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 出発の前の日の朝に、二日間依頼で家に居ない事を伝えると、意外な事に二人は反論もなく納得した。

 まあ、反論した所で居ない事には代わりは無いのだから関係ないけど。

 当日伝えた通りに、二人は朝に来なかった。

 せっかくのゆっくりな朝なのに、依頼に出掛けなければならない事を考えると勿体ない気がしたが仕方ない。

 大金が手に入るのだから文句を言う事もない。

 貰ったジャムでサンドイッチも作り、収納袋に入れ馬車に乗り込んでから唖然とした。

 なんで、二人が同じ馬車に乗っている?


「な、な、な、なんでお前らがこの馬車に乗っているんだ?」

「お、ナル奇遇だな。お前もこっち方面に用があるのか?」

「朝からうるさいぞ、愚民。私はまだ眠いんだから静かにしろ」


 全く悪びれてない。

 何だ、誰かが漏らしたとでもいうのか?


「お客さん、乗るんですか?乗らないんですか?」


 他の客も待っているし、御者に不審そうに言われ、渋々料金を払って馬車に乗る。


「何でこの馬車に乗ってるんだよ、二人共」

「それより腹減ったんけど、ナル何か持ってないか?」


 マックスの腹の音が煩いぐらい鳴っている。

 周りの迷惑にもなるし、俺は仕方なく作ってきたサンドイッチを渡す。

 くそ、大事に食べようと思ってたのに。


「私にも2つ寄越せ」


 イーサンは寝るんじゃなかったのか?

 ここで揉めても仕方ない。

 一人に与えてしまった所で無くなる事など決定していたようなものだ。

 俺はイーサンにも渡し、自分で死守した分を一つ食べる。

 ジャムは甘酸っぱくて美味しかった。

 こいつらが居なければもっと美味しかったのに。と考えると憂鬱になる。

 俺が一つ食べ終える前に4つ食べつくしたマックスは満足そうに持ってきた水を飲んでいる。

 いくらマックスでも水を持ち歩くぐらいの頭はあるんだと俺は驚いてしまった。


「何見てんだよ、ナル」

「水筒を持っている事に驚いていた」

「遠くに行く場合は普通持ち歩くだろ?そんなの常識だろ?」


 マックスに常識を問われるとは思わなかった。


「そんな事より、何でマックスはこの馬車に乗ってるんだ?ダンジョンはどうした?」

「ナル。俺だって毎日ダンジョンに潜る程ヒマじゃないんだ。今は伯爵の館近くに発生したモンスターを倒す依頼を受けていると言ってたじゃないか。聞いてなかったのか?」


 聞いてない。

 正直マックスの話は擬音が多く、状況も把握出来ない上にモンスターも適当に名付けて呼ぶ為理解が出来ないから聞き流している。

 待て、伯爵の館?


「それって誰の依頼だ?」

「うーん、最近探索でこっちの方に来てるって言ったら、ミラちゃんに特別な依頼って言われたんだぜ。破竹の勢いで依頼をこなすマックスさんにぴったりだって」


 受付嬢が冒険者へ依頼を勧める場合はままある。

 そこは納得出来る。

 自分の力量以上のモンスターの討伐などは、失敗に終わる可能性も高いから受付嬢が精査してりもする。

 ただ不審なのは、マックスがいくら強くたって、まだ俺と同じくらいのランクの筈。

 それなのにわざわざ遠出する依頼を押し付けるだなんて……ミラなら有り得るのか?

 あのやる気のから回っている失礼な受付嬢だったら有り得る気がしてきた。


「で、イーサンは」

「ババ……いや、シビルさんが料金を払わない客が居るから取り立てて来いと言われてしまったから、向かっているのだ」


 ババアって言いかけて言い直してる辺り、順調にシビルに調教されているようだ。

 それにしても、入って日も浅いような奴に料金の取り立てをヤラせるとはシビルも鬼畜……いや違う。

 俺は気が付きたくない事に気がついてしまった。

 これが町の奴らの策略だったとしたら?

 ダックウィードの町は寂れて久しい。

 良く言えば落ち着いている。

 悪く言えば停滞していると言ってもいい。

 そんな町に住んでいる住人が嫌う事と言えば、変化である。

 俺も住み始めた当初は気を使われたり、この町独自のルールを覚えたりするのに疲れた気がする。

 それはいきなり住みだしたこいつらにも同じ事じゃないか?

 しかもこの二人は揃って癖が強い上にルールを守る気など甚だない。

 俺だって対応するのに疲れるんだ、町の奴らも同じように思っても不思議ではない。

 もしかして同時期に町に居なくなるように、示し合わせて依頼を出した訳じゃないよな?

 偶然が2つ以上重なるのは絶対に仕組まれたとしか思えない。

 俺を生贄にして自分たちは少し厄介な新参者から離れて休憩しようという魂胆じゃないだろうか。

 その考えがほぼ間違ってないんじゃないだろうという事に気がついて、金につられてホイホイ来てしまった事を後悔した。


「どうした、ナル疲れているのか?それとも水忘れたのか?」

「依頼の前から疲れているなど、舐めている証拠だろう。健康管理ぐらいしっかりとするべきだ」

「絶対にお前ら二人には言われたくない」


 せっかく羽を伸ばせると思ったのに、全く意味が無いじゃないか。

 絶叫したくなったが、周りに別の客も乗っている事を思い出して、何とかこらえた。

21時にもう一度更新します。

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