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3

 馬車は伯爵の家の近くで最後の客である俺達と、もう一組の冒険者を置いておろしていった。

 馬車は引き返して町の方へと戻っていく。

 定期的に往復しているのだ。

 マックスは一緒に乗っていた冒険者達と馬車の中で意気投合したらしく、一緒に魔物を狩りに行くらしい。

 良かった、一人減った。

 目的地が同じなので、仕方ないのでイーサンと一緒に伯爵の家に行く。

 薬草を取りに何度かバルテ伯爵の家の近くまで来た事はあるが、相変わらず家ではない。どっちかというと砦と言った方がふさわしい堅牢な作りだ。

 維持費が大変そうだな。とも思うが。

 呼び鈴を鳴らすと、すぐに執事がやってくる。

 執事は俺達を見て不審そうな顔をした。

 明らかな平民である俺と、貴族でしか有り得ない銀髪を持つイーサンとでは、何故一緒に居るか分からない二人組だろう。


「どんなご用件でしょうか?」


 イーサンは青い顔をしたまま執事を睨む。


「用件だと?わざわざ来てやったというのに。さっさと部屋に通せ。私はオルコット侯爵家の者だぞ」


 オルコット侯爵という名前を聞いて執事は青い顔をして床に身を伏せる。


「ご無礼を申し上げ、た、大変申し訳ございません」

「謝罪はいいから早く、うっぷ」


 ヤバいイーサンが吐きそうだ。

 俺は執事から見えないようにイーサンを隠しながら袋に出すように言う。

 う、頼むから床に撒き散らすなよ。


「すみません、体調が悪いようなので座れる場所があると助かるのですが」

「ただいま御用意致します」


 俺が言うと執事が慌てて走っていった。

 ご愁傷様です。

 イーサンは質の良い馬車で舗装された道しか走った事がなかったからか、道の半分ぐらいで盛大に酔っていた。

 その上食料や薬など何も持ち込んでなかったのだ。

 マックスの言っていた馬鹿が本当に居た。

 薬なら俺がやればいいって?

 金の無い奴に与える訳がない。

 しかし、その判断はミスだったかもしれない。

 まさかこんな所で吐かれるとは思わなかった。

 勿論出したものはイーサン自身に持ってもらう。

 他人のゲロなんて持ち歩きたくないからな。

 吐いてスッキリしたのか、執事が戻ってくる頃にはイーサンの顔色は少しマシになった。


「ご案内致します」


 通された客間は、昔ながらの無骨と言っていいぐらいの無骨な作りの部屋だった。

 元々が城塞だったという噂は本当だったのかもしれない。この地域では珍しい石造りな部屋を、無理やり来客用にか金ピカの装飾品で飾っていて、全く部屋にそぐわなかった。

 子爵に降格されるかもしれないというのに、金はあるんだな。と思い偉そうにソファーに座り紅茶を飲むイーサンの隣に腰掛ける。

 紅茶は隣国から出回り始めたばかりで、少量でもとても高価だと聞く。

 そんな紅茶を出してくるぐらいだから、金がない訳ではないのだろう。

 すると、すぐに恰幅のいい中年のバルテ伯爵と、若い巨大な胸に赤い派手なドレスを着た女性が入ってくる。

 この男の代になってからも軍を衰退しているのが腹を見るだけで良く分かる。

 これじゃあいざって時になったって戦えやしないだろう。

 だが、町の噂である事なかれ主義で温厚というのはあっているのだろう。

 娘の病気を治すのに一介の薬屋を呼ぶ事に賛成するぐらいだからな。

 心配しているのか、面倒なのか良くわからない。

 そして隣の謎の若い女。

 夫人というには年が離れすぎている。

 確か本来のバルテ伯爵の夫人は、今学園に通っている長女と一緒に王都へと行っているはず。という事は、この女は愛人か何かだろう。

 確か夫人の方がしっかりしているという話だから、居ない間に好き勝手やっているのだろう。


「お待たせして申し訳ありません、オルコット侯爵子息」

「別にいい。連絡も無しに来たのはこちらだからな」


 さすが貴族のイーサンは、年が離れたバルテ伯爵に対しても強気だな。

 イーサンは確かに侯爵子息だが、爵位を持っている訳ではないというのに。

 俺は改めて爵位の恐ろしさにビビる。

 伯爵の愛人はイーサンの顔とヘコヘコしている伯爵を見比べてから、イーサンに上目遣いを始める。

 強かだな。

 そうでもなきゃ中年オヤジの愛人なんかしないか。


「で、本日はどのようなご用件でしょうか?」

「そちらにブレットという者は居るか?」

「あ、はい。ブレットは私の息子ですが、息子が何かしたんですか?」


 凄い脂汗が出ている。

 そんなに恐ろしいのか?


「ブレットはシビルの店に支払うべき金を、もう一ヶ月以上踏み倒し逃げ続けていると聞く。私は困っている店に依頼されて取り立てに来たのだ」


 いや、堂々としているけど、お前だって踏み倒さそうとしている中の一人だろう。


「はっ、そんなまさか」

「事情は本人から聞く。今どこにいる?」

「まだ自分の部屋で寝ていると思いますが……」

「案内しろ。すぐに行く」


 イーサンはカップに入っていた紅茶を飲み干し、すぐに立ち上がり部屋から出ていこうとする。


「お、お待ちください」

「あん、待って〜」


 慌ててバルテ伯爵と愛人が追いかけていき、俺は一人部屋に取り残されてしまった。

 俺も追いかけようか考えたが、巻き込まれたくないという気持ちも多大にある。


「あ、あのー」


 考え込んでいると、躊躇いがちに部屋の済に控えていた執事が声をかけてきた。


「貴方は一体何者でしょうか?追いかけなくていいのですか?」


 ああ、自己紹介を忘れていた。

 俺は立ち上がり自己紹介をする事にする。

 ちなみに学園では礼儀作法の授業も有り、貴族に対する振る舞いも一応習っているのだ。 


「挨拶が遅れて申し訳ありません。私はダックウィードの町から派遣された薬師でナルといいます。お嬢様の診察に伺いました」

「え?あの」


 執事は出ていったイーサン達と俺を見て不可解そうな顔をする。 

 だから、きちんと伝えてやる。


「彼と私は、一切何の関係もありません」

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