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6

 さっさと解体をしていると、後ろから話し声が聞こえてきた。

 銃を構えようと思ったが、あまりにも話している声が呑気すぎるので止めた。


「何だよ、誰かと思ったら守銭奴の薬屋か」

「外に出た冒険者が一組居るって言ってたけど、お前かよ」


 嫌な奴が来たもんだ。

 思わず舌打ちが出る。

 二人は竜の爪というパーティに入っていて、確かEランクの冒険者だ。

 確かマックスと同じようにまだギルドの寮に住んでいる。

 Dランクになったらこの町から出ていくって言ってから、そろそろ三ヶ月。

 もう追い出される頃だろう。

 それなのに、ダンジョンにも行かずレベルの低いこの森をうろついているっていう事は、昇格試験失敗したのか?

 さっさと居なくなればいいのに。

 俺は無視したまま解体を続ける。 


「おい無視するなよ」

「っていうか、こいつの解体してるのブーコじゃね?薬屋風情がソロで魔物を倒したのか?」

「たまたまだろ。それか、卑怯な事でもして手に入れたんだろ」


 一応俺はお前らよりランクは上だ。

 それに、準備をすれば俺だってこれぐらいは一人で狩れる。

 ブーコは逃げそうな場所にあらかじめ罠を張って入れば、単純だからすぐに捕まえられる。

 真正面から挑む低能には捕まえるのが大変だろう。

 力が全てだと思っている低レベルな脳筋だから昇格出来ないんだよ。


「じゃあこいつを倒せば今日の夕食は豪華になるな」

「おう、よこせよ。いつもお前のとこの薬買ってやってるんだから還元しろよ」


 意味が分からない。

 必要ないならポーションをわざわざ買いに来る必要なんてない。

 俺から是非買ってくれだなんて言った覚えはない。

 そっと袋に入っている麻痺つきのナイフを手繰り寄せる。

 人間の動きを止めるだけの護身用だ。後遺症は多分出ない。

 冒険者同士の私闘は禁止されているから、手を出されるまでは待たなくてはならない。

 でも、この貧弱な奴らだったら一発ぐらいくらっても大丈夫だろう。

 その隙に傷つけてギルド……いや、門番に報告すればいいだろう。

 口裏を揃えられたら面倒だが、門番には薬草を取りに行くと伝えているから信じてくれるだろう。


「おーい、ナル。今度こそ正解の薬草を見つけてきたぞ」


 タイミングが悪い所でマックスが帰ってきてしまった。

 しかも、左手には萎びれたシュロキ草と、左手には途中で倒したのか鼠型の魔物を持っている。

 おい、振り回すと薬草に魔物の血がつく。

 マジでやめろ。


「何だよ、連れがいたのかよ」

「見かけない顔だな。薬屋とつるむ奴が居るだなんて、驚きだぜ」

「ん?お前らはナルの友達かなんかか?俺はマックス。昨日から冒険者を始めたんだ。よろしくな」


 マックスが言うと竜の爪の奴等はどっと笑った。

 何がおかしかったのか分からず、マックスは首を傾げている。


「誰がこんな奴と友達なんだよ」

「この町にこいつと友達なんて言う奴、居る訳ないだろ」


 黙れ。

 俺は無視してマックスに話しかける。


「薬草とれたなら帰るぞ。解体も終わっている」

「あ、ああこっちは良いのか?」

「ホーンマウスは金にならない。討伐部位の尻尾以外は埋めておけ。解体料の方が高くつく」


 そんなもんか。と言いながらマックスは尻尾を切り取る。 


「マックスはガタイがいいな。冒険者の前に何かやってたのか?」


 馴れ馴れしく一人がマックスの肩に手を置きながら話しかける。

 お前、平民が貴族にそんな馴れ馴れしくしたら殺されるぞ。運良くマックスはその辺アバウトだからいいが。まあ、忠告する義理なんて無い。


「ああ、冒険者は昨日から始めた」

「なら俺達と組まないか?俺達もうすぐDランクにあがるし新人に教えるのも得意だぜ」

「そうだよ。色々と伝手もあるし。Dランクになったら竜の爪も俺達の事を竜のアギトに紹介してくれるっていうし」


 それもいいかもしれない。

 こいつらの言う事が本当だったならの話だが。

 竜のアギトは確かに巨大パーティで、ギルドと言ってもおかしくないぐらいの大所帯だ。中心メンバーは貴族との依頼を主に受け他にも竜のなんちゃらという下請けのようなパーティが複数あるという。

 新人の育成にも熱心で、功績があれば主力パーティにも移動出来ると聞いた事はある。

 まあパーティごとにノルマがあるっていう話しもあるが。

 マックスが出て行ってくれるならば、いいかもしれない。

 元・騎士だし。

 面倒見なくて済む。


「それに、言ったらあれだけど、こいつとつるむのは止めた方がいい」

「そうだぞ。絶対嫌な思いもする」

「嫌な思い?」


 言うな。


「町のみんなが言ってるぜ。今だって先代が死んでからやりたい放題、店だって後継者が居るっていうのに乗っ取ったってな」

「そうだ、痛い目を見る前に離れた方がいい」

「卑怯がうつるぞ」


 言うな、言うな。

 でも、それで離れるのだったらいい。

 俺だってこの町の奴らなんか好きじゃない。


 マックスは一通り考えてから言った。


「とりあえず、お前ら殴っていいか?」

「「は?」」


 予想外の言葉に、思わず竜の爪の二人と同じ声が出てしまった。


「オレ、友達の悪口言われるの嫌いなんだよね」


 そうだった、こいつは馬鹿だった。

 同じ笑顔なのに、空気が一瞬にして変わる。

 背中に重苦しい程のプレッシャーが伸し掛かってくる。

 こいつ、威圧使ってやがる。

 騎士や貴族が当然のように使ってくるスキルだ。

 未だにコントロール出来てないのかよ。

 初めて騎士の威圧をマトモに食らった竜の爪の一人は、尻もちをついて、そのまま逃げようと後ずさろうとしている。

 そのままマックスは、何でもないかのように腰に下げている剣に手をかけようとするから慌てて止める。


「止めろ、マックス」

「止めるな、ナル。こいつら謝るまで許さない」


 貴族が平民を何人か切った所で問題になんかならないかもしれないが、俺の生活が脅かされるんだ。


「ひっ、ひぃー」


 おい、小便漏らしそうだぞ。

 何とか気を反らさないと……


「マックス、持ってきた薬草が落ちてるぞ」


 マックスは俺を見て、目をパチパチと瞬かせてから地面を見る。

 剣に手をかけた時に落ちた薬草はホーンマウスの上にちょうど落ち、大半が血で汚れてしまっている。せっかく正解のシュロキ草だったのに、もう使えないだろう。


「あ、あーーーっ」


 マックスは絶望したかのように膝をつく。


「せ、せっかく見つけたのに」


 その間に復活した竜の爪の二人が起き上がる。 


「な、何だよ、せっかく誘ってやったというのに」

「そうだぞ。後で入れろって言っても遅いからな」


 三下のような台詞を吐きながら二人は去っていった。


「何だったんだ、あれ?」

「さあ?シュロキ草はもう集めておいたから、帰るぞ」

「え、ナルが代わりに採取したのか?」

「ギルドには黙ってろよ」

「友よ、やっぱりお前はいい奴だな」


 血まみれの手で抱きつこうとしてくるから、俺はさっと避けた。

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