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納品が終わったあと、久しぶりにちゃんとしたご飯を食べようとココの店に行こうと思ったら、依頼が終わったばかりのマックスにばったり会った。
「ナ、ナルが外に出ている」
何を大げさな。俺だって外にぐらい出る。
この3日間出なかっただけで、そんな大げさなリアクションする事ないだろう。
無視して店の扉を開く。
「いらしゃいませ」
ココの元気な声が店内に響く。
心なしか親父の目は冷たかったような気がする。
気のせいか。
珍しく店内には何組かの客が居た。
ちょうど昼飯時だったようだ。
どこに座ろうかと思って見回していると「マックス」という明るい声がした。
「ミラ」
後ろに居たマックスが満面の笑みを浮かべて俺を抜かして、ミラの方に向かい、何故か二人はハイタッチまでしている。
いつの間にこいつら仲良くなったんだ?
お花畑同士で気が合うのか?
「なに、休憩中?」
「そうそう、エリンも一緒にね」
ミラの向かいに居たエリンが、俺に向かってペコリと頭を下げた。
「せっかくだから一緒に食べようよ」
ミラの言葉に店内がざわついた。
ギルドの受付嬢が冒険者とご飯を食べるなんて、そうそう無いからだ。
誘っても乗ってこない程ガードが固いっていうのに、ミラは気さくにマックスを誘っている。
「お、いいのか」
マックスは嬉しそうにテーブルをくっつけ、ミラの隣に座った。
まあ久しぶりの飯は静かに食いたかったから丁度いい。
俺は空いている席に座ろうとした。
「なんだよ、ナル。向かいに座れよ」
「いや、俺はいい」
俺の事なんて気にせず3人で仲良く食べてくれ。
「いいじゃない、エリンもいいわよね?」
そんな聞き方をして断れるはずもなく、エリンは困ったような顔で頷いている。
断れる雰囲気では無くなってしまった為、俺は渋々とエリンの隣に座った。
心無しか周りから突き刺さる視線が痛かった。
席に着くと、珍しく親父が水を運んでくる。
そして、ドンッと水が外に溢れるほど強くグラスを俺の前に置いた。
思わず顔が引きつる。
「注文は?」
なんだ?
機嫌でも悪いのか?
「オレ、今日は疲れたから肉の気分だ。肉はあるか、親父?」
全く気に留めていないマックス。
「あるよ。そっちは?」
そっちってなんだよ?
俺はエリンとミラの皿を見てエリンの方の皿を指さした。
「これと同じの」
親父は返事もせずに調理場に戻ってしまった。
「なんだ、機嫌悪いのか?」
「私達には普通だったわよ」
マックスの前に置かれている水は溢れていない。
っていう事は俺か?
俺が何かしたのか?
俺は不可解に思いながらもテーブルの上に溢れた水をどうにかしようと見回した。
「これ、どうぞ」
「ありがとう」
エリンがハンカチを貸してくれた。
申し訳ないと思ったが、そのまま借りておいた。
後で何か差し入れでもしよう。
「マックスもう依頼終わったの?」
「ああ、後で討伐部位持っていく。午後からはダンジョンを攻めるぜ。あともう少しで25階に行くぞ」
「すごい、新人がそこまで到達するなんて早いよ。でも、くれぐれも安全には気を使ってよ」
「もちろん。体が資本だからな」
二人が仲良さそうに話をしている間、俺は気まずくなり黙って水を飲み、エリンは食事を進めている。
するとすぐにココがマックスに料理を持ってくる。
「うは、今日も美味そう」
「ナルさんの分すぐに持っていきますね」
「ありがとう」
と言ったのに、俺の料理を持ってきたのは親父だった。
そして、さっきと同じように不機嫌そうに料理を置いて去っていった。
不思議に思いながらも冷めたらもったいないからキノコのリゾットを食べる。
今日も相変わらず旨い。
せっかくだから味わって食べる事にする。
やけくそだ。
「ああ、久しぶりにマトモな物食った」
俺の独り言のような小さな呟きにエリンが反応した。
「あの」
「何?」
「私が言うのも烏滸がましいのですが、きちんとした食事はとってくださいね。貴方が倒れたら困る人が大勢居るんですから」
心配そうに言われてほっこりする。
こういう善人はこの町には居ないから貴重すぎる。
「ありがとう。昨日まで忙しくてマトモな飯が食えなかったからさ」
「そ、そうですか」
心無しか落ち込んだようにエリンが目を伏せる。
なんだ、変な事言ったか?
「エリン、仕方ないわよ。男がそういう場所に行くのは当たり前なんだから。エリンが知らなかっただけで学園に居た時も男子はそんな話ばっかりだったわよ」
「わ、わかってるわ」
「何だよ、何の話だ?」
いきなり変わった話題に慌てて口を突っ込む。
嫌な予感がする。
「だから、男がシビルさんの店に行くのは当然だっていう話よ」
「は?」
納品の事か?
いや、絶対そういう意味ではない。
「守銭奴の薬屋がこの3日間毎日のようにシビルの店に通ってるって噂になってるのよ。あいつも男だったんだなって。それで不健康になったとしても、自分が悪いだけでしょう」
ミラが悪びれもせずに言った言葉に衝撃を受けた。
「なんだよナル、俺の飯も作れない程に夢中になる女が出来たのか。お前も若いな」
「マックスも行ってるの?」
「俺は金が無い」
「そうよね」
「……ってない」
「は?」
「だから行ってない。俺は三日間薬屋から外に出てない」
「そんな事言われても、みんな噂してるわよ」
だからか。
親父が妙に冷たいのも、アディラが変な事を言ってきたのも。
「なんだ、ナル隠さなくてもいいんだぞ。男だったら当然の事だからな」
マックスがしたり顔で頷いてるのがムカつく。
言っておくが、俺はそういった場所は行かない。
「ココ、ナルの近くには寄るな。男だから遊ぶなとは言わん。時にはストレスの発散も必要だからな」
「お父さんも?」
「バカを言うな。俺は妻以外には興味がない」
「じゃあなんでー?」
「噂に寄ると、凄く酒癖とセクハラがヒドイらしいんだ。酔うと本性が出ると言うだろう?だから、近寄るな」
「はーい」
風評被害だ。
俺はほぼ酔わない。
むしろ許容範囲以上に外で呑んだ事はない。
俺の姿で誰かがセクハラをしまくっている。
マズイ。
ただでさえ俺の町での評判は良いとは言えない。
冒険者にはどう思われようが関係ないが、町の関係は悪化させたくない。
薬屋の売り上げにも響いてくる。
くそ、明日はゆっくり寝ようと思ってたのに気になって寝れない。
「マックス」
「なんだ?」
「今日の夜は暇か?」
絶対に捕まえてやる。