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金に釣られて船頭に仕立てあげられた件1

本日2回目の更新です。

 食材を買う量が三倍に増えた。

 俺一人だったら週に1回の買い物で済んでいた所を、3回も行かなきゃいけなくなるだなんて。

 しかも、ただ飯食らいの分際で貴族な二人は、同じものを何度も出すと文句を言ってくる始末だ。

 文句を言うなら自分で作ればいいのに、全くそんな気配はない。

 しかも、マックスと違ってイーサンは毎日手ぶらでやってくる。

 食べる量は俺よりも少ないが、マックスよりもこだわりがあるから、うるさい。

 夜は居ないが、朝は毎日騒がしくなりゆっくり薬草の成長記録をとる事も出来ない。

 まあ客が少ないから午前中に済ませれば大した問題ではないが、精神的に疲れる。


 結局ぶつくさ言いながらもイーサンはシビルの店で毎日寝起きをし、夕方から黒服として働いている。

 屈強な黒服が多い中で、魔法を使うシビルは重宝されている。

 主に氷代が浮くと。

 氷魔法のように、複合魔法が使える者は少ないから貴重だ。

 それ以外の接客やら雑用やらは全く出来ていないらしいが、本人に言わせる、日に日に成長しているという。

 今まで貴族として楽して暮らしてきたのだから、少しは働いて庶民の厳しさを知った方がいいだろう。

 しかもイーサンは疲れると店の終了時に、店の女の子に癒してもらうらしい。

 そこで大体いつも一日働いた分の金を使ってしまうらしく、全く返済が出来ていないという。

 このままシビルに骨の髄までしゃぶられるんじゃないだろうか?

 ま、関係ないが。

 当のイーサンはそんな事には思い至らないらしく、父上がすぐにお金を送ってくれると最初は言っていたが、一週間経ってもまだ居る所を見ると、金はまだ送られていないらしい。

 まさかイーサンの親までイーサンの事を見放した訳ではないよな?

 まとめて面倒を見るだなんて嫌だぞ。

 学園時代と同じじゃないか。


「何、ぶつくさ言ってんだよナル」


 相変わらずつまらなそうにトビーが店番をしている。

 トビーの悪態なんか二人に比べれば可愛いものだ。

 思わず頭を撫でると、子供扱いするんじゃないと振り払われてしまった。


「あ、ナル居たのか?」


 外から帰ってきたのか、トビーの親父が顔を出した。

 俺はこの親父が少し苦手だ。

 なんというか、町の顔役だからか何かと面倒を見ようとしてくる。

 貴重なんだろうが、俺までトビーと同じようにガキ扱いされているようで落ち着かなくなるのだ。


「ギルドにも依頼したんだが、お前に指名依頼が入った」

「指名依頼はCランクからじゃなかったか?」


 特例はあるが、ソロで活動しているDランクに指名依頼など入る事なんてほとんどないって聞いている。


「そうなんだけどな、この町に薬屋って一軒しかないだろ?だからナルに依頼するしかないっていう所だな」

「薬の依頼だったら店に来ればいいだろ?ギルドを通す必要あるのか?」


 一応一般的な薬以外にも個人的な依頼も受け付けている。

 忙しくて断っていたが、元から多くはない。


「領主でもある伯爵様からの依頼で、秘密を厳守してほしいそうだ。だから、一応オレからの依頼という事になっている」


 伯爵なら尚更俺ではなく、お抱えの医者がついているだろう。


「一介の薬屋ではなく、医者に見て貰った方がいいんじゃないか?」

「何でも医者では解決出来ないようで、お前の薬の評判を聞いて一度見てほしいそうだ」


 何か不自然さを感じる。


「依頼料は弾むらしいぞ」

「いくらだ?」


 食い気味に聞き返した俺に親父は苦笑した。

 そして、指を三本立てる。


「行くだけで銀貨5枚。治せたら追加で金貨3枚支払うそうだ」


 太っ腹だ。

 店で依頼を受けたら物にもよるが、トータルで銀貨5枚ぐらいだろう。

 それが2日で1週間分の売上が手に入るんだ。

 伯爵の家までは馬車で半日はかかる。

 つまり往復で2日間はあの二人の顔を見なくて済む。

 せいせいする。

 訪問は苦手だがやる価値はあるかもしれない。

 でもおかしいな。

 噂で聞く伯爵は、娘の病気に大金を出すような人物には思えない。

 

「失敗しても特にペナルティはつけないと言っていたし、気軽に受けてみろよ。その間店を閉めるっていうのは告知しておいてやるし」


 それは助かる。

 俺から言うと、サボってるとかくだらない文句を死ぬ程言われるからな。ほんと俺の店に来る客はクズばかりだ。

 こういう時、町の顔役の一言というのは強い。


「それに、遅くなったら家に泊まっていいっていう申し出付きだ。宿に泊まる金もかからないし、至れりつくせりの依頼だと思うが。それに、ギルドを通しての依頼だから安心だろ?」


 ギルドは何者の権力にも屈しないという理念がある。

 例え王様が理不尽な事を言ってきた所で冒険者を守る義務があるのだ。

 俺も冒険者に個人依頼をする時にはギルドを通しているから、同じようなものだろう。


「わかった。いつ行けばいいんだ?」

「いつならいいんだ?」


 俺は少し考えた。

 どうせだったら休みの前の日に帰ってくるようにすれば、実質3日は店を閉められる。

 横暴な冒険者の相手も疲れるから、たまにはいいだろう。


「明後日」

「わかった。ギルドから領主へと伝えてもらう」

「頼む」

「じゃあイイ子なナルには、ジャムもオマケでつけてやろう」


 そう言って渡されたのは、今の時期にとれるプリュネを使ったジャムだ。

 甘酸っぱいプリュネは木の高い所になる上に、力を入れるとすぐに潰れ、傷がつくと著しく味が落ちるので収穫には気を使う。瓶一杯のジャムを作れる程集めるには一日以上かかるから、素直に嬉しい。

 よし、これをパンに塗ってサンドイッチにして弁当にしよう。


「じゃあ頼むな」

「精一杯やってみるよ」


 俄然やる気になった俺は、トビーが呆れたような目で見ていた事に全く気が付かなかった。

 

明日から12時のみの更新になります。

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