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「はい、これで依頼は終了です。お疲れ様です。依頼料の銀貨二枚ですー」
いつものように銅貨一枚にもならない満面の笑みを浮かべたミラが、銀貨を2枚ドランに渡す。
初々しい受付嬢の笑顔にやられたドランはデレっとしたような顔をしているが、早くこいつらと離れたい俺がドランの脇腹をつつくと、キリッとしたような顔を作ってから恭しく受け取る。
ミラは新人ながらダックウィードの町のギルド受付嬢ランキングの上位に入る程美人だからな。
いつも笑顔で可愛いと冒険者達には人気だが、俺には全くそう思えない。
ふわふわのピンク色の髪を高い位置で2つに結ったミラがお辞儀をする度に、その大きな胸が重そうに揺れる。
その度に夜明けのカラス亭の奴等の目が釘付けになり、先に進まないから迷惑この上ない。
っていうか俺の目には胡散臭いとしか見えない?
興味がない。
それでも、ギルド受付嬢は冒険者にとっての憧れの的だ。
受付嬢達は逆に大物になりそうな冒険者達の品定めをしてるんだろうと思うが、余計な事は言わない。
無理な依頼でもこの笑顔の為に頑張ろうとする冒険者は多いのだろう。
まさかドラン達も狙っているのだろうか?
受付嬢は金と将来性に関してシビアだから期待するだけ無駄だろうな。
「ピンクペッカーの解体は数が多いから、まだかかるけどどうします?」
そう、こういう敬語がすぐ崩れる所が嫌いだ。
馴れ馴れしい。
フレンドリーさがウケる場合もあるが、俺は良く知らない奴に距離を近づけられるのは嫌だ。
「明日の依頼を受ける時でいいっすよ」
「そうなんですねー。では明日受け取りに来てね。その時に解体費の計算もしておくから」
使わない素材をそのまま売ってしまうから、解体費はほぼかかる事はない。
しかし、逆に儲けも少なくなるが、ドラン達は楽な方を選んだようだ。
特に貴重な素材もないから、俺は口を挟まなかった。
「いつもの事だから念を押さなくたって分かってるよ、ミラちゃん」
いや、受付嬢には説明の義務があるのだろう。
後で言った言ってないがあると面倒だからな。
ま、色々と言いたい事もあったが、これで俺からの依頼は終わりだ。
何事もなく終わって良かった。
「ドラン、ありがとうな」
「いいって。ナルは金払いいいからな。また上乗せしてくれよ」
「考えておく」
絶対に値上げはしない。
普通の護衛依頼より割がいいのは確かだろうが。
「よし、今日は飲みまくるぞ」
それは俺の懐から出た金だけどな。
まだ日も高いというのに、酒場に向かう為に夜明けの烏亭の四人は上機嫌にギルドから出ていった。
またすっからかんになってくれれば依頼しやすいから有り難い事だ。
受付嬢には一生モテないだろうが。
「ナルさん、何でわざわざギルドを通してまで夜明けの烏亭に指名依頼するの?ギルドにとっては手数料とるからいいけど」
「お金の事でトラブルになりたくないからだ」
冒険者は常に金がない人種だ。
後でやっぱり金を上げろとか脅迫されたら戦う力のない俺では抵抗出来ない。
ギルドに金を預かって貰えばとられる心配もないし、依頼にすれば何かあった時の仲裁もギルドがしてくれる。
場合によっては処罰もしてくれる。
一番堅実だ。
「それに銀貨二枚って多すぎ。ダンジョンの13階でしょ?彼らはCランクで危険は少ないし、拘束時間も短いのに、何でそんなにお金払うの?銀貨2枚も出すんでしたらAランクの金の翼の方が強いですし、この町の依頼だったら喜んで受けてくれると思うし。もし、彼らに脅されているのでしたら、私からも抗議するよ」
ミラが可愛らしく握りこぶしを作っているが、余計なお世話だ。
Aランクの金の翼は大きいパーティだ。ギルドって言っていいぐらいの大所帯の癖に、この町を拠点にしている珍しいパーティである。
冒険者達はランクが上がっていくと、もっと大きな獲物を狙う為に、他の町にあるダンジョンに移動していく事が通常なのに、金の翼は律儀に自分たちの始まりの場所を忘れる事はない。と一ヶ月に何日かはこの町に滞在する。
王都から馬で駆けて3日はかかる不便な場所なのにだ。
町の人達もそんな金の翼を頼りにしているが、はっきり言って俺はあいつらの事が好きではない。
考え事をしている間にもミラは新人にありがちな熱意を語っていた。
俺が迷惑そうな顔をしていたのが分かったのか、気が付いた隣の受付嬢の一人が、ミラの服を軽くひいた。
「す、すみません。もう帰っていいんで。すみませんこの子張り切りすぎていて」
「エリン」
こっちの子の方が感じがいいな。
エリンと呼ばれた子はこの辺では珍しい銀髪にショートカットで眼鏡をかけている。
ミラと同じ年ぐらいだ。
今年は二人も新人をとったのか、珍しいな。
こういう大人しい子の方が嫁にするにはいいんじゃないか?
また冒険者の価値観の違いに分かり会えないと痛感する。
「別にいいんだ。それより精算も終わったし俺は帰る。また依頼する時はよろしく」
「ちょっと待って、話はまだ終わってないんだからー」
身を乗り出そうとしているミラをエリンが必死に止めている間に、俺はギルドから出た。
全く迷惑な受付嬢だ。
受付嬢なんだから黙って依頼人の言う通りにすればいいのに。
まあでも最初の内だけだろう。
熱意に溢れている彼女でも、この町にきっと染まっていく。
俺と同じように。
それにしても、あんなのを嫁なんかにしたら毎日うるさいだろうに。
冒険者の奴らが考えてる事って、やっぱりよく分からん。
疲れて家で食事を作るのが面倒になった俺は、贅沢にもココのやっている食堂に向かう事にした。
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