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12

 意気揚々と魚を片手に帰ってきたマックスに、優しい俺は真実を告げてやる。


「その魚、食えないぞ」

「まじか」


 驚愕の表情をしているが事実だ。

 お茶の準備をしながらライブラリーで『誰でも見分けがつく魔魚辞典』を見た所、鱗などは魔力を通せば装飾に使える高価なものだ。

 特に目玉のレンズの部分は高く売れる。

 だが、食用には骨が多くて適していないそうだ。

 無理をすれば食べれるかもしれないが、そこまでの道具は今無い。


「素材になる部分をくれるなら、分けてやらないでもない」


 俺は収納袋に入れていたナッツなどを固めたオリジナルの携帯食を取り出すと、マックスは快く譲ってくれた。

 ラッキー、原価に比べればメッチャ安く手に入れられた。

 マックスが携帯食に齧り付いている間に魔魚の解体をしていると、ようやく祭壇に興味を失ったのか、イーサンがやってきて、魚を解体している俺と、気にせずバーを食べているマックスを見て、嫌な顔をしたあとにマックスの隣に座った。


「よく魔物を解体している横で食い物食えるな」

「ああ、慣れた」

「私には到底無理だな」


 うるさいな、魚系の魔物は倒したらすぐ解体が基本だ。

 時間をかければかける程素材の新鮮さが失われていく。


「お茶沸かしてるから自由にどうぞ」


 イーサンは自分の収納袋から、全く実用的でないコップをとりだして鍋から直に注いだ。

 あらかたの素材を取って、残った魚の始末はどうするか。と考えていた所で思った。

 そういえば、祭壇には何かをそなえていたと言っていたな。

 崩落に気がついたのも、そなえに行こうとして気がついていたと言っていたしい。

 果物なんて都合のいい物は持っていないが、これじゃ駄目なのか?

 始末に面倒になったともいう。

 それに、勝手に近くで休憩しているから何が祀られてるかは分からないが貢ぐのは悪い訳ではないと思いたい。

 俺は祭壇に魔魚をそなえた。

 まあ通路が通れるようになったら、伯爵の使いが始末してくれるだろう。という軽い考えだ。


「おい、ナル何してるんだ?」


 不審な動きをしている俺に気がついたイーサンが声をかけてくる。


「余った部分をあげようと思って」


 魚を祭壇に置く。

 やっぱり何も起こらない。

 大体、置くと何が起きるのか聞いてないから変化された所で困るけどな。

 あ、魔石とるの忘れた。

 もったいないから取ろうとした所で、いきなり皿の上に置いてあった魚が消えた。


「え?」


 次の瞬間、祭壇が光り始めた。


「なんだ!」


 マックスが剣に手をかけるのを見て、俺も祭壇から身を引いた。

 光は徐々に広がっていく。


「泉の水が」


 イーサンの呟きに水を見ると、さっきまで濁っていた水がどんどん透き通ったものに変わっていく。


「キィ」


 スカロプスの叫びに上に目をやると、祭壇の光に当たってパタパタと倒れた後、灰のようにバラバラに魔石も残さずに消えてなくなっていく。

 あのように魔物が消えていくのを、俺は一度だけ見た事がある。

 教会で力を持った聖職者が、浄化した時の様子に似ている。

 ただし、その時は30人以上の聖職者が力を合わせてアンデッドの魔物を消した時だ。

 滅多に見られない大規模浄化に好奇心で見に行って、呆気にとられた覚えがある。

 その時と同じ光景が、今行われている。

 つまり、この祭壇は浄化の光を発しているという事なのか?

 祭壇の光は5分程光って消えていった。

 あまりにも圧倒的な力に、俺達は動く事も出来なかった。


「治まったのか?」 

「あ、ああ。今はさっきまでの圧倒的な力は無くなっている」


 漸く息をつけた。


「これが、言っていた結界の力ってやつか」


 思っていたよりも数倍強い力だ。


「いや、多分違う。これはお前が供えた魔魚に反応して出たのだろう。魔力の多いものを備えると、その高さに応じた結界が作られる。それがこの祭壇の本来の使い方なのだろう」

「なるほど」

「これで辺境伯が圧倒的な力を持っていた割に貧乏だった訳がわかったな。この祭壇は魔力をバカ食いする上に、倒した魔物の魔石すらも消してしまう。本当に最終手段なのだろう」


 っていう事は、本来だったら魔石をこの祭壇に供えるべきなんだろうが、年月が経つ内に忘れられていって魔力をあまり含まない果物に変わってしまっていた。

 そこに俺がたまたま魔石のついた魔物を供えた事により、発動したという事か。

 壊した訳じゃなくて良かった。


「おや、皿の上に何か乗っているな」


 イーサンがつまみあげたのは、魔魚と同じ紫色の石のついた指輪だった。

 イーサンが無造作に指輪を俺に向けて放る。

 思わず受け取ってしまったが、不吉でしかない。

 慌ててマックスに渡そうとしたが、マックスはまたバーを食べる作業に戻っている。


「マックス、これ」

「あ?ナルが持ってればいいだろ」

「嫌だよ、こんな不吉そうなもの。あの魔魚を倒したのはマックスだし、責任持てよ」

「あの魔魚はこのバーでナルにやったものだろ。だから、俺には受け取る権利はない」


 ちっ、押し付けるのに失敗したか。

 本能的に不吉だと察知したな。余計持ちたくない。


「イーサン」

「研究の範囲外だ。悔しいが、魔石を供えるという事を思いつかなかった私には、貰う権利がない」


 殊勝な事を言っているが、絶対に不吉だからだろう。


「じゃあ伯爵に渡すか」

「それは止めた方がいい。この結界の使い方を、あの馬鹿男を知ったら、面倒な事が起きる予感しかしない。それに比べれば権力欲の薄いナルが持っている方が安心だ」


 そこに俺の安全は入ってないだろう。

 まあここに来る事はほとんど無いだろうし、勝手に起動した俺のせいといえばそうだから、甘んじて受けるしかないな。

 俺は収納袋に指輪をしまった。

 

 

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