるだなんて、悪評を広めてやる」だとか文句を言ってくる。
さすがに苛つく。
ポーション類の値上げしてやれば良かった。
ギルドの受付嬢のエリンも王都は1,5倍〜2倍の値段で売っていると言っていたし。
失敗したな。
それに、どうしても必要ならばギルドで買えばいいだけなのに。
どうせ高くて買えなかったんだろう?
それなのに文句を言う冒険者達に呆れてしまう。
二時間も経たない内に一日分以上の売上を上げて、冒険者達は去っていった。
午前中の半分が潰れてしまった。
これはさすがに計算外だったな。
しかも棚の空きがいつもより目立つ。
とりあえず補充をしないと。
この分だと夕方にも大量に購入していきそうだ。
もし在庫が無いとなったら、また騒ぎ出しそうで憂鬱になる。
やっぱり店を空けるのは良くないな。
俺は日課の薬草の生育記録を書いてから在庫を調べて、ポーションの作成準備を始める。
ポーションの作成に決まった手順はない。
鑑定結果にポーションと出れば、それがポーションなのだ。
一応学園の教科書にベースとなる薬草も分量ものっているが、同じように作っている薬師など存在しないだろう。
費用を考えると馬鹿高い上に効果も薄いんだから。
だから薬師は必ず自分のオリジナルのレシピを持っている。
それは伝統的に作られていて、弟子に代々受け継ぐものだったり、偶然の産物だったり色々だ。
そして、皆損をしたくないから秘匿していて外には出さない。
俺は鑑定とライブラリーが使えるから大分ズルをしている。
ライブラリーで適当に『道端に生えている植物図鑑』を見ていた時に、道端に生えている雑草と思われている花、ピサンリの中央部分にポーションに使われるシュロキ草と同じ成分が抽出出来る事が書いてあったのだ。
まさに雑草という名前の植物は無いという事だな。
だからマックスと採取に行った際に銀貨2枚で依頼していた依頼主の事を鼻で笑ってしまった。
その辺で拾えばタダなのに知られてないんだよな。
バレないのかって?
鑑定のスキルにも適正がある。
人口の三割ぐらいの人が使えるが、人によって鑑定のランクにバラツキがある。
鑑定と言っても経験や知識に左右されるからだ。
例えばピサンリを俺が鑑定する。
『ピサンリ 黄色い花。どこにでも生える。花中央の黄色い部分は魔力を含み、ポーションの原料として使える。根は眠気覚まし代わりに使用可能。食用可』
などと表示される。
植物などに興味のないイーサンが鑑定すると鑑定結果は変わり
『ピサンリ キク科の多年草植物』
となるだろう。
俺は物しか鑑定出来ないが、王都の神殿には人物の鑑定が出来る人がいる。
神職者じゃないと人物鑑定が出来ないかは、非常に謎だ。
それに、王都では店を開いて物を売るには鑑定のスキルを持っているものが責任者になる事が普通だ。
田舎では資格を持っている者は少ないが、万が一にでも貴族に紛い物などを売ると犯罪として捕まる。
だから鑑定を持っている人物は職には困らないと言われている。
上級鑑定になると、ポーションの材料に何が使われているかまで分かるという。
そこまで言ったら、王城に就職という輝かしい未来しかない。
昼になったから昼食をとりながらポーションを作る。
何とか午後の開店までに朝と同じくらいまでにポーションを補充する事は出来た。
ここからが俺の自由時間だ。
どうせ夕方になったらまた冒険者達が押しかけてくるだろうし、自由な時間は少ない。
俺は昨日の研究結果をまとめる。
やっぱり果物などで染めると濃いものには色が濁るかのらないかだ。
それに、水に溶いているだけだからか、そもそも髪の毛のようにツルツルしたものには定着しない。
体に塗るものだから、人体に害がないものと思い植物やら果物を重点的に探していたが、アプローチを変えた方がいいのか?
例えば、染色液を塗る前に何か定着しやすくする染料を先に塗る……とか。
それに液体ではなく、例えば粉や粘液にしてみるとか形状を変えるべきだろうか。
ライブラリーで参考になりそうな本を読んでいると、まだ冒険者たちが来るには早い時間なのに、ドアが開いた気配がした。