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次の日の朝も贅沢な朝食を食べた。
自分で食事を作らなくていいというのは、なんて優雅な事なのだろう。
隣にイーサンが居なければ、もっと良かったが。
ハリエットは悪夢を見なかったとで、ご機嫌なようだ。
執事がこっそりと消臭剤を追加で売ってくれないかと交渉してきたから、割引して売ってやった。
終わると緊張した様子の、俺と同じ年くらいの兵士が迎えにきた。
「隊長は地下の土砂と岩の撤去指示をしているので、代わりに案内を任されましたガイといいます。よろしくお願いします」
はりきって挨拶したのにも関わらずイーサンは無視をしている。
仕方がないので俺が返事をする事にする。
自分から願ったくせに対応は人任せにする所なんて、相変わらず最悪だ。
「忙しい所申し訳ない。俺はナルといいます。こっちはイーサン。イーサンの事は放っておいていいですから。それに、言葉も崩していいです」
「いえ、お客様に失礼な事は」
「俺は平民ですから」
「分かりました。でも、口調はこのままで。一応二人は伯爵の客人なので」
二カッと笑った顔がマックスと似ている。
きっと同じ人種なのだろう。
今頃あいつは何をしているのだろう。いかん、思い出さない方がいい。
そして家の地下へと案内される。
外から見るより、地下は物凄く広く坑道のようだった。何年も使っているのか、綺麗に舗装されている。
たまに不思議な色の鉱石が光っていて神秘的だと思ったが、案内してくれる兵は見慣れているようで、気にも止めていない。
魔導具による灯りが天井にポツポツと点ってはいるが、中は大分暗い。
「それにしても、こんな地下道を見たいだなんて、珍しいですね。それよりも騎士の訓練の方が見応えがあると思いますが」
ガイは若いのに兵士であるのに誇りをもっているのだろう。
しかし、俺は筋肉ダルマ達の訓練など見たくないから、話を変えよう。
「どれくらい歩くんですか?」
「一時間ぐらいですかね」
「そんなに広いんですか?掘るの大変だったでしょう?」
「いや、昔の人が掘ったらしいので詳しい事は分かりません。何でも、この地下道があったから上に砦を立てたという話です」
それ程重要な場所なのだろう。よく部外者を入れる気になったな。
「ここの結界の機構はどんなものなんだ?」
黙っていたイーサンが、ガイに話しかけるとガイは不思議そうな顔をした。
「キコウ?」
思った通りの返答が無い事に、イーサンが苛ついたのが分かる。
マックスと同じ脳筋な兵士が難しい言葉なんて知る訳ないだろ。
「構造というか、どういう風に結界を起動するとか、どれくらい魔力を使うとかが知りたいみたいです。言葉が足りなくてすみません」
俺が聞き直すとガイはキョトンとしたような顔をした。
「ああ、そういう事ですか。特に何もしませんよ」
「え?」
「しいて言うなら、祭壇に毎日果物をそなえるだけですね」
余計に疑問が湧いてくる。
結界の魔法に果物ってどういう事だ?
「それって特殊な魔力を帯びたものとかですか?」
「違いますよ。僕たちの食事に出てくるような一般的なものです」
そんな安上がりな結界があるのか?
「ますます興味深い。もしその結界が城や国中に張り巡らせられたら、私は一躍有名になれるだろう。私の事を馬鹿にした城の奴等にも一泡吹かせてやれるな」
イーサンが不気味な笑いをする。
俺達は若干引いてしまう。
心が一つになった。
「ここを真っ直ぐ行くのですが、今は塞がっています」
バルテ伯爵の言った通り、歩いて10分くらいの所が土砂と俺の背丈よりも巨大な岩でふさがれていて、多くの兵士が岩や土を取り除こうと作業をしている。
しかし巨大な岩は少し削れている程度だ。
「やっと土砂をとりのぞけたと思ったら、この巨大な岩のせいで時間がかかっているんです。結構固くて」
ツルハシで少しづつ削ってかなければならないから時間がかかっているんだろうな。
「どけ。私が魔法で弾き飛ばしてやる」
イーサンが唱え始めたのは上級の火魔法だった。
こんな地下で火の魔法なんか唱えるんじゃねぇよ、死ぬだろ。
だが、ガイも兵士達も全く慌てる素振りもなく、作業を続けている。
舌打ちをしたイーサンの指から魔法陣が浮かぶが、すぐにかき消えた。
「ば、ばかな」
イーサンは杖を取り出し、同じように詠唱するがバルテ伯爵の言った通り、魔法は発動しなかった。
「諦めよう、イーサン」
「世紀の大発見だと思ったのに」
「取り除かれたらまた行けばいいだろ」
「そうだな」
帰りの馬車が来るまで時間があったので、俺は領主の家近くにある森で薬草を集める事にした。
イーサンもブツブツ言いながら付き合っている。
この辺りにしか生えない薬草も色々と生えている。
ポーションには使えないが消臭剤の材料にはなりそうだ。
俺はどんどん収納袋に入れていく。またここまで来るのは面倒だから大量に取っていこう。
イーサンはあの場所がどういう構造なのか考えているのだろう。大人しい。
「ナル、何か来るぞ?」
ふと顔を上げたイーサンが言い、杖を取り出す。
魔物か?
イーサンは俺よりも魔力が高い気配察知の範囲が広い。
俺も収納袋から盾を取り出す。
気づいた時には、前方の奥から木が倒れたりしている。
余程の大物なのだろうか?
勢いよく走ってくるスカロプス。逃げてくる所を見ると、スカロプスを追いかけている何かが居るんだろう。
スカロプスは普段は地面の下に居て、穴を掘って生活している。前足にある鋭い爪が特徴で、たまに畑にやってくる討伐指定のある魔物だ。
「そこに居る奴、どけっ」
「マックス!?」
大声と共に、剣を大きく振りかぶったマックスが空から振ってくる。
剣には魔力が纏わせてある事が分かる。
俺は慌てて盾を構え、イーサンは防御シールドを張る。
焦ったスカロプスは、地面に勢いよく潜りこむ。
防御姿勢をとった所で、マックスが振り上げた剣を振り下ろした。
すると、地面が割れた。
「嘘だろっ」
地面の下はちょうどスカロプスの巣だったのか、マックスが打ち下ろした衝撃で脆くなっていた地面が割れた。
それは俺達の居た範囲もで。
俺とイーサンの体は呆気なく地面へと落ちていく。
「イーサン、風魔法で浮かせろ!」
「わ、分かっているから、焦らせるな」
イーサンが呪文を唱え魔法陣が浮かぶ。
安心した所で、何故かマックスが上から落ちてきて、驚いたイーサンの言葉が止まると魔法陣もかき消えた。
嘘だろ。
「二人共、平気か!!」
平気な訳あるか、今も絶賛落ちてる最中だぞ!
「何故魔法の発動を邪魔するのだ、馬鹿者!そもそも、何でお前まで落ちてくるのだ!」
「二人が心配で」
イーサンとマックスが口喧嘩をしてる間にも、俺達の落下は止まらない。
地面が見えるが、大分落ちたような気がする。
このまま地面に激突したら、怪我するだろう。
どうするんだよ。
マックスがおもむろに剣を岩肌に突き刺し、スピードを抑えようとする。
「二人共、俺に掴まれ!」
俺はマックスの足にしがみつき、イーサンが俺に捕まる。
重さがありすぎるせいでスピードは抑えられたが、落下はしている。
大分スピードは抑えられたが、地面に積み重なって辿り着いた。
「……良かった、生きてる」
「さっさと私の上からどけ!」
思わず安堵の言葉が漏れたが、一番下に居たイーサンがマックスの重さで死にそうだったから、上に乗っているマックスを叩くと、何でも無かったかのように、マックスはひらりと俺たちの上から飛び降り、スカロプスを追いかけに行った。
元気すぎるだろ。
そして、すぐにスカロプスの断末魔がしたと思ったら、戻ってきた。
「二人共怪我はないか?」
「誰のせいで落ちたと思ってるんだ!」
イーサンが怒っているが、俺も同じ気持ちだ。
魔物を追うより前に、マックスのせいで落ちたのだから、無事か聞くべきだろう。
「まあ、俺のせいだな」
全く悪びれていない通常運転だ。
っていうか、まだこの辺に居たのかよ。
てっきり昨日町に帰ったと思ってたのに。
「もう何でもいいよ。イーサン早く魔法で地上に押し上げてくれ」
マックスの事だから理由を聞いてもよく分からないだろうし。
「……魔法が使えない」
「は?」
「さっき見てきた地下道と同じだ。魔法陣が発動前にかき消えてしまう」
マジかよ。
「そうなのか。どうする?」
本当にどうするんだよ。




