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遅くなりました。
明日も一応12時投稿の予定です。
俺の死ぬ気の努力が実って、何とか納品分の数は揃った。
期日ギリギリだったが、やり遂げたのだ。
幸いにも明日は定休日。
今日さえ乗り切れば、明日は引き籠もっていよう。
いや、その前に買い出しが先だな。
マックスに食料を渡し過ぎて、最後の方は干し肉を齧る羽目になってしまっていたが。
何で俺は自分の食事を削ってまでマックスに飯を作っているのか、何度も考えたが、時間の無駄だったので考えるのを止めた。
ドア越しに鬼気迫る俺の顔を見て、マックスは必要以上に絡む事はなくさっさと帰ってくれた。
いや、帰れと何度も口にも出した。
全く、なぜ学習しないんだ。
午前中は意識が無くなるかと思ったが、気合で耐えた。
町の連中も珍しく何も言わなかった。
午後は納品と食料の買い出し、そして冒険者共をあしらうだけ。やる事は終わっていないが、追われていないだけ開放感はある。
俺は作り終わったばかりの薬の数を確認して、昼の鐘がなって、早速納品に行く事にした。
数日振りに外に出ると、日が目に染みる。
ずっと店の中で繊細な作業をしていたから、目が痛い。
目当ての店についてドアを叩く。
ドアが開くと、いつものように白髪を団子にしたシビルが、キセルを吹かせながら、花の位置などを黒服に指示している。
「なんだナルかい」
「なんだじゃない。納品に来た」
「あんたにしては遅かったじゃないか」
「期日以内に間に合ったんだからいいじゃないか」
俺は早速持ってきた薬を袋から出していく。
「避妊薬30個と栄養剤20本、酔い醒まし100個だ」
シビルは目を細めながら数を確認していく。
俺の信用が無い訳ではなく、シビルは誰に対しても疑いを持ってかかる。
行き場のない未婚の若い女性を大量に預かっているのだから、当たり前といえば当たり前だが。
大お得意様の機嫌は損ねたくないから黙っておく。
シビルの店は、この町でただ一軒の酒と綺麗な女性を提供している店だ。
元々は貴族の屋敷だったものを改装したらしく、1階は酒を飲んだりするホール、2階は行き場の無い従業員を住まわせていたり、お楽しみに使われていたりする。
冒険者は男が多い。
発散させる為にもこういう場所が必要なのは当然だ。
シビルの店では体を売る事は個人の裁量に任されている。
中には体を売りたくない女性も居るからだ。
男に酒を注いでるだけでも生活出来るぐらいの金が入るので、問題はない。
場所を提供するだけで、値段をつけるのは女自身がしているといのも人気の一つだ。
気に入った男には安くする女も居るし、一律で変わらない女も居る。
ただし、トラブルにならないように、必ずこの店で用意されている部屋の中で、前払いで行うのが鉄則になる。
シビルがとるのは部屋代だけだ。
だから、男も仲良くなろうと必死に通う。
そこまで徹底していても、体を売った後にトラブルになる事は当然ながら多い。
特に妊娠をしてしまった場合だ。
俺が提供するのは、薬を飲めば24時間以内だったら妊娠しない薬だ。
これは取り扱いが難しい上に高価になるため、店頭では個人売買でしか取り扱わない。
しかし若い女性の中では男性のやっている店に買いに行きづらいので行かなかったり、噂になったら嫌だと言って来ない場合が多い。
そして泣く事になるのだ。
長年そういうトラブルの解決をしてきたシビルは分かっているのだ。
あと、栄養剤と酔い醒ましは夜の仕事には必須だからな。
これは普通に薬屋でも販売しているし、安く大量に作れるから追加の注文も受けている。
夜型の生活をしている女性達が開店時間に行く事は困難だからだ。
「確かに」
大量の金貨の入った袋をシビルが俺の前に置く。
俺はそのまま袋の中に入れた。
「また来月も頼むよ」
「ああ」
「あれ、ナルまた来てたの?」
寝起きで胸が零れそうな格好でアディラが階段から降りてきた。
「アディラ、そんなだらしない格好でうろつくんじゃないよ」
すかさずシビルが注意した。
普段の生活に関しては口うるさいのだ。
「はーい、ごめんなさい」
可愛らしく舌を出すアディラは全く反省している様子はない。
アディラは俺と同じくらいの時季にこの町に流れ着いてきた。
年は自称20歳って言ってるが、もう少し上だと思っている。
この町にアディラが来た時に、たまたま町の外に行っていて帰る時に同じ馬車になった。
会った時は純粋そうな女性だと思ったて、2回目に会った時にはこの店にすっかり馴染んでいた。
この店の人気ナンバー1で舌っ足らずな喋り方がこの町のオジサマ方に受けている。
アディラは俺を見て意味ありげに笑った。
「ナルってー、意外と甘えん坊なんだね。知らなかったわ。それに、いくら私がアピールしても靡かなかったのはカーラみたいなのがタイプだったからなの?」
カーラ?
ああ、あの胸がココメロみたいに膨らんでる子か。
ココメロは夏季に採れる緑色の水分の多い果物だ。暑い夏の水分補給として使われる為、甘いがウリ科の青臭さもあり水っぽい。
というか、俺はどっちかというと胸よりも足派だ。
むしろアディラのようにスラッとした綺麗な足の方に惹かれる。って違う。
ヤバい、徹夜のしすぎで俺も溜まってるのかもしれない。
意味ありげな商売女に貢ぐだけ金の無駄だぞ、俺。
誰にでも言ってるリップサービスに俺は冷めた視線を向ける。
「酒でもまだ残ってるのか?酔い醒まし納品したばかりだから呑んでおけよ」
「冷たーい。夜の事は秘密なのね」
なんだよ、夜の事って。
誰かと勘違いしてるんじゃないか?
「いいじゃないか、誰にだって人には話されたくない事の一つや2つあるだろう。私達の仕事はそういう人の事を受け止める為にあるんだから。金さえ払って貰えればの話しだがね」
「そうね、ママ」
何でそんな残念なものを見るような目で見てくるんだ、シビル。
そんなにクマだらけで仕事しているのが不憫だと思われたのか。
そりゃ今回は納品日を忘れていてギリギリになったが、期日は守っているだろう。
「じゃあまたね、ナル」
にっこりとアディラが手を振ってくるが無視して店を出た。