8
まあイレギュラーはあったが、平和な日常が戻ってきた。
締め切りに追われない日々というものはいいものだ。
もし間に合わなかったら、イーサンのように黒服に連れていかれたのかと思うと、寒くもないのに震えが来た。
あれから俺は用事が済んだからすぐに清算した。
その間イーサンが入ったと思われる部屋からは、変な声がずっとしていた。
考えるのをやめよう。
俺は日課である薬草の水やりをやる。
あ、雑草が生えている。
もうすぐ暑くなるから仕方ない事だが、手間は手間だ。
俺は間違えて薬草を抜かないように慎重に抜く。
貯めておいて肥料に改良でもしよう。
自分でやればタダだ。
時間は沢山ある。
キリが良くなり立ち上がった。
と、見たくもない顔が2つ並んでいる事に気がついた。
穏やかな朝が台無しである。
「おはよう、ナル」
いつものように爽やかな笑顔を見せているマックスと、不機嫌そうな顔をしたイーサンが俺の家の前に立っている。
しかもイーサンは学生時代のようにローブではなく、朝の光では似合わないシビルの店の制服を来ている。
いやな予感しかしない。
「なんでお前ら二人揃って朝から一緒に居るんだ?」
「あのさ」
「いや、みなまで言うな。久しぶりに二人で会って親交を深めようと二人で出かけるのだな。わざわざ伝えに来なくてもいいから、さっさと二人で出かければいい。俺は今日は用事があるからな」
マックスが喋る前に一方的に断り、ドアへと向かい勢いよく閉める。
何で増えてるんだ?
おかしいだろ。
いや、落ち着け俺。
あれはマックスとイーサンではない。
別の人物だ。
いや、百歩譲ってマックスは仕方ない。
毎日来ているからな。
マックスが毎日来る事を譲れる程、毒されている事には目を瞑ろう。
だが、何故イーサンが一緒に居る?
俺が現実逃避をしているのを戻すように、マックスが馬鹿力でドアノブをガチャガチャし始める。
また壊されると嫌だから渋々開けるしかない。
満面の笑みを浮かべたマックスとイーサンがいた。
「ナル、飯は?」
「何でイーサンが居るんだ?」
「ウロウロしてたから拾ったんだ」
「元の所に戻して来ないと朝食はないぞ」
「そうか、悪かったなイーサン」
よし、素直だ。
マックスだけ中に入れる。
そしていつもの位置に座る。
イーサンは仏頂面だ。
「この私がお前の作る粗末な朝食を食べてやろうというのに、追い出すのか?」
「いや、無理して粗末な朝食を食べなくていいから」
「いいからさっさといれろ。待たせるとは良い度胸だな」
言いながらイーサンが指で魔法陣を描こうとするのを慌てて止める。
イーサンが本気を出したらこんな小さな家木っ端微塵だ。
仕方なく中に入れる。
そしてスープとパンとサラダを出してやる。
「オレはいつものように半熟玉子で」
「私はオムレツがいいな。チーズが入っているのにしろ」
好き勝手に要望を言う二人を無視して玉子をかき混ぜてスクランブルエッグにして中央に出した。
「文句があるなら食わなくていい」
二人は何も言わずに食べ始めた。
「で、イーサンはいつ出ていくんだ?」
一番気になる事を聞く。
「まだこの町に居る」
「は?」
「父上がまだ送金してくれていないんだ。その間、店の黒服として雇われる事になった」
「はあ?」
「まあ、今父上は忙しいのだろう」
絶対お前の親父は払う気ないだろう。
「不本意だが金が無いのだから仕方ない。愚民共に混じって暮らすのは業腹だが、無いもの無い。飯の世話ぐらいはナルにさせてやろう。有り難く思うのだ」
全然有り難くない。
つーか、二人共出ていけよ。
こうして俺の平穏は脅かされていく。
21時にもう一回更新します。