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本日二度目の更新です。

 パンパンという手を叩く音に我に帰る。

 そこには、とても良い笑顔をしたシビルが居た。

 ヤバいめっちゃ目が笑ってない。

 俺は人の店で大声を出していた事に我に帰った。


「お客様、暴れるのであれば外でお願いします」

「「はい、すみません」」


 俺とマックスは揃って謝った。

 イーサンは悪びれもせずにいる。

 この野郎。

 店から出たら100発ぐらい殴ってやる。

 話し合いに女の子達はいらないから、他の席に移ってもらったのに、アディラは当然のように俺の隣に居る。


「アディラも他の席に行けよ」

「えー、こっちの方が面白そう。それに、お酒をつぐ係は必要でしょ?」


 そもそも話し合いの席に酒は必要なのか?

 いや、呑まないとやってられない。

 俺はまた一番安い酒を頼んだ。

 ついでに付き合ってもらっているマックスの分も。

 イーサンは自分の呑んでいた酒を持ってこいと命令していたが、俺が止めた。

 またあんな腑抜けになってしまったら、話が進まないからだ。

 俺が止めた事に不機嫌そうな顔を隠さない。

 ふてぶてしい事この上ない。


「で、イーサン。こんな所で何をやってたんだ?」

「はいはい、オレはそんな事より、どうやってあんなにナルそっくりに化けられたのか気になる。しかもナルは知ってたみたいだし」


 新しい酒が来た事にマックスのテンションが復活してしまった。

 頼まなきゃ良かった。


「良くぞ聞いてくれた。あれは私とナルが学生時代に共同制作したものだ。いい思い出だ」


 断じていい思い出ではない。

 イーサンは学生時代から自分の研究が一番大切であり、授業なんてどうでもいいという考えだった。

 そのせいで出席日数が足りなくなりそうになった。

 しかし授業にでるのは面倒くさい。

 偶然図書室で見つけた伝説の錬金術師クロス・ケントが書いた「生活にあったら便利な錬金術」4巻に完璧な変身薬の作り方があったのだ。

 打開策を見つけたイーサンは変身薬の作成の依頼と同時に、代返のアルバイトを持ち掛けてきたのだ。

 なんせ俺はペーパーテストだけは優等生だったからな。

 出席率に余裕のあった俺はアルバイト料につられて、受講人数の少ない授業の時には姿形を変えて、多い時には声だけ変えるものを使い分けて、イーサンの代わりに出席していたのだ。

 顔まで変えるものを作ると素材の方が高くつくが、声だけ変えるものだったら、安く作れた。

 貴族の多いマンモス校だったため、ほとんどは返事の確認だけで、指される事もなく良いアルバイトになった。

 俺がアルバイトで授業に出ている間、同じ顔のイーサンが校内をうろついている訳にはいかないから、イーサンには俺の姿に変わる変身薬を渡していたのだ。

 まさかイーサンがまだ持っているとは思わなかった。


「狡いぞナル。そんな良いアルバイトをやってたんだったら、何で俺に言わないんだ?俺だってやりたかった」

「そもそも遅刻が多いマックスには無理だろう」


 マックスは寝坊の常習犯だったからな。

 それに、姿や声を変えても大雑把なマックスがイーサンの真似が出来る訳がない。


「で、どうでもいいけど、何でお前がこの町に居るんだ?城の魔術師団の仕事はどうした?」


 イーサンもマックスと同じで貴族だ。

 しかも侯爵家の次男坊で俺達の中では一番身分が高い。

 いくら素行が悪くても俺と違って城の試験に突破する事など難なき事だ。

 なのに、何故この町に居るんだ?


「ふん、私の高貴な考えを理解出来ない愚民が上に立つ城の研究所に、私がいつまでも居る訳ないだろう?」


 偉そうに言っているがクビだな。


「イーサン、それってクビになったんじゃないのか?」


 俺の心の声が出たかと思った。 

 こういう時デリカシーゼロの奴は強いよな。


「違う、愚民共が理解出来ないのが悪いのだ。私の研究がもうすぐ身を結ぶというのに、モンスターと戦いに行けだとか煩わしい事この上なかった。そこで、ナルがこの町に居る事を思い出して、嘲笑いに来てやったのだ」

「そうか。じゃあ目的も達した事だし、帰れ」

「言われなくてもそうするさ。まあ、この町の女の質はまあまあ良かったがな」

「なんか感じ悪くない?」


 アディラが小声で不満を表すから小声でスマンと謝った。

 イーサンは貴族にありがちな選民意識が高い。

 悪気はそんなに無いはずだ。

 ないよな?

 それに、もう出ていくのだから我慢出来る。


「お客様」


 話を聞いていたのか、見計らったかのようなタイミングでシビルが声を掛ける。


「なんだ?」

「出ていくのでしたら、今日も含めた4日間の利用料金の精算をお願いします」


 シビルが差し出してきた紙を見て、イーサンはつまらなそうにテーブルへと放った。

 そこに書かれた数字は俺が見た事もないぐらいゼロの数が多かった。


「こんなもの、父上に言えばすぐに払ってくれるだろう。後で送金してやる」


 貴族であるマックスも驚いたような顔をしているって事は、貴族であっても結構な値段なのだろう。


「お客様、後で別の者が払うというのは、うちはやってないですよ」

「私は貴族だぞ」

「関係ありません。何でしたら、兵士を呼んできてもいいのですよ?」

「……今は持ち合わせがない」

「そうですか」


 指をならすと、シビルの後ろに屈強な黒服が出てきて、イーサンの両腕を掴む。


「では、あちらでお話し合いをしましょうか?」

「おい、ナル。代わりに払え」


 往生際悪くイーサンが叫ぶが、そんな金なんてある訳がない。


「悪いな、イーサン。貧乏人の俺は、そんな大金持ってないんだ」

「マックス!」

「悪い、今日はナルの奢りだっていうから金持ってきてない」

「ほら、さっさと歩け」


 イーサンはシビルに連れていかれた。

 おお、怖い怖い。

 でも、俺は平穏を手に入れた。

  

  

明日も12時と21時の2回更新になります。

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