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ダックウィードの町1

 夜明けの烏亭の奴らが魔物を引き付けている間に、俺は無心になってバスクフラワーをむしる。

 紫色の釣り鐘みたいな形をした花は、頭を垂れてそこら中に咲き誇っている。

 開いたら中央に黄色の花弁があるのだが、俺は咲いてようが咲いてなかろうがおかまいなしにむしっていく。

 効能は紫色の花弁の方にあるから関係ないのだ。

 それに、この花は多少乱暴に扱った所で効能は落ちない。

 抽出の方法が特殊なので、他の薬師にも隠れた効能をあまり知られていない。

 だから仕分けは後にすればいい。

 さっさとしないと、いつピンクペッカーの突進をくらうか分からない。

 ピンクペッカーは鳥型の魔物で、薄いピンク色の羽毛に覆われた体に鋭い嘴をもつ。

 嘴で突かれても死にはしないが、物凄く痛い。

 バスクフラワーの生えている泉に休憩に来る魔物だ。

 一説によると、やつらの体が薄いピンク色なのはバスクフラワーを食べている影響だとも言うが、真実は分からない。

 ピンクペッカーは強くはないが、縄張りを荒らされる事を嫌う。侵入者が来ると、偵察に一匹がやってきて確認すると鳴き声で無限に仲間を呼び続ける厄介な魔物だ。

 一応居ない隙を伺ってから来たのだが、水場でテンションの上がった馬鹿な護衛が騒いだため、あっという間に戻ってきてしまった。

 魔物が来たら荒らされて、バスクフラワーが駄目になってしまう。

 そうしたら、わざわざ「夜明けの烏亭」を雇ってまで、ダンジョンに潜りに来た意味がなくなってしまう。

 何故戦えない俺が危険を犯してまでダンジョンにバスクフラワーをとりにきているかというと、バスクフラワーは雑草と同じ扱いで売っている場所が少ない。

 特に目立った効能もないし、買い取る人も滅多に居ないからだ。

 しかも俺が欲しいのは新鮮なものだ。

 行くだけなら俺だって一人でダンジョンの20階までは行ける。

 ただ、採取している時には無防備だからクズでも居てくれる方が有り難いのだ。 

 それが裏目に出てしまった。

 まあ反省は帰ってからにしよう。

 ここで規定の量が採取できない方が損だ。

 夜明けの烏亭の奴らには、一応魔物を引き付ける薬をかけておいたが、全く信用出来ないからな。


「あ、やべ。ナル一匹逃した」


 ほら、やっぱり。

 俺は地面に置いてあった盾で、咄嗟に向かってくるピンクペッカーからの直撃を防ぐ。

 ピンクペッカーは狙いを定めた俺に向かって一直線にやってきて、盾にぶちあたった。


「ぐうう」


 思わず声が出てしまうが、興奮状態のピンクペッカーは俺の事情なんて全く汲んでくれる気は全く無く、器用に片足を振り上げたまま、盾を突き破ろうと突撃しようとしてくる。

 カチカチと鳴ってる嘴が、完全に俺の事を獲物だと思っている。

 懐から護身用でしか使っていない値の張った銃を取り出そうと思ったが、それよりも早く俺の場所まで走ってきたドランが慌ててピンクペッカーの翼を斬りつけると、ピンクペッカーは切りつけたドランに敵意を向けた。


「悪い悪い」


 全く思ってないように謝るドランにため息をつきながら、盾を置いてまたバクスフラワーに向き直る。

 せっかく来たのだから、刈りつくす勢いで採取したいのだ。

 文句を言っている時間がおしい。 

 ドランの一刀によりピンクペッカーはすぐさま倒れた。

 そしてドランはまた次の獲物を探しに走っていった。

 力はあるんだよな。

 ただ、慎重さが無いだけで。

 俺はまたバスクフラワーをむしる作業に戻る。

 満足いく程採取した薬草を保存袋に入れ、空気が入らないようにしっかりと口を閉じた。

 ピンクペッカーの数は減ったが、まだまだ仲間が増えそうな気配もする。

 キリが無い。

 俺は準備が終わってから、大声を上げる。


「終わったぞ!」


 俺の声に戦闘をしていた夜明けの烏亭のリーダーでもあるドランが大声で言う。


「撤退するぞ!魔物が怯んだ隙に倒した死体もすぐに運ぶんだ!ナル頼んだ」


 俺は愛用の収納袋の中から愛用している魔物の嫌う薬草を混ぜた煙玉を放る。

 そして、予め決めて置いた撤退の位置まで死にものぐるいで走った。

 最初から投げればいいと言われればそれまでだが、この煙玉は辺りの薬草まで枯らしてしまう特性を持つ。

 強い薬品を使っているから仕方ないのだが。

 幸いにも効くのは植物だけで動物には臭いだけで無害ではある。

 奴らは喜びながらも死体を手に持ちながら撤退の準備を始める。

 俺はさっさと戻る。

 目当ては薬草であって、ピンクペッカーの死骸にはほとんど興味がない。

 薬になる貴重な素材だったら交渉して後で貰えばいい。

 俺と違ってあいつらは体力だけはあるからな。

 今回の依頼は護衛のみで、素材は必要無いと言っているから、売った金は懐に入れられるから、彼らも取り残さないように必死だ。

 それによって今日飲む酒瓶の本数が代わるからな。

 破格な依頼な筈なのに、何でこんな奴らしか依頼を受けてくれないんだか。

 と俺は自分の人徳の無さにため息をつきたくなる。

 待っているとすぐに嬉しそうな顔をした夜明けの烏亭の四人がやってくる。


「いやー、さっきは悪かったな」


 全く悪いと思っていない口調でドランが言う。

 通常の護衛依頼だったら失敗としか思えない杜撰さに、本当だよ。と文句を言いたかったが飲み込む。

 戦えない俺を護衛してくれる奇特な冒険者は少ないからだ。


「別にいいさ」

「じゃあさっさとギルドに戻ろうぜ。今日は宴会だ」


 リーダーの声にまた夜明けの烏亭の奴らが盛り上がる。

 いや静かにしろよ。

 魔物は追い払っただけで倒した訳ではない。

 害が無いと分かればすぐに戻ってくるぞ。

 注意をしようと思ったが、言っても聞かないだろうしすぐに諦めた。

 どうせ戦うのは俺じゃないし。


 

  本日のみ、あと三回更新します。

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