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 次の日は朝から休みだ。

 それでも畑の世話は毎日ある。

 一日手入れをしていなかったら、またすぐに雑草が生えていた。

 夏が近いから仕方ないとはいえ面倒だ。

 何かで囲うか?

 その金がもったいないな。

 普段よりちょっと多く生えてる雑草を抜き、収穫時になっていた薬草をとっていたら、マックスとイーサンがやってきて飯をたかってきた。

 買い物に行ってないから何も無いと言ったら、二人して騒ぎ出した。

 いや、そのまま帰れよ。

 しょうがないから適当に缶詰を温めて、スープと戻した豆を潰して焼いたパンケーキを出す。

 野菜は買ってきてないからない。

 それでも二人は美味しそうに食べている。

 何だ、貴族の生活が長く続くと味覚がバグるのか?


「そういえばナル聞いてくれよ。昨日イーサンから貰った店で飲み放題券使ったら、期限が切れてたみたいで使えなかったんだぜ」

「仕方ないだろう。期限があるだなんて知らなかったんだ」


 イーサンはしれっとパンケーキを切り分けているが、絶対嘘だろう。


「そのせいですっからかんに絞りとられちまったよ」

「毎度ありがとうございます。ナルも気に入った女が居ればつけてやるぞ」


 ニヤリと笑っているが、イーサンにその権限はないだろう。

 そもそも金を払ってまで、女を侍らせて呑む趣味はないからどうでもいい。


「ごっそさん。仕方ないからまた金を稼ぎにいってくる」

「勝手に行ってこい」


 一々報告なんてしなくていい。

 素早く食べ終わるとマックスは飛び出していった。


「ごちそうさま」

「イーサンは店に戻るのか?」

「私は休みに決まっているだろう。自分の部屋で研究を進める予定だ。興味深い結界も見た事だしな」


 まあ確かに魔法マニアにはたまらないだろうな。

 という事は平和な休日が続くという事だ。

 誰も片付けてくれない食器を片付け、薬草の生育記録をつけてから買い出しに出かける事にした。

 いつもの食料と一緒に、果物での染色がポピュラーだと本にあったから買いに行く事にする。

 目当てはアンゴルだ。

 紫色で小さな実を沢山つける果物で、染色にはポピュラーである。果物だから害もない。

 布の染色に使うと薄く色がつくらしいが、俺の目当てはもっと濃くする事だ。そればっかりは試行するしかないが、それもまた楽しいものなのだ。


「アンゴルはあるか?」


 店番をしている若い男に言ったら、ニヤニヤとした顔をしながら「卑怯者に売るものなど無い」と言われた。

 もうこんな対応にも慣れっこだ。


「ならいい」


 俺がダメージを受けてない事が分かったらか、あからさまにガッカリされたが、どうでもいい。

 付き合うだけ時間の無駄だ。

 気分悪いから定食屋で日替りでも食べて帰るか。

 他にも代わりになる物は沢山あるし、どうしてもこの店で買わなくてはならない訳でもない。

 あっさり引き返そうと思ったら、見知った顔を見つけた。


「あら、ナルも買い物?」


 夜ではないから露出は控えているが、それでも抜群のプロポーションを曝け出しているアディラが声をかけてきた。


「アディラか。昼間に出歩いてるなんて珍しいな。今日の天気は雨か?」

「失礼ね。昨日、一昨日と誰かさんのおかげで平和だったから早く目が覚めたのよ」


 やっぱりあの依頼は仕組まれてたんだと確信した。

 同時に、イーサンが相変わらず他人に迷惑をかけまくっている事を考えると頭痛がする。


「ナルこそ珍しいじゃない」


 チラッと男を見てアディラは笑顔を向ける。

 男は鼻の下を延ばしている。

 こいつもアディラに引っかかった一人か。


「アンゴルを新商品に使おうと思ったんだけど、無かったようだ」

「そうなの?今時期だもんね。私も食べようと思ったのに。無いのなら残念だわ」


 アディラが明らかに落胆してみせると、男が慌てだす。


「あ、あります。今持ってきます」

「ありがとう」


 アディラが微笑むと男は赤くなって店の奥へと入っていった。


「俺の分もな」


 ついでに言うと、男は舌打ちした後に店の奥へと取りに行った。

 また好感度が下がったような気がするが、関係ない。

 こっちはちゃんと金を払う客だ。

 一人に出して、もう一人に出さないなんて事は、さすがに出来ないのだろう。

 男が引っ込んでから小声で言う。


「頼んでないぞ」

「そんな事言わないでよ、私も食べたかっただけだし。それにしても、本当に嫌われてるわね。もうちょっと上手く立ち回ればいいのに」

「別にいい」


 嫌われている事は今に始まった事じゃない。


「ナルが私を指名してくれたら、町の人との仲、取り持ってあげるわよ」


 アディラが近づいて耳元で囁く。

 近づいた顔には見慣れないイヤリングがついていた。

 水色に透き通りユラユラ揺れているものには見覚えがあった。


「俺はまだ破滅したくない。さっさと離れろ」

「いやん、イケズ」

「言ってろ」

「そのイヤリングどうしたんだ?」

「お客さんに貰ったの。何でも王都で流行ってる商会らしくてね、今度この町にも店舗を作るんだって」

「へえ」

「何アディラちゃんにくっついてんだよ、薬屋!離れろ!」


 いつの間にか戻ってきたのか男が怒鳴っている。

 俺はすぐさまアディラを引き剥がして、ぶっきらぼうに渡されたアンゴルを受け取り、お釣りがないように支払う。

 アディラも同じようにお金を渡そうとしたら「サービス」と言って、俺よりも随分と安い金額を告げられていた。

 う、羨ましくなんてない。


「アディラ、目当てのものが手に入った礼に、いい事を教えてやるよ」

「何?」

「それ、リベレの死骸を加工したものだぞ」


 アディラは悲鳴をあげて耳からイヤリングを外した。

 ただ、理性を総動員して捨てる事はなかった。

 魔物を加工した宝飾品は無くはないが、この町でも売るなんて珍しい。

 最近やっと流行ってきたのだから、高いは高い。

 主に加工代だ。

 リベレは湿地帯に住む4枚羽を持った昆虫型の魔物で、見ている分にはとても綺麗である。透き通った目玉の部分と、羽が繊細で壊れやすい。最近固定される技術が見つかり話題になっていると、定食屋の親父がとっている新聞で読んだ。

 ただ、アディラは虫が死ぬ程嫌いだ。

 いくら綺麗だと言っても嫌な人は嫌だろう。

 わざわざ教えてやるなんて、俺ってなんて親切なんだろう。

 目当てのものも手に入った事だし、俺は予定通りに定食屋に行く事にした。 

 

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